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凡人魔法使いの成り上がり伝  作者: R-あーる-
Shiny Destiny‐魔法に愛 (毒)された少女‐
21/41




地響きから一分もしないうちに私と彼は走り出していた。

といっても、走り出したのは彼が最初であって、私はその後をついて行っただけに過ぎないが。


「方向的に、森林グラウンド辺りか!?」

「は、はい!私の魔力感知も、その方向から感じています!」


先にこの魔力を感知したのは私だった。

彼に至っては、この魔力を感知すら出来ていないような反応をとっていたところを見るに、彼の魔力感知が私より早かったなどと言うことは無いはずだった。

それなのに。

魔力を感じるような内容を伝えた途端、彼は迷うこと無く走り出した。

方向なんて全く分かっていない、ただ彼がまっすぐに走って行ったのは寮の方向。

彼はこの地震で、他の生徒の身を案じていたのだ。

そんな彼に、私も釣られて動き出していた。


「でも、この反応は……!」

「ああ!グラウンドが近づいてきたからだろうな、俺もなんとなく分かる!昼間のあいつによく似てやがる!」


もし彼のこの言葉や、私の感知が正しかったとして、森林グラウンドにヤツがまたいたら?

私と彼、そしてもう一人のカイルは、日中のあいつに惨敗を喫している。

仮に私たちがグラウンドに到着したとして、私たちに何が出来るんだ。

そんなことを考えているうちに、私の足は自然と速度を落とし、そして止まってしまった。

それに気づいた彼も振り返り立ち止まる。


「…騎士ナイトを呼びましょう!私たちが行ったところで、今日敵わなかった相手に勝てるはずが……」

「……」


私たちが行ったところで勝てるわけが無い。

それは彼だって分かっているはずなのに。

それなのにどうして、彼はこんなにも迷わずに走り出せたのだろう。


「…この地震の大きさなら、ヴァイラさんがいなくても他の職員の人が気づいてる。その誰かがきっと手の空いている騎士を呼んでくれるはずだ。」

「だったら、私たちが行く意味なんて無いじゃ無いですか…!」

「だとしても、だよ。」


彼は下を向く私に歩み寄る。


「昼間の戦闘で、俺たちは確かにあいつに敵わなかった。圧倒的だった。けどセルエナの魔法は間違いなくあいつに対して有効だった。」

「そ、それは…」


それは光魔法の特性上、相手が魔法を使った時点である程度の有利をとれると言うだけのことだ。

圧倒的な実力差の前には、それも上から押しつぶされる。


「倒す必要は無い。勝てなくてもいい。被害が広がる前に足止めが出来れば良いんだ。騎士が到着するのに時間がかかってしまったときのために。そのためには、セルエナの魔法が絶対に必要だ。」

「私の、魔法……」

「ああ。期待してるぜ、光魔法。」


彼は私の手を取り、強く握るとすぐに先に走っていく。


期待している


この魔法は、そんな代物では無い。


もし、その期待を裏切ってしまったら?

もし、この元凶に光魔法が通用しなかったら?

もし、私の魔法を信用したばっかりに彼の身に何かあったら?


