オリエンテーション
オリエンテーション
エンタリア魔法学園に入学して二日目。
初日を怪我の治療で出席できなかった俺にとっては、実質今日が学園での初日だ。
そんなドキドキわくわくの最初の授業。
「だからぁ!なんで自分の適性くらい喋れねえんだって言ってんだよっ!」
「言いたくないものは言いたくありません!さっきからそう言ってるじゃ無いですか!」
俺は激しい言い合いの間に挟まれていた。
時間は一時間ほど遡る。
この学園の授業は基本的に昼から始まることがほとんどらしく、
ゆったりとした午前中を過ごして授業の行われる学舎棟へと向かった。
道中で昨晩知り合ったカイルを見かけたが、何やら女性と話していたので話しかけることが出来ず、俺は結局一人で寮からの道を歩くことになった。
カイルのあの気配りの出来る性格だから、女性の知り合いが学園内に一人二人いてもおかしくないだろうし、別にうらやましくなんて無い。
ホントに。
うっすらと嫉妬心を燃やしながら自らの教室に行くと、広々とした教室の前方にある黒板に、何やら人だかりが出来ていた。
全員クラスメイトのようだが、あまりの人数の多さ、黒板を確認することが出来なかった。
仕方なく、人数がはけるのを十数分待って、黒板を確認すると
「各員、動きやすい服装で森林グラウンドへ」
とだけ書かれていた。
森林グラウンドとは、この学園が保有する敷地の中にある演習場の一つだ。
ウィザードとは様々な場所での戦闘を行う可能性のある職業。
その中でも特に戦闘する可能性が高いシチュエーションである、
森林、渓谷、城下の三つのグラウンドがメインとして存在する。
今朝、寮で食事をとっている際に室内にあった張り紙で確認した知識だった。
三つのグラウンドの中でも森林グラウンドは、
視界の悪い状況下において、いかに臨機応変に対応できるかを見られる、だったはずだ。
そこにいきなり集合。
そんなところでオリエンテーションでもするのか?
いいや、そんなはず無い。
十中八九いきなりの戦闘訓練だろう。
これも若干ズルに近いが、昨晩に知っていた。
宿直の先輩が歓迎記念にと特別に教えてくれていたのだ。
最初の方の授業でいきなり戦闘訓練がある、結果を出す人間はそこで必ずと言って良いほど活躍していると。
今日がいきなりそのタイミングなのだろう。
オリエンテーションや他の座学なら教室で十分だ。
どんな訓練が待ち受けているのか、戦う相手は学生同士なのかと考えているうちにグラウンドに到着していた。
俺が到着したときにはすでにほとんどの学生は集合し、何やら番号が振り分けられていた。
俺も到着早々、教師か職員と思わしき人物に番号とそれに対応した色のひもを渡される。
と言うかまず、職員の数が尋常じゃ無い。
生徒一人に対して三人はいるんじゃ無いかと思うほどにいる。
その中には昨日出会った、回復室に案内してくれた人や、ミス・アンドラの姿も見える。
授業開始直前、
少々慌てた様子でカイルがやってくる。
「おお、やっぱ多いな。これ一クラスかよ。」
「カイル、何か知らないか?今から何が始まるかとか。」
「わりぃけど、授業に関しちゃ俺は何にも知らねえ。黙って職員の案内待ってようぜ。見たところ、俺ら同じ番号みたいだしな。」
カイルの手には、俺の持っている物と同じ色のひもが渡されていた。
おそらく、これから行われるのは戦闘訓練。
だが、それならば、
このひもは一体何の意味があるのか。
そして、なぜ俺たちの最初の授業は森林グラウンドで行われるのか。
疑問が尽きない。
「全員集まっているか?」
一人の職員の声に、ざわついていた生徒達は一瞬で静まる。
「これより、皆には戦闘演習を行ってもらう。」
しかし、その次に発された言葉で生徒達は再びざわついた。
「戦闘演習!?」「本気かよ。」「最初の授業で!?」
などと、生徒目線で言うならば至極真っ当な意見ばかりが飛び交う。
「…やっぱりか。」
「うん。昨日の先輩の言うとおりだった。」
やはり行われるのは戦闘の授業。
しかし。
「でも、訓練じゃなくて演習、だった。どう違うんだ?」
「もう少し聞いてようぜ。そのうちしっかり説明してくれるだろうからな。」
俺は集団の後方からカイルと共に職員の話を聞き続けた。
「いきなりで皆も混乱しているだろう。安心してほしい。今回行うのは戦闘演習、あくまで戦闘を交えた簡単なゲームだ。今年度はこれをオリエンテーションとする。各員の仲を深めるための行事だと思ってほしい。」
