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凡人魔法使いの成り上がり伝  作者: R-あーる-
Brother Sister-誰が為の魔法-
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三角形の絆


Brother Sister-誰が為の魔法-




盛り上がり、時にメモを取る人間がいる。賞賛ともとれるどよめきの中、皆の視線の先に居るのは一人の男子。

同年代の中では比較的華奢な部類に入るであろうその体は、縦横無尽にこの周囲の見渡しが効かない環境を飛び回っていた。


「囲め囲め!!!あいつの動きを封じるんだ!!!」


瞬く間に一対三の肉弾戦。圧倒的人数不利に立たされたが、彼の動きは衰えない。

彼を捕らえようとする同じ男子を一人ずつ確実に気絶させていく。その鮮やかな体術は一切の隙も無く、人数不利を全く感じさせない。


「…おい、いったん退くぞ!今のは何とかなったが、次もどうにか出来る補償はねえ!」


今し方一人で三人も相手にしておきながら、その思考は冷静そのものだった。先ほどの戦闘も、こちらに注意が行かないように上手く立ち回っていたが、彼の考えは既に次の展開の構築に移っていた。


「元はと言えばあなたが敵チームに見つかったのが乱戦の発端だと思うのですが!?」

「お前がちんたら魔法構築に時間掛けてるから俺たち二人が索敵に回れなかったんじゃねえか!!!」

「な、辺り一帯まとめて吹き飛ばせって言うんですか!?もっとまともな言い訳は無いんですか!」


言い争う二人を背中に感じながら周囲を警戒する。二人も、言い合いを続けているが既に臨戦態勢に入っていた。


「とりあえず二人とも、いつもの感じでいけそう?」

「ああ。下手こくんじゃねえぞ、お姫様?」

「最悪あなたを囮にして逃げると前から言っているじゃありませんか。もっとも……」


周囲に見える、3チーム合計9人の敵。俺の方からそれだけ見えるって事は、二人の方にはもっと居る。でも問題は無い。


「……この一月、私たち負け知らずなんですけれど。」

「頼もしい…行くよ!!!」


俺の合図と同時に、二人が展開。俺ともう一人の男子が女子と相手の間に割り込む形で戦闘を形成する。圧倒的な体術と、高い魔法能力で次々と相手を無力化している。そんな中でも、的確に彼の攻撃をかいくぐり、こちらに攻撃を仕掛けてくるものも中には居る。

その相手達は十中八九、女子の方を狙って攻撃を仕掛けてくる。俺たち三人の戦闘の要はこの子だ。それは相手方も十分に理解しているようだった。だからといってみすみす攻撃を許すわけには行かない。彼女の魔法構築が完了するまで、彼女への攻撃は全て俺が防いでみせる。


「ありがとうございます!」

「いいえ!あとどんくらいでいけそう!?」

「二十秒ほどで!いけますか?」

「楽勝…!」


いや、正直楽勝では無い。現状俺一人で四人の魔法を相手にしている状態だ。もう一人は近接で何人かの気を引いているから、こっちに加勢は難しい。だったら、

俺一人で耐えるだけだ。

俺は自信の魔力が底を尽きたことを認識したが、すぐさま次の魔法を発動して応戦する。

ついでに火力も上げて相手してやるよ!

火炎の魔法と風の魔法を動じに発動し、相手を炎の渦に閉じ込める。無論そのままおとなしくしている敵では無い。すぐに水流の魔法で炎を消し去るが、その手は読んでいた。

雷の魔法を打ち込み、水浸しになった相手の周囲を帯電の罠で囲む。これで簡単に相手は動けない。植物魔法での絶縁でもしないかぎり……


「…って、普通に飛んでくるじゃん。」


飛行魔法。魔力消費の激しい魔法だが、この中に誰か適性持ちが居たのだろう。ご丁寧に四人全員空中から責めてきている。

まだ彼女の魔法は構築が終わっていない。この魔法が発動さえすれば、相手が空中に居ようとどこに居ようと関係ないのだが、その魔法も発動するまでは完全に手薄になるという欠点を抱えていた。

当初の予定では彼女を一人隠れさせ、二人で索敵兼陽動という形を取ろうとしていたのだが、それでは仕留め損なったときのリスクが大きいと言うことで、あえて彼女も前線に立って貰っている。そうすることで敵も彼女を仕留めようとしてくるし、俺たちも敵の狙いがわかりやすくなると。そう提案したのは他でもない彼女自身だった。

前線に立って敵の標的となるのはそのまま危険が伴うと言うことにつながる。そんな危険な策を思い切りよく提案してくるのはなぜなのかとも思ったが。

「あなたたちがいれば、私は何も怖くありません。」

そう返してくれただけで、俺たちはもう何も言い返すことは無かった。

信頼されている。

それだけで限界を超える理由になる事を、一月前に彼女が証明してくれた。

だったら俺も、それに見合うだけの動きをして見せよう。


「全開でぶっ放すッ!!!」


魔法適性。ウィザードを目指す人間が必ず持っている、魔法に対する相性のようなもの。攻撃向きの適性や、属性に対する一極集中の適性が戦闘職であるウィザードの才能だとされている。そんな中、俺の適性は『魔法持久適性』効率よく魔法を打てるだけという、とてもウィザード向きとは言えない適性だった。だがその適性は、限界を超えたときに新たな適性となって俺の武器となる。