考え出すときりが無い。


悪い未来ばかり浮かんでしまう。

そんな最悪のビジョンを振り払うために、彼に追いつこうと必死で足を動かす。

彼の走りは私でも追いつけるほどの速度。

日中の動きを見るに、彼はもっと早く走れるだろう。

問題への対応としては十分に速い速度だが、体力を温存しているようにも見える。

それはきっと、彼が使う魔法の適性と関係しているに違いない。

彼は自信の適性を『自信の体力と引き換えに限界を超えた魔法を扱える適性』だと答えていた。

その理屈なら、彼がこの速度で走るのにも納得がいく。

現地に着いたときに体力を使い切ってしまっては、彼本来の能力を発揮できない。

彼はそのことを自分で理解しているのだ。

とても戦闘職向きとは言いがたい適性。それでも彼はこの状況に対して、自分なりの最善を尽くそうとしているのだ。

そんな彼が、期待してくれた私の魔法。

その扱うことすら躊躇するような魔法で、私は最善を尽くせるはずが無い。

走っていても迷いが振り払われることは無い。

それは余計に黒く、私の思考を犯していく。


「———セルエナ!避けろっ!!!」

「え———」


見上げた先には、私の体の何倍もあるほどの巨大な落石。

反応が完全に遅れた。

魔法を出して落石を砕く余裕が無い。

思わず目をつむった私の体は、


ものすごい慣性に引っ張られながらも、落石の少し横に移動していた。

彼が私を押しのけてくれたのだ。


「っぶねえ……身体強化魔法でもギリギリだったぜ。」

「あ、ありがとうございます…」

「おう…それよりも……」


彼の視線を私も追う。

その視線の先には、

巨大な大木の化け物が、森林スタジアムから生えるようにしてうごめいている。

その動きは、間違いなく意思を持って動いていた。


「何だよあれ……」

「分かりません…ただ、あの化け物からは、昼間の男と同じ魔力を感じます。」


大木の中心から、その気配を色濃く感じている。

それは私以外にも分かるだろう、どす黒い魔力が表面に浮き出ていて、それが赤黒い光となって周囲に漏れ出していた。


「ああ。あの真ん中の赤い光、あれがあいつの根源か。」

「おそらくは。あそこだけ魔力の濃さが段違いです。」

「んじゃ、狙うならあの一点って事か。」

「ええ。ですが……」


その不気味な光を取り巻くように、無数のツルや木の枝がひしめき合っている。

不定期に動くその物体は全くもって規則性を感じられないが、無機物にしては統率のとれた動きをしていた。


「あの木の枝をかいくぐって、中心に攻撃を当てるのは難しいのでは…」

「ま、試してみようぜ!」


彼はそう言うと炎系の攻撃魔法を大木の化け物に対して放った。

彼の判断は正しかった。

元が木の怪物なので、攻撃が被弾した場所から瞬く間に一定範囲が燃えていく。

しかし。


「……そりゃ、そう簡単にはいかねえよな。」


炎が燃え広がるよりも早く、大木の枝やツルが再生していく。

燃えた場所から再生していくので、再生後は量が数倍となっている。

うかつに攻撃を当てるのは控えた方が良いかもしれない。


「じり貧、なんてレベルじゃ無いな…」

「…なんとかして、あの中心の核が剥き出しになれば……」


あの魔力量を見るに、恐らく構造そのものが魔力に依存した物。

私の光魔法でなら消滅までは無理でも、押さえ込むことなら可能かも知れない。


「…核が剥き出しになれば、何とか出来るのか?」

「はい、おそらくは。それでも、ヴァイラ様や他の騎士が来るまでの足止めに過ぎませんが……」

「いいや、十分だ。そもそも、焼き払っても再生するんじゃ、俺一人になった時点で詰んでる。」


彼は全身に身体強化魔法を発動させている。

まさかこのまま特攻するつもりなのだろうか!?


「む、無謀です!あの魔力量は、明らかにあなたの遙か格上の存在…」

「それでも、セルエナがなんとかしてくれる。言ったろ、期待してるって。」

「けど……!」

「それに、さっきの火炎魔法で周囲が一瞬照らされたときに、見えた。」


彼が指さす方向には、学園の生徒達の姿が見えた。

この学園に入学できただけあって、あの怪物に何が有効なのかを直感で皆理解している。生徒総動員の火炎魔法が怪物の再生と均衡を保っているのだ。このまま、あの怪物が再生に手を回している間に私が光魔法をぶつけることが出来れば、あるいは……


「……くれぐれも、死なないでくださいね。」

「当たり前だろ。」


彼の周囲に魔力が凝縮される。その目はまっすぐ、巨大な怪物を見据えていた。


「それじゃ、託したぜセルエナ!」


そう言い残して、彼は目にもとまらぬ速度で怪物に接近する。

私の意図を直接聞いている彼は、無駄なく中心の光を目掛けて攻撃し続けている。

だが、火力が足りない。

そうしている間にも少しずつ均衡が無効に傾き始めている。

魔力感知の範囲内に、騎士の反応は見られない。

どうかこの怪物の魔力に当てられて感知が鈍っているだけだと信じたい。そうで無ければ、数分もしないうちに全滅してしまう。

私も何かしなくては。

核が露出したときに正確に魔法で射抜けるように光魔法を構築する。

最短で一直線に、相手を文字通り射抜く、神話の神の弓の形を模した魔法で。

瞬きを忘れ、呼吸を忘れ、ただ一点に集中する。

だが、震えが止まらない。

魔法の反動などでは断じてない。

ただ、緊急事態とは言え、シュティムさんや他の生徒が隙を作ってくれている。

昼間とは違って、狙いを定めて『攻撃をしなければならない』

外せば、ここに居る全員の命が危険にさらされる。そんなことを考え続けているうちに精神が揺らぐ。

魔法は精神状態が直結する。

一度は構築に成功した魔法も、私の弱さがその魔法を消した。

こんなの、私には出来ない。

このままシュティムさんの元へ行って彼と一緒に火炎魔法を打ち続けよう。

私の魔力量なら、他の生徒よりは戦力になるはずだ。

そう思って駆けだした。

前線では、彼がさながら流星のように飛び回り、なんとかして中心に攻撃を当て続けている。だが今一歩、本体を剥ぎ出すには至らない。

やはりこれが正しい。

私はこの魔法を使えない。

大事な場面で託されても、それを実行できない。

彼が期待してくれたこの魔法を、私は使うに値しない。

そんな考えが頭の中で結論を作ったとき。


「え———」


私の目の前に、先ほどまで飛び回っていた彼の体が降ってきた。



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