そういうことか。
戦闘訓練というのは、文字通り実戦を想定した本気のものらしい。
怪我や気絶は当たり前、最悪の場合死人が出ることもあるという。
そんな危険な授業を、いきなり入学したての俺たちにやらせるはずは無いとは思っていたが、
まさかこれがオリエンテーションだとは思わなかった。
「…ここから先の詳しい説明は、今回の演習の発案者であるこの方にしていただく。」
そう言って職員が一歩引き、代わりに前へ出てきたのは。
「はい、任されました———」
見覚えのある小柄な身長、
聞き覚えのあるふわふわとした甘い声、
そして今となっては容易に認識できる、それら全てをかき消すほどの、圧倒的オーラ。
「こんにちは。治癒騎士のヴァイラと申します。」
ウィザードの最高峰の一人がそこにいた。
「いいですね、皆さんやる気に満ち満ちていて。なんだかこちらまで頑張っちゃうぞーって気持ちになります。」
相変わらず話の内容がぼんやりとしているが、その印象で彼女を軽んじる人間はこの場にいないだろう。
ここにいる全員、彼女が異常なほどの強さを持ち合わせていると言うことは周知の事実だ。
特に俺はそれを一度、いや、騎士の強さという点で言うならば二度、
間近で体験している。
「…おーおー。騎士自ら発案?こりゃすげーオリエンテーションだな。」
「油断しない方が良いよカイル…俺は、あの人の試験を一度受けてる。」
「…マジか。」
「うん。当時の俺だと、自分を気絶まで追い込んでやっと通過できるような試験だった。今回も彼女が発案なら、そのくらいは覚悟しといた方が良い。」
選抜試験。
俺はあのときに自分の実力を知れた。
同時に適性も、俺のそれがウィザードに向いていないと言うことも伝えられた。
けど、俺だって日々の鍛錬を怠ってきたわけじゃ無い。
あの日の俺より、きっと強くなってる。
たとえどんな過酷な試験が来たって、
今の俺なら乗り越えられるはずだ。
「はい、皆さんにやってもらうのはこれ。『尻尾取り』です。」
…数秒、空気が固まった。
全員、地獄のような過酷な内容を想像していたからこその反応。
告げられた幼少の遊びに、脳がついて行かなかった。
「あ、あれ?あれれ?み、皆さん?ここ、盛り上がるところですよー?」
わたわたと両手を振る彼女を見るのは、なぜか安心するが、今は正直それどころじゃ無い。
「…シュティム。」
「ま、まだ!まだ説明が続いてるから!」
きっとここから、敗北者は即退学とか、何かそんな感じの過酷な試験内容が…
「ルールは簡単。三人一組でチームを組み、森林グラウンドに同時に3チーム、チームごとにバラバラな場所に配置してスタート。全員の尻尾が無くなる、体から離れた時点でそのチームは負けとなります。」
「……」
普通だ。
至ってごく普通、幼少期に俺も村の皆とやった尻尾取りだ。
相違点があるなら、範囲が圧倒的広大という点。
しかし、
「もちろんここは魔法学園。魔法の発動は全ての魔法が自由です。相手の命を奪いさえしなければ、気絶束縛何でもありです。」
絶妙におっかない感じが試験の時のヴァイラさんを彷彿とさせる。
確かに彼女やミス・アンドラがいれば多少の怪我は問題ないかも知れない。
だが、いくらここにいるのが選ばれた人ばかりだとは言え、
中にはまだ魔法をコントロールできない人間がいるかも知れない。
俺だって、完全にコントロールできるかどうかと言われれば微妙なラインだ。
おぼろげに残っている試験の記憶がよみがえる。
俺は100パーセント自分の力で合格したかと言えば、はっきりと言い切れない。
火事場の馬鹿力での合格。
俺は未だにそれが悔しくて仕方が無いのだ。
…とにかく、そんな人間が一人でもいる状況でのこの試験は、
いささか危険とも思うが。
「ですが皆さんもきっと思っていることでしょう。危険なんじゃ無いかと。確かに皆さんは魔法に選ばれた方達ばかりとはいえ、この学園での魔法の授業を受けていない、そんな人が魔法を使って戦闘をするのは危険が大きい…」
どうやら、その辺りは配慮されているような口ぶりだった。
「そこで特別ルールです。今回の戦闘演習は、相手への故意の攻撃魔法を禁止します。罠系、拘束形を除く、相手を直接狙うような魔法は一切禁止です。」
これにより、試験の難易度が一気に跳ね上がった。
攻撃魔法の禁止。
