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凡人魔法使いの成り上がり伝  作者: R-あーる-
Shiny Destiny‐魔法に愛 (毒)された少女‐
20/41




「……っ!」


飛び起きる。

どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。

少し頭を冷やそうと思って、寮の中庭を歩いていた所だった。ベンチに腰掛けて今日のことを思い返しているうちに、そのまま。


「……」


日中は暖かくなってきたとはいえ、まだまだ夜は冷える。

風邪でも引かないうちに寮に戻ってしまいたかった。

けれど、まだ恐らく寮では今日の話題が飛び交っていることだろう。


「…やっぱり全然、なんともない。」


自らのか細く頼りない手を星空にかざす。その言葉は、自然と漏れ出た心からあふれる愚痴。

およそ一年ぶりに本格的な光魔法を使った。

その便利さから、自分一人の時に日常生活の些細なことで使うことは時折あったが、

あれほど大規模で、しかも戦闘目的で使用したのは、高等部の林間学校以来。

普通、一年も使わなければどんな技術だって衰える。

怪我で療養していた戦士が、久しぶりに戦場に立てば、周りの人間よりも早く疲弊するだろう。

魔法も例外では無い。

私たちのような人間にとって、魔法も体力や筋力の一部。

使い込めば上達するし、放っておけば錆びていく。

けれども、私の光魔法は、それに囚われなかった。


「普通に、使えちゃった…」


どれだけ離れていても、ふとした瞬間に纏わり付いていることを思い出させてくる、忌々しい毒。

隠し通そうと思っていた。今度こそうまくやろうと。

結果は、目も当てられないような結果になってしまったけれど。


国の上層部の人間は、もう私を『特進』させようとしているらしい。

昼間の事件の後、治癒騎士ヒールナイトのヴァイラ様から聞いた話だ。

このまま行けば、来年には何の障害もなくこの学園のトップ層に座れると。

なんてありがたくないお話だ。

丁重にお断りしてほしい旨を彼女に伝えた。

だが無駄だろう。

「神の御業」「希望の光」「福音の魔法」

その他何だかんだといろいろもてはやされている。

私の「魔法」は、この国にとっての重要な戦力だ。

当然だろう。

全ての魔力を従えることの出来るらしい魔法、そんなもの、利用せず遊ばせておくのは愚策。

そんなことだろう。


けど私は、そんな希望でも、福音でも、ましてや神でもない。

私の光魔法は、どす黒い思いに囚われた世界で一番情けない魔法。

こんな魔法、極めたくもないし、もう二度と使いたくも無いと思ってさえいる。

今日だって、結局ヴァイラ様の助けが無ければ、私はあの二人を守り切ることさえ出来なかった。

自分からこの毒を見せびらかしておいて、なんて、


「情けない。」


私は弱い。




「……帰ろう。」


きっと宿直の先輩も私のことを探している。事件の当事者だから。

一番今危険な目に遭ってもおかしくない存在だから。

重い腰を浮かせ、帰路に着こうとしたとき。


「おう、やっと見つけた。」


その声は、聞き覚えのある声だった。今日初めて聞いた声だけど。


「シュティム、さん…?どうしてここに…」

「探してたんだよ、セルエナを。」

「私をって……それより、体は大丈夫なんですか。」

「大丈夫、漁師育ちなめんな。」


私の今し方立ち上がったベンチに彼は腰掛けた。

よく見ると、その靴や服に木の葉や泥はねがついていた。


「……はぁ。一体私がどこにいると思ったのですか。」

「んー、最初は学園内の森かなーって。俺もちっちゃい頃、よく母さんに叱られて逃げ込んでたからさ。」

「別に私は、叱られたわけでは……」


この人は、よく分からない。

今日が初対面なのは確実だ。出身や、彼の身分を考える限り、幼少期や物心つく前から出会っていることはあり得ない。

それでも、この人に感じる何か…

私の、光魔法も、何かこの人に感じているような気がする。


「っていうか、すげーなセルエナ。」

「え?」

「光魔法。俺、初めて見たよ。」

「……」


一瞬の警戒。

分かっている。

この人はそんな人では無いことくらい。

けれども今までの経験が私にそうさせる。

私の光魔法を初めて見た人間が並べる言葉は二種類。

恐怖かごますり。

今までがそうだったのだ。

仮にこの人がどんなにいい人だったとしても、光魔法は使えないだろう。

それどころか、今日の話しを聞く限り、この人に備わっている適性はおよそ特別なものでは無い。

大なり小なり、嫉妬の対象にならないと断言は出来なかった。


「神様に選ばれた、本当に生まれつきの適性ってヤツなんだろうなぁ。本当にすげーよ。」

「……あなたも、やはりこの魔法を妬むのですか。」


うらやましい、素晴らしい、天才だ…

もう聞き飽きた。

そんな表面だけの言葉。

裏側を嫌でも探ってしまう言葉。

この人からも、この優しい人からもそんな言葉が出てきた。


