15
目を覚ますと見慣れない天井があった。
「ここは…?」
「学校の医務室です」
「オレリアさん、ジーナさん」
見慣れた顔にホッとする。
「あんな無茶するなんて」
ジーナさんが涙を流しながら言う。よく見ればオレリアさんも目が赤い。
「心配かけてごめんなさい」
「本当よ…あんな大きい人相手に」
「でもよく頑張りましたね。合格おめでとうございます」
「夢じゃなかったんだ…なにもかも…そういえば旦那様たちは帰られたの?」
「いいえ、廊下で待たれていますよ」
「呼んで来るわね」
ジーナさんが廊下に出て私が目を覚ましたと報告すると、我先にとみんなが飛び込んで来ようとするので入口でつかえていた。
その様子にオレリアさんが眉間に皺を寄せため息をついた。
「エミーリア大丈夫かい?」
旦那様が泣きそうな顔をして駆け寄ってくる。
「無茶しやがって」
「可愛い顔にこんなに傷をつけて…」
「合格おめでとうございます」
「ちゃんと教えたことができていましたね。でも防御が少し甘かったです。すみません…あそこまでの体格差は考えていませんでした。また一緒に練習しましょう」
それぞれが声をかけてくれる。その言葉に心が暖かくなった。
「みなさん、本当に心配かけてごめんなさい。あと応援ありがとうございました」
私が笑顔でそういういとみんなも笑顔を返してくれた。
「さっ!皆さん帰りますよ」
オレリアさんがみんなを部屋から押し出している。
「エミーリアと一緒に帰るんだろ?」
旦那様の声が聞こえる。
「エミーリアは用事があるので後で帰ります」
「えっ?」
用事なんてあったっけ?なんて考えているとジーナさんがこっそり声をかけてくれる。
「ちゃんと話をするのよ」
その視線の先にはデレクがいた。
「家で待ってるからね」
オレリアさんとジーナさんがみんなをすぐに追い出し、医務室は2人だけになった。
「座って?」
入口の近くから一歩も動かないデレクにベッドの傍の椅子に座るよう促すと、応じてくれた。
「大丈夫か?」
「うん、少し痛むけど平気」
「そっか」
「「…………」」
「…あの」
「ごめん」
2人してまたもかぶってしまったけど、立ち上がり頭を下げて謝るデレクに私は目を見張った。
「えっ?」
「手紙の返事…出さなくて」
彼は頭を上げることなく話を続ける。
「王子から君が公爵の娘だって聞かされたとき、俺…色んな感情がぐじゃぐじゃになって君に酷いこと言ってしまった。でも一番は君からじゃなくてあいつから君の事を聞かされたことが一番ショックで…」
「デレク…」
「手紙を読んで君が家族と住むために公爵家で働いているって知って恥ずかしくなった。だって令嬢として住めば仕事なんてしなくて済むのに君はそれを選ばなかった。メイドとしてきちんと働いているのに、あんなこと言ってしまって」
「違う!デレクは悪くない。私のわがままで黙っていたんだもの。公爵の娘ってだけで今まで通り接してもらえなかったらどうしようって怖くて…仲良くなればなるほど言い出しにくくなってしまったの」
私の言葉にやっと顔を上げてくれる。
「…俺、すぐにでも返事を出して君と仲直りがしたかったんだ。でも王子の言う通り今のままでは君に釣り合わないって思ったんだ」
「釣り合わない?」
「だってあんなに王子に想われているのに…そんな俺が彼に太刀打ちなんてできない。だからこの学校に合格したら君に会いに行こうって決めてたんだ。なのにまさか君まで受けていたなんて…しかも合格してるし」
彼の手が、あのころとは違う大きな手が私の頬に触れる。
「こんな傷だらけになって…」
無骨な感じに胸が高鳴る。でもどこか安心して目を閉じ頬をすりよせた。
すると彼の手が一瞬ビックっとなったので、目を開けると彼の顔は真っ赤になっている。
そして目が合うとお互いに恥ずかしそうに微笑む。
デレクはベッドに腰掛けると、顔をゆっくりと近付けてきたので私は再び目を閉じた。そして鼻先が触れた瞬間
「エミーリアちゃん」
扉が開いたので私たちは慌てて離れた。
「大丈夫かい?」
入ってきたのはデレクのご両親だった。
「おじさん、おばさん」
「こんなに小さいのにあんな大きな男と戦うなんて…」
「騎士学校を受けるなんてビックリしたじゃない」
「にしてもこんなに可愛くなって。いや前から可愛かったけどね」
おじさんとおばさんの弾丸トークが続く。久しぶりの感じがとても嬉しかった。
「それよりも、仲直りできたの?」
その問いかけに二人で顔を見合わせ少し赤くなりながらも「はい」と答えた。
「積もる話もあるだろうから私たちは先に帰るね」
「あの、ありがとうございました」
「また遊びにおいで」
「―――はい」
笑顔で2人を見送ると部屋に静けさが戻った。
「ご両親変わらないね」
「そうだな。いつまで経っても元気が良すぎるよ」
「素敵なご夫婦だよね…」
私は2人が出ていった扉を眺めながら呟いた。
「エミーリア…」
「ん?」
顔をデレクに向けると彼は私の手を握り、真剣な眼差しで見つめる。その眼差しに胸が高鳴った。
「エミーリア好きだ」
デレクは握っていた私の手を引くと、もう片方の手を私の背中にまわし抱き締める。
――私も彼の想いに応えるように背中に手をまわし、胸に顔を埋めた。
「私もデレクのことが好きだよ」
END
 