これが意味するのは、すなわち相手に向かって魔法が打てないと言うこと。
罠系の魔法を大量に作り出したとしても、その場所まで相手を追い込まなければいけないし、当然相手もそんなことはわかりきっている。
かといって攻撃魔法を相手に撃つことは出来ない。
魔法適性が属性の人は、これだけでかなり大きなハンデを背負わされることになる。
属性魔法の基本的な戦い方は、遠距離から中距離の攻撃魔法にある。
それを封じられたのだ。
「なぜ今回このような演習を組んだのか。今回の訓練で学んでほしいのは、意思疎通の難しさ。これから学園で幾度となく経験することを、今ここで皆さんに知ってほしいのです。では全般的なルール説明をいたします———」
浮かぶような声で明かされたルールの全容はこうだ。
・森林グラウンド全域を使った三対三のチーム戦
・チーム全員の尻尾がとられた瞬間、そのチームは敗北。なお、誰か一人でも尻尾が残っている場合、そのチームの全員が演習を続行可能
・森林グラウンドから体の一部が出た場合、その選手の尻尾は体から離れた物として扱うが、三十秒以内にグラウンドに戻れば尻尾無しの状態で続行可能
・相手への故意の攻撃魔法の禁止。明らかな狙いでの攻撃魔法を放った場合、その選手の尻尾は体から離れた物として扱う。
・制限時間は30分
・一つのエリアに同時に6チームが存在するが、あくまでも敵対チームは1チームのみ
・上記以外に、明らかな危険行為は所属するチーム全体を失格とする
突如として始まった、過酷すぎるオリエンテーション。
唯一の救いは、尻尾が同じ色の人間が同じチームと言うこと。
「よう。何かと昨日から縁があるな。」
「よろしく、カイル。」
この学園の中では話した時間の一番長いカイルが同じチームというのは、正直心強い。
「さて、俺たち初日サボり組と一緒になる悪い子ちゃんは誰だ?」
昨日俺のことはサボりじゃ無いって言ってたのに…
だが、この人選は重要だ。
男子二人に入ってくるなら、願わくば男子が良い。
純粋に初対面ならその方が意思の疎通は図りやすいと言う理由だ。
男子であれ、男子であれと願いながら、
カイルと二人で同じひもと番号を探していると。
「あの、もしかして、ですけど。お探しの番号、私かも知れません。」
聞こえてきたのは、およそ男とは思えないか細く透き通った声。
当然だ。
声の方向には、とんでもない美少女がいたのだから。
「…えっと、それじゃあ、君が俺たちのチームって事か。」
「はい。セルエナ・ルートリアと申します。」
「ご丁寧にどうも。俺はカイル・ヴァルハ、カイルで良い。んでこいつが…」
「し、シュティム・ローウル。よろしくね。」
金髪に碧眼の輝く彼女、セルエナ・ルートリア。
女子としては平均的な身長に、失礼かも知れないが平均的なスタイル。
だが、それを帳消しにするほどの圧倒的容姿。
一目見ただけで、創作の人間なのでは無いかと疑うほどに整った目鼻立ちをしていた。
「シュティム・ローウル…と言うことは、あなたが選抜試験を通過した方なのですね。」
思いがけない認知をいただいていたことに、少し舞い上がってしまう。
女性と話すのが苦手なわけでは無いが、
正直、ここまでの美人は村にも町にもいなかった。
その差が俺の思考を一瞬鈍らせている。
別に彼女に一目惚れしたとかそんなんじゃ無いが、それでも彼女は多くの男性を虜にしてきたのだろうと、またしても失礼なことを勝手に想像していた。
「へー、有名人じゃん、シュティム。」
「…馬鹿言うなよ。って言うか、なんで俺が選抜試験の入学って事知ってるんだ?」
「昨日の入学式、クラスの名簿の横に書かれていましたから。恐らく私以外も全員名前は目を通しているかと。」
「…あーあ。俺らサボっちまったからな、そりゃ知らねえよ。」
「昨日は俺はサボりじゃ無いって言ってたじゃん!?つか、ホントにサボりじゃないし!」
いたずらにカイルが言ってきたので思わず反論した。
「…あの、お二人はお知り合いなのですか?」
「ああ、昨日から。」
「それ知り合いカウントに入れて良いの?」
「良いだろ別に。基本全員初めましてなんだからよ。二度目ましては知り合いで良い。」
分からない。
彼の判断基準が分からない。
言ってることに筋は通っているが、何か納得がいかない。
…サボり扱いとか。
「それが何かあるのか?できあがった輪に馴染みにくいとか繊細なこと言い出す感じか?」
