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公爵目線~真実~

 私はアルベルト・ヴァレリー、公爵家の現当主。

 現在33歳。


 亡くなった妻とは18歳で政略結婚をした。

 私の両親は冷めた夫婦だったため、結婚するならば温かい家庭を築きたかった。だから政略結婚でも妻を大切にしようと決めていた。


 妻には好きな人がいた。

 現国王のハンス・グランクヴィスト。彼女が彼を慕っているのは社交界では有名な話だった。


 私は例え好きな人が居たとしても、共に過ごせばパートナーとして良い関係が築けるのではないかと思っていた。


 でも彼女にはそんな気など一切なかったようだ。

 私との会話は最低限。夜の生活も義務的なものでしかなかった。何度体を重ねても私は虚しさが募るだけだった。


 そんな生活が続いていたある日、新しく数名のメイドが入ってきた。その中の1人、カリーナという女性に一目惚れに近い感覚を覚えた。


 私は妻との生活に疲れていた。

 そんなときに出会った彼女は魅力的で、一緒にいると心が安らいだ。惹かれるのは必然だった。

 嬉しいことに彼女も同じ気持ちなのだと知った。



 頭では解っていた。私には妻がいる。

 でも彼女を自分のものにしたいという欲望が押さえられなかった。


 ―― 一度だけ、過ちを犯した。


 とても幸せな時間だった。


 何度口付けをしても足りなくて、夢中でお互いを求めた。

 彼女と一つになったとき、心が満たされた気がした。



 しかし、日が経つにつれ妻に対する罪悪感が勝ってしまった。


 彼女を愛していた。でも妻とは離婚できなかった。妻の実家は由緒ある公爵家ではあったが、領地が度重なる天災に見舞われお金に困っていた。そこで新興貴族のうちが援助する代わりにと婚姻関係を結んだのだ。


 どうすべきか悩んでいるとき、カリーナから妊娠したと告げられた。


 私は嬉しかった。


 妻との間には子供ができなかったが、別にそのことを気にしたことはなかった。自然の成り行きに任せていたから。

 でもいつかは自分の子供が欲しいと思っていた。


 あのとき、私は浮かれていた。そのせいで2人を傷つけてしまった。


 妻が彼女の妊娠を知り、激昂した。

 彼女と子供の身を案じた私は、しばらく身を隠して欲しいと彼女にお金を渡した。しかし、彼女はお金を置いて出て行ってしまった。行く先も告げずに…。


 心配になった私は彼女を探した。


 彼女を見つけたと報告を受けた私はすぐに向かった。しかし到着するとそこに彼女はいなかった。


 私は諦めず、彼女を探した。

 でも見つけるとまた姿を眩ます…まるでいたちごっこだった。


 身重な彼女にこれ以上無理をさせてはダメだと判断し、探すのを止めた。それに私から逃げるのは何か事情があるのかもしれない。いつか彼女から連絡をくれる…そう信じていた。



 ――しかし連絡がくることはなかった。




 公爵家では、遠縁から兄弟を養子に迎え入れた。妻とは相変わらずだったが、まだ幼かった彼らは私たちを本当の両親のように思ってくれ、しばらく平穏な生活を送っていた。


 あれから6年が経ったある日、彼女が…カリーナが亡くなったと連絡を受けた。

 悲しみに打ちひしがれそうだったが、やるべきことがあった。


 カリーナに最期の別れを言いたい。それにまだ一度も見たことがない我が子を迎えに行かなければ。


 彼女は隣国アシュヴィニル帝国の出身で両親は居らず、天涯孤独だと言っていた。彼女が亡くなった今、子供は一人ぼっちだ。


 私は側近に指示を出し、子供を受け入れる準備をした。そして出発しようと馬車に乗り込んだそのとき、メイドが慌てた様子でこちらに向かってくる。




 私は子供を迎えに行くことができなくなった。

 妻が手首を切り自殺を図った。


 また私は間違えてしまったのだろうか。


 愛したのはカリーナただ1人だった。でも妻とは10年以上一緒に暮らしてきたため、家族としての愛情があった。そんな妻を置いてはいけなかった。


 一命は取り留めたものの、心を閉ざし部屋から出てこなくなった。息子たちも心配していたが、どうすることもできなかった。

 そのうち体調を崩し、闘病の末先日亡くなった。


 妻を送り出し落ち着いた頃、ようやく子供を迎えに行くことができた。


 エミーリアという名前と女の子であることは調べて分かっている。

 私のせいで2年間も孤児院で生活させてしまった。



 馬車から降りると、緊張した面持ちで施設を訪ねた。

 玄関に入るとたくさんの子供たちが出迎えてくれる。


 あぁ…ここにあの子がいる。

 胸が高鳴った。


 子供たちの騒ぎに気付いたのだろうか、恰幅の良い男性が姿を現した。


「なにかご用ですか?」

「私はアルベルト・ヴァレリーと申します。こちらにエミーリア・ファルクがいますよね?彼女の父親です。あの子を迎えに来ました」



 残念ながらエミーリアは外出していて、すぐに会えなかった。でも私はあの子に会うまでは帰らない。何時間でも、何日でも待つ覚悟で来たのだ。




 夕方になり、段々と外が暗くなってきた。

 待つ覚悟ではあったが、こんな遅くまで戻らない娘が心配で堪らなかった。


「何かあったんだろうか…」


 不安で落ち着かなくなった頃「ただいま」と可愛らしい声が聞こえてきた。それと同時に玄関が騒がしくなる。


 エミーリアが帰って来たのだろうか…。

 胸が早鐘を打つ。


 リビングに顔を出したその子を見た瞬間、確信した。


 ああ、私の…私と彼女の子供だ。


 彼女譲りの琥珀色の綺麗な瞳に私と同じ茶色の髪、顔は彼女に似てとても愛らしい。


「エミーリア…」


 初めて呼んだ娘の名前。他にも言いたいことはたくさんあったが、感極まり他に声を出すことができなかった。


 私の代わりに院長が説明してくれたが


「嫌です」


 拒絶されてしまった。


 断られる可能性は考えていた。でも、もう二度と1人にはさせない。


 カリーナ、必ず君の代わりに幸せにしてみせるよ。


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