「半日分の魔力…くれてやるよッ!!!」


俺のこの『自身の生命力を魔力に変換し限界を超えた魔法を打てる』適性は、この一月で練度を上げた。今までなら、この適性を使って放出する魔力は0か100、つまり出すならば最大値のみだった。しかし他のクラスメイトの協力や日々の鍛錬の甲斐もあって、ある程度大雑把に放出する魔力をコントロールできるようになった。毎回適性を使うたびに三日四日動けなくなるのでは話にならない。身体能力も向上したので以前よりも魔法を使用することによって生じる疲労は少なくはなっているが、それでも俺はこの中では圧倒的劣等生。一瞬たりとも、遅れてはいけないのだ。

樹木魔法を展開し、周囲を囲む。これで相手が進行を止めてくれればいいのだがそんなことは無い。即座に風魔法や切断系の魔法で樹木を振り払ってきたのであらかじめ魔法を仕込んでおいた樹木の内部から炎魔法を発動させる。空中にちりぢりになった木片が次々に燃えていき、敵の視界を塞ぐ。当然こちらから相手の位置も見えなくなるが、この敵達の魔力量ならきっと…


「当然…消してくるよなぁ…?」


水流の魔法を乱発して、あっという間に炎の幕を消失させてきた。

だが、それでいい。この一瞬、こいつらの意識はこの炎の幕と俺にだけ向いていた。

その刹那の瞬間を、あいつが見逃すはずが無い。


「まーた無茶な魔力使いやがったな、シュティム…!!!」

「これだけやらないと、カイルが突っ込めないだろ…?」

「ったく、馬鹿だよなお前。けど……」


完全に相手の意識の外から、その高速の魔法は発動した。大きめの木片と建物を利用して空中の敵全員に身体能力のみで『触れていく』

俺の信頼が、確信へと変わる瞬間だ。


「悪くねえ作戦だ!」


飛行魔法が解除され瞬く間に地面へと落ちていく敵達。彼の適性が発動した証拠だった。


「さあ、我慢比べの時間だが、どうやらそう長くは掛からなかったみたいだなぁ。」


あの手この手で魔法の発動を試みる相手チームだが、それよりもカイルの押さえつける力の方が勝っているようだった。

『魔封じ魔法適性』彼が触れた者の発動魔力の合計が彼の使用魔力を下回っていた場合、その魔法は発動しない。

四人も触っているのにその合計魔力を上回るとか。身体能力、頭の回転速度、魔力、分かってはいたけど、彼は超エリートだ。

だがその彼を越える、まさしく『才能』を持った者も一人。


「姫のお寝坊魔法はようやくお目覚めか、セルエナ。」

「いい加減その姫って言うの止めてくださいと言っていますよね?」


彼女の、セルエナの魔法構築が完成した。

即座に魔法の発動。強烈な閃光が周辺一帯を包み込む。

光が晴れても、さすがに相手は臨戦状態を解いていない。


「広範囲に魔法を発動後、着弾した任意の相手を私の魔力で覆い込む…」


静かに淡々と、その場に彼女の説明が響き渡る。


「光の魔力を振り払えるのでしたら、なんてこと無い魔法です。」


『光魔法適性』通常の人間では生涯の魔力の全てを捧げても発動できるかどうか分からないほどの強力な始祖の魔法、光魔法を無条件で発動できるという、神に選ばれし人間のみが使える魔法適性。


「通常の身体能力が無くなったわけではありませんが、この中にカイルさんよりも身体能力が高いと見受けられる人は居ませんでしたので…」


事実上の相手の無力化、相手の戦意はみるみるうちに無くなっていく。


「チェックメイト、だな…」

「そこまで!」


職員の合図で、今回の訓練は終了を告げられた。

その合図を聞いてただ一人、俺は適性の反動で天を仰いで倒れてしまった。


「大丈夫ですか、今回復魔法を…」

「いや、大丈夫だよ。ありがとうセルエナ。」

「ホント、危なっかしい戦闘スタイルだよな。」


「ほれ」と差し出されたカイルの手を掴み、立ち上がる。まだ若干ふらふらするが、それでも気絶はしていない。確実にこの適性をものにしてきていた。

それでも、才能のある人たちとの差はなかなか縮まらない。

多対一の状況下においての模擬訓練。

俺たちは数日前から始まったこの訓練で、多人数側でも少人数側でも一度も敗北していない。だがそれも、何の因果か再びチームを組むことになったこの二人がいたから。

二人の才能で勝利へと運んで貰っているだけに過ぎなかった。


「これでも毎回ちょっとずつしんどさも減ってきてるんだぜ?」

「それは私にも分かります。シュティムさんの魔力量は一月前と比べてもかなり母数が上がっていますから。」

「それは、まあ、そうだけどよ。毎度毎度自分の被害度外視だからよ、ヒヤヒヤするんだよ。」

「何だよ、心配してくれてるのか?カイルは優しいなー!」

「はあ?そういうんじゃねえっての!」

「何でか分かりませんが、ムカつくのでカイルさんを攻撃して良いですか?」

「おいセルエナ何言って…っておい!?マジで魔法使えねえじゃねえか?!」

「先ほどの魔法は『着弾した任意の相手』に効果を付与します。あなたも範囲の中にしっかり居ましたから。」

「はぁ!?おい、馬鹿なこと言ってないでさっさと解けよこれ!」

「いやです。」

「こぉのクソアマがぁぁぁ!!!」


戦闘に勝利を収めても、二人のこの言い争いは無くならない。喧嘩するほど仲が良いと言うが、たしかに俺はこの二人の言い争いにどこか心を救われていた。


「さ、今日の訓練は終わったことだし、食堂に行こう!」


言い争いから殴りかかりそうなカイルと、俺の後ろで煽り続けるセルエナをなだめながら、今日の訓練は終わりを告げた。



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