「カイル、お前って大概失礼だよな。」
「いいえ、そんなことはありません。むしろお二人が意思疎通が出来ていると言うことは、私はそれに合わせるだけで多少の連携はとれます。」
「意思疎通って…俺らまだ互いの適性すら知らねえ状態だぞ。」
「いや、ちょうど良い。演習開始までまだ時間がある。自己紹介もかねて作戦会議をしよう。」
俺はグラウンド周辺の空いているスペースを確保しようと走る。
「おー、やる気十分だな。」
「……あの方、魔法の扱いに慣れていないんじゃないかと思います。」
「あ?なんだそれ。んなこと実戦で見るまでわかんねえだろ。それよりお前、ルートリアって……」
「…っ。私たちも行きましょう。」
背後で行われていたそのやり取りに気づかなかった俺は、
空いたスペースを確保して座る。と言っても地面に腰を下ろしただけだが。
数秒遅れて、二人もやって来た。
「…じゃまずは自己紹介と簡単に適性だけでも説明しとくか。シュティム、ちょっと手貸せ。」
あぐらで座る彼に手を出すように促される。
されるがまま、彼に手を差し出すと、
彼は俺の手に触れた。
「改めて、俺はカイル・ヴァルハ。二人ともタメだし、呼びづらいだろうからカイルで良い。基本的な魔法は当然使えるが、俺の適性は攻撃向きじゃ無い……シュティム、何か魔法出してみろ。」
「え?」
「良いから、何でも良いからはよ。」
疑問を残したまま、彼に言われたとおり魔法を発動…
「……え?」
出来ない。
確かに軽い水魔法を発動しようとした。
だが、出ない。
何かに抑えられているかのような感覚はあるが、
どれだけ力んでも魔法が発動されない。
「…これが俺の適性<魔封じ魔法適性>かなりマイナーなトラップ魔法の適性だが、俺の場合は、触れた人間が出そうとした魔法を、それ以上の魔力を消費することで発動を阻害するって魔法だ。触れた人間が多くても、発動魔力の合計値が俺より下なら全員無力化できる。」
分かってはいた。
ここにいるのはエリートだけだ。
頭で理解はしていたが、いざ目の当たりにすると…
「すごい……なんて強力な適性。」
「んなことねえよ。触れなきゃいけないって縛りが肉弾戦を必須化してる。ウィザードに基本必要ない筋力まで鍛えなきゃ使い物にならねえ。」
「それでも、かなり強力な適性です。ことウィザード同士の戦闘や、今回のような演習において、相手に魔法を使わせないというのはそれだけで大きなアドバンテージですね。」
「…はっ。だったら、お前らがせいぜい俺を生かしてくれや。」
わかりにくいが、少し嬉しそうにしているのを見ると、
彼は彼自身の適性が気に入っていないわけでは無いのだろう。
「次、シュティム。」
「……え、俺?」
「あ?女の子様に先陣切らすのかよ。」
なんだよその謎の男気。
俺は、彼の後に自分の適性を話すことに少しの抵抗があった。
俺の適性は、お世辞にもウィザード向きでは無いことはもう重々分かっている。
そんな人間がチームにいるとなったら、二人の足を引っ張ってしまうかも知れない。
「…シュティム・ローウル。ここから大分離れた、ガトナって漁村から来た。」
「ガトナ…潮変わりが毎年あるあの地域だな。」
「し、知ってるのか!?自分で言うのもあれだけど、かなり辺境の地域なのに…」
「地図見るの好きなんだよ。で?適性は?」
「……魔法、持久適性。」
俺は、意を決して、少しずつ説明する。
「基本的には、超高効率で魔法を発動できる適性。それに追加して、魔力が切れても、俺自身の体力っつーか、生命力?みたいなのを使って、魔法が打てる、んだと思う。詳しいことは、ごめん。まだ分かんないことの方が多い。俺、魔法使い始めたの、多分二人より浅い時期からなんだ。」
つぎはぎな説明。
こんな説明で理解されるはずがない。
二人ともきっとエリートだ。
あのときの前クソ男ほどでは無いにしたって、きっと失望されるに決まって…
「良いじゃん。男らしい適性で。」
「…え。」
「確かに派手さは無いかも知れませんが、リスキーとは言え、魔法の発動上限が大きいのはシンプルな強みだと思いますよ。」
「超効率にデカい箱、おまけに追加の鞄。つえーよ、十分。」
「…っ!」
俺は、何も分かっていなかった。
この二人とは、いずれ競争相手になるかも知れない。
それは向こうも同じはずなのに、
俺はその相手に励まされ、自分の適性に自信を与えてもらっている。
