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「なんだあの公爵、あんな一面があったのか。あいつはヤバい。殺される」
院長は決して早くない足を一生懸命動かし、エミーリアを監禁している場所へ向かう。
「おい、逃げるぞ」
その言葉と共に勢いよく入ってきたのは院長だった。
「は?何言ってんだよ」
「あいつはヤバい」
「あいつって?」
「私のことかな?」
「「・・・・・・・・」」
「なっ…ななななっ何で!?」
いつの間にか会話に1人加わっているのに気付いた2人が扉の方を見ると、そこに公爵をはじめ5人が立っていた。
「気付かれていないとでも思ったか?私は最初から君を疑っていたよ」
公爵の鋭い目つきが2人の男を捕らえる。
「大丈夫か?」
義兄たちが、私に駆け寄り拘束を解いてくれた。
「…大丈夫です」
みんなの顔を見てホッとする。
「その子を外に連れ出してくれるか?」
「「はーい」」
公爵に指示された義兄たちは私の背中を押し、外に連れ出した。
「さて、私の娘を誘拐・監禁した罪は重いよ」
「「ぎゃ―――――っ」」
外に出た瞬間、建物の中から悲鳴が聞こえる。
「なっ、なに?」
「気にしなくていいよ」
「無事で良かった」
優しく頭を撫でられると強ばっていた体の力が抜け、その場にへたり込む。そして目からポロポロと大粒の涙が溢れてきた。
「怖かったね」
クラウスが抱き締めて、あやすように背中を撫でてくれる。彼の胸で肩を震わせ嗚咽を漏らした。
「…君は子供らしくない泣きかたをするんだね」
彼が何かを呟いたけど、私には聞こえなかった。
涙を流して少し気持ちが軽くなった。そして冷静になると急に恥ずかしさが込み上げてきた。
私を抱き締めているクラウスの腕から離れようとすると、急に体がフワッと浮いた。
「へっ!?」
クラウスが私を軽々と持ち上げている。
小さな子供のように抱っこされ、端整な顔が目の前に…。男性に免疫のない私は、全身が真っ赤になり固まってしまった。
想定外の出来事にパニックになっていると、公爵が建物のから出てきた。
抱っこされている私と目が合うと、公爵も固まる。それに気付いたクラウスは、クスッと笑って私を降ろした。
「すまない…私のせいで君をこんな目に遭わせてしまった」
公爵は膝をつき、私の目を見て話しをしてくれる。
「公爵様…」
「もうこの町は住みにくいかもしれない」
「…分かりました。そちらでお世話になります。でも公爵家の娘にはなりません。だから見習いのメイドとして雇ってください」
気付いてしまった。私はこの人たちのことを家族として受け入れていることに。
だから一緒に住むことにする。そう、住むだけ。
「そんなことできるわけないだろ」
公爵は私の提案に反対のようだ。困った顔をしている。
「嫌ならいいです。他の町の孤児院か修道院に行きます」
「えぇ…!?」
「どうしますか?」
二択を提案する。
私の提案にオロオロする公爵は見ていて面白い。
「では居候として住んでは?」
「ダメです。タダほど怖いものはありませんし、お世話になるお金も払えませんから」
「なぜそんなに公爵家に入るのを嫌がってるんだ?」
「私、将来は騎士学校に入学して騎士になります」
「ええ!?ダメだよそんな危ない…」
「認めてくださらないと?」
「だって」
「でしたらここでお別れです」
「そんな…」
大の大人…しかも公爵が8歳の子供に翻ろうされている。少し離れた場所で話しを聞いている義兄たちは笑っていた。
彼の様子を見かねた側近が口を挟んだ。
「旦那様…ここは折れるしかないと思います」
まさか側近が私の味方をするとは思わなかった。2人して彼を見ると、凛とした佇まいでこちらを見ている。
側近の様子に何かを察したのか公爵は、ため息をついた。
「分かったよ…でも見習いだからね」
「よろしくお願いします」
不服そうな顔をしながらも、私のお願いを聞いてくれた。
「ロイ、分かってるな」
「はっ」
その言葉の意味が分からなかったが、とりあえず公爵家に向かうことになった。
目処が立ったので今日から最後まで毎日更新したいと思います。