4
目を覚ますと手足を縛られ知らない場所にいた。
「ここ……どこ?」
部屋には窓もなく真っ暗だ。
「なにがあったの?」
自分の身になにが起こったのか全く分からない。ゲームではこんな展開はなかった。少しずつシナリオが変わり始めたのだろうか…。
こんなことを考えるなんて意外と冷静な自分に驚いた。
「目ぇ覚めたか?」
誰かが入ってきた。見たことのない男の人がそこに立っている。扉の向こうにもう1人居る気配がするけど入ってくる様子はない。
「…おじさん誰?」
「知らなくていい」
少しでもこの状況を把握するため情報を集める。
「…私誘拐されたの?」
「そうだ」
「なんで?どこかに売られるの?」
「いいや、ちょっとばかし身代金をもらおうと思ってな」
「誘拐したから知ってると思うけど…私、孤児院の子だよ?」
「いや、貴族の娘だろ」
「なんで?」
「最近頻繁に来てんだろ、お前の父親。こんな田舎町であんな金持ち、目立って仕方がない」
「でもよく院の中にまで入って誘拐できたね?他にも子供がたくさんいるのに。私の部屋がどこかすぐ分かったんだ?」
あんなに子供がいるのに私だけを連れ出すことができるなんて…考えればすぐに分かることだわ。
「そこに居るんでしょ?院長先生」
「「!?」」
私の問いかけに答えるかのように、扉から恰幅の良い、人の好さそうな顔をした院長が姿を現した。
「はっはっはっ、なんで分かった?」
「馬鹿じゃないの?たくさんいる子供たちの中から私だけを連れ出したのよ?そんなの考えればすぐ分かるわ」
お粗末すぎて馬鹿にした態度をとってしまった。
院長は少しだけムッとした表情をする。
「こんな田舎では金なんて稼げないからな。持っているやつから奪うしかない。まさかお前が貴族の娘だったなんてな…ラッキーだよ。明日は父親が来る日だろ。2日~3日はここで我慢してもらう」
気持ち悪い笑みを浮かべ、もう一人の男と一緒に部屋から出て行った。
ゲームの中で院長は殆ど出てこなかったが、悪い人ではなかった。子供たちを大切にしているように見えたし、私もこの2年間ずっと信頼していた。
「…私が素直に公爵家に行かなかったから?」
あんなに優しかった院長先生が変わってしまった…それとも元々あんな人だったんだろうか。今となっては分からないことだ。
****
週末いつものように、公爵が子供たちを連れて孤児院にやって来た。
「公爵様、大変です」
馬車が着くなり、待ってましたと言わんばかりに院長が飛び出して来た。
「院長、あの子はどこですか?」
「それが今朝起きたら、あの子のベットの上にこんなものが…」
”娘は預かった。返してほしければ5,000万G用意しろ。期限は明日の午後5時までだ。用意ができたら、山小屋に持ってこい。金を確認したら娘を返してやる”
院長が渡したのは身代金を要求する犯人からの脅迫状だった。
「そんな…なぜあの子が」
その手紙を見た公爵はショックを隠せない様子だった。
よく見ると震えている。院長はその様子に口元が緩んだ。
「――っ許さない。ロイ、今すぐ調べろ」
「はっ」
公爵に指示されたロイという名の若い側近はすぐに動き始めた。
院長は先ほどまでの様子と打って変わり、額からは脂汗が流れ、表情が強ばる。
彼の目の前にいる公爵は、これまでエミーリアに見せていた優しい顔とは異なり、こめかみに青筋を立て怒りに満ち溢れているのだ。震えは怒りからだろう。
「義父さん、俺たちは?」
「お前たちはあの子が寝ていた部屋を調べてくれ」
「「了解」」
「院長先生、お話伺えますか?」
「ひっ…」
公爵の怒気を含んだ声に圧倒され、思わず声が上擦った。
****
「どうだった?」
短時間で各々調べ終わり、みんなが集まったところで公爵が尋ねた。
「小さな田舎町ですので、貴族が来ていることは全員知っていました。山小屋に行きましたがお嬢様の姿はありませんでした」
「あの子の部屋、他に3人と一緒でしかも窓際なんだ。窓は子供一人が出入りできるぐらいの大きさだから、犯人の出入りは扉からだよ」
「これ犯人一人しかいないじゃん。早く捕まえようぜ」
「まぁ待ちなさい。奴にあの子の所へ案内してもらうんだから」
クラウスとカールは呆れ気味にため息をつき、公爵の口元には笑みがこぼれる。
「旦那様、院長が逃げました」
密かに院長を見張っていた護衛から報告が入る。
「ほら、動いた」
5000万G=5000万円です。