ホントに、俺の人生っていうのは、
どこまでも出会う人に恵まれている。
「…よし、じゃ次、セルエナ、あー、さん?」
「セルエナで良いですよ。えっと、その、私の適性は……」
彼女の声は、少しずつ小さくなっていく。
それは今までの彼女のか細い声よりも、さらに細く、今にも消え入りそうなほどになり。
そして———
「言いたくありません。」
「はぁ?!」
「名前はセルエナ・ルートリア。好物はハンバーグ。魔法適性は…言いたくありません。」
「いやいやいや、ちょっと待てよ。」
彼女のその一言に、座っていたカイルは思わず立ち上がる。
「確かになぁ、魔法適性ってのは話すことで不利が生じるものもある。所見殺しの適性なら、今後競っていくかも知れねえ俺たちに話したくないってのは道理がいく。」
「分かっているじゃないですか。ですから……」
「だが仮にも!今回こうしてチームになった!チーム戦ってのは一人の人数不利が負けに直結するものなんだよ!適性を話して貰えねえのは、そいつの生かし方が分からねえ、つまりいねえのと一緒って事だ!!!」
口調こそ強いが、カイルの言っていることはやはり筋が通っている。
彼女の適性が攻撃型か、ウィザードには少ないが支援型か分かるだけでも、作戦の幅は大きく広がる。
「……それでも、私は、言いたくありません!」
「~っ!!!なんっで言ってることが分かんねえんだよっ!?」
「理解はしています。その上で話したくないのです。」
「ああああ!!!くそっ!!!」
そして、時刻は30分ほど進み現在。
未だに二人は言い争っている。
正直もうこれ以上彼女から聞き出すことは出来ないと思われるが…
「適性は話せません。ですが私もこの学園に合格した身、基礎的な魔法は使えます。」
「そいつはありがたい話だなぁ!?10程度のクソガキが文字書けますってのと同じ事を伝えてくれるなんて、お気遣いに胸が痛むぜ!?」
「…俺の村、何人か読み書きできないけど。」
「あ、わりぃ…そんなつもりじゃ………じゃなくてだな!?シュティム!お前も何とか言えよ!」
そう言われても…
「……ここまでカイルが言っても話したくないってのは、所見殺しを攻略されたくないって理由じゃ無い、別の何かがあるんじゃ無いか?」
「あ?なんだよそれ。お前こいつかばうのかよ。」
「そうじゃないって。セルエナにも、何か話せない事情があるから、ここまで頑ななんじゃ無いかって。」
「そりゃ、そうだろうけどよ……」
それに、なんだか彼女は似ていた。
彼女とは今日が初対面だが、自分の魔法の適性を話すタイミングになった途端、
明らかに様子がおかしかった。
何かに怯えているような、それを隠すために虚勢を張っているような。
詳しいことは分からない。
けれど、彼女のこれが虚勢だとするなら、
数年前の村での俺に似た何かがあるような気がする。
それなら、今俺が出来ることは…
「…セルエナ。話せないなら、無理に話すことは無い。その代わり、セルエナが俺たち二人を生かしてくれ。」
「…私が、お二人を?」
「そう。俺たちはセルエナに自分の適性を話してる。セルエナは自分の適性が分からないわけじゃ無いんだろ?」
「それは…まあ……」
「だったら、指揮を執るのは必然的に全員の適性を知れているセルエナが適任だ。そうだろ?」
セルエナを中枢として、俺たち二人が動く。
そうすれば、彼女の得意な状況が分からなくても、俺たち二人を自然に自分の戦いやすいように動かしてくれるはずだ。
「…確かに合理的だ。」
「うん、カイルは多分、近接メインの戦い方だよな?」
「ああ。さっきも言ったが、俺の適性は触れることが前提だ。自分で使う魔法も、基本的には相手との距離を詰めるのに使う事が多い。」
「なら、俺が遊撃として間に入ろう。セルエナは自分の戦いやすいように中遠距離を保ちながら、俺たちを動かしてくれ。」
「…分かりました。」
そこまでの作戦を何とかあげたところで、
職員から、俺たちのチームの番号が呼ばれる。
「…まさかの開幕チームか。」
「…ちっ。セルエナぁ!」
「…何ですか、もうこれ以上の問答は……」
「ちげーよ。」
俺たちは、少し緊張した足取りで、
三人が各々の歩幅で進んでいく。
「ちゃんと使いこなせよ?」
「…っ!善処します。」
少しの不安はあるが、
俺たちのオリエンテーション『森林グラウンド 戦闘演習 尻尾取り』が始まる。