「妬む?何でだ?」

「…光魔法は、全ての魔法の根源。自分で言いたくはありませんが、ウィザードとしてこれ以上無いほどの最高適性かと。」

「んー、確かにそうかもな。けど、俺のこのうらやましいって言葉は、光魔法にじゃなくて、セルエナに向けたつもりだったんだけどな。」

「私に…?」


彼の声色は、とても明るく、温かかった。

分かってる。何度も自分に言い聞かせている。

この人に悪意なんて微塵も感じ取れない。

光魔法の適性を持つ私に備わった力、自分に向けられた他者の攻撃意識を鮮明に感じ取る力、

この人からは、攻撃やそんな意識は全くない。

それでも私は、彼の顔を見ることが出来ない。

うつむいたまま、小さな自分の拳を睨むことしか出来ない。


「そう。たとえばそうだな…セルエナって、一本釣りってしたことあるか?」

「…あるわけ無いじゃないですか。第一、私は普通の釣りすら経験無いです。それがどんなものかは知識としてはありますが。」

「じゃあ十分。あれってさ、ものすごい筋力いるんだよ。そりゃそうだよな。海の波は絶えずうごめき続ける、魚も生きるために必死で逃げる、船は揺られて足場は不安定。そんな状況で、釣り竿一本で命を引っ張り上げる。簡単な仕事じゃ無い。」

「シュティムさんは、漁村の育ちでしたよね。でしたらやっぱり…」

「ああ、最後の最後まで一匹も釣り上げられなかった!」

「え……」


想定外の返答。

思わず顔を上げて彼の方を見てしまった。

いや、そこは一本釣りの難しさを語る場面じゃ無いんですか?

しかし彼の顔は屈託無い笑顔だった。

そこに未練など全く感じていないようで。

それでもどこか昔を懐かしむような顔で。


「けどさ、俺の友達にライってヤツがいてさ。そいつは嵐の大波が容赦なく船をたたきつけるときでも、決してぶれること無く魚を釣り上げてた。」

「そ、それは…想像出来ます。その方は、とても体格に恵まれていそうですね。」

「当たり。趣味も武器とか小型の兵器を集めることでさ、見た目通りなんだけど、その割にすごい優しいヤツだった。」


その話をしている彼の目はとても輝いていて、年相応の無邪気さを感じさせる同時に、

どこか引っかかるような物言いと雰囲気。


「……だった、なんですね。」

「…ああ。本当に最後まで良いやつだった。」


恐らくそのライという人間はもうこの世にいないのだろう。

話しぶりから察するに、彼はとても仲が良い友人だったに違いない。

そんな人が亡くなって、思い返すだけでも私なら耐えられないのに、

この人は強い人なのかも、と私は思わず再び目を背けた。

彼からも、そして自分自身の弱さからも。


「…どうして、そんな話を私に?」

「いいや、実はまだ話は終わってないんだって。」


続く彼の声色は、亡くなった人を思い返すような音色では無く、

つい昨日も遊んだ友達のことを話しているかのような、まるでそのライという人間がまだ生きているかのような、

そう感じさせる不思議な雰囲気を纏っている。


「俺はさ、初めてライの一本釣りの技術を目の当たりにしたときに、うらやましいって言ったんだ。それは確かに少なからず嫉妬や羨望の意味が入ってたのかも知れない。けどあいつはさ、そんな俺にこう返したんだ。」


彼は、彼の声色は、

今の私には眩しすぎるくらいに輝いていた。


「『俺はお前がうらやましいぞ』だとさ。人間誰しも、他の人には無い自分だけの武器を持ってるんだって。」

「…その武器が、たとえ諸刃の剣だったとしても、それを誇れと?」


この人と同じようなことは、他の人も何回か言われてきた。

持って生まれたものを大切にしろだの、

それがどれだけ恵まれたものか分かっているのかだの。


「いや、そういうことじゃなくて…」

「あなたには、分からない…持ちたくも無かった才能を無理矢理持たされた人間の気持ちなんて、何も持っていないあなたには分からない!!!」


叫び声に、二人の間に沈黙が走る。


「…!ごめんなさい、私、今日はもう寮に戻ります……」

「おい、セルエナ———」


その空気にいたたまれなくなり、その場を去ろうとする私に、彼は何かを言いかけた。

その彼の言葉を遮るかのように、

地を鳴らす轟音が響き渡る。

いや違う。

鳴り響いているのは地面そのものだ。

地面が鳴動し、揺れ動いている。


「な、何だよこの揺れ!?」


私は倒れそうになる体をつなぎとめ、彼の方を見る。

さすが元船乗りだ。

突然の事態に動揺こそしているが、その体はほとんどぶれていない。

これも彼の武器か、等と考えていると、

全身に悪寒が走った。


「…!?これは……」


何度か経験したことのある悪寒。

そしてそれは、今日の日中にも感じたものだ。

背筋が凍るような、気味の悪い感覚。

あのとき、ウロヴォロスの刻印のあの男と対峙したときに感じた感覚に酷似していた。

これは、光の魔力が私に警告しているのだ。


災厄が近づいている———




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