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試験官の合図とともに相手がこちらに向かって走ってくる。さすがにあの試験を突破したことだけあって瞬発力もすごい。
あっという間に間合いを詰められ木刀が振り下ろされる。
――力いっぱい振り下ろされた木刀を受け止めたけど、その衝撃で後方へ飛ばされた。
「うっ…」
すぐに立ち上がろうとするが、相手はすでに私の元に来ていた。再び木刀を振り下ろしてきたので横に避けるが、躱し切れず頬をかすめた。
なんとか起き上がり体勢を整えるも一方的な攻撃は止まない。躱すのが精一杯で自分から攻撃を仕掛けに行くことができない。それに攻撃を受け止めようものなら飛ばされてしまう。
(なにか…ここで打開策を見つけないと確実に落ちる)
時間が経つにつれ、相手の攻撃が目に見えて弱くなった。考えなしに木刀を振り回していたせいか肩で息をし始め、スピードも威力も落ちている。
残り時間が少なくなった今がチャンスだ。
私は最後の力を振り絞って立ち向かう。
彼の攻撃は単純で、何度も攻撃されれば次の攻撃が読めた。
その攻撃を躱し、懐に入り込み攻撃する。木刀が鳩尾にヒットしたのかお腹を押さえている。
私はすぐさま距離を取り、次のチャンスを狙う。
彼がまた攻撃をしかけに来たので避けていると、壁際に追い込まれそうになった。私はそれを利用する。
彼が追いかけて来ることを確認して、壁まで全力で走る。その勢いのまま壁を3歩ほど駆け上がると後方へ飛んだ。
―――彼の頭上を越え後ろに着地する。
そして背中に向かって木刀を振り下ろした。
「そこまで」
彼に攻撃を食らわしたところで時間になったらしい。訓練場の中央に戻りお互いに礼をして終わった。
もうボロボロだ。今立っているのがやっとだった。
「君、医務室に行ったほうがいいんじゃないか?」
試験官から声をかけられる。
「そうですね。でも全てが終わった後で行きます。ご心配ありがとうございます」
「そうか。無理しないように」
そう言って試験官はその場を離れた―――その瞬間、目の前にいる相手が急に木刀を振り上げた。「えっ!?なんで?」なんて悠長なことを考えている間にも自分に木刀が迫ってくる。もう攻撃を受け止める力なんて残ってない私は目をつむり痛みを待つ。
―――がいくら待っても痛みはこなかった。
そっと目を開けると目の前に誰かが立って攻撃を受け止めてくれている。自分よりもはるかに大きいその背中に懐かしさがこみ上げる。
「デレク…」
彼が素手で相手の木刀を止めてくれていた。
すると周りにいた学校の関係者が数人駆け寄り対戦相手はそのまま連れて行かれた。
私は力が抜け、その場にへたり込む。
「エミーリア」
デレクは振り返ると私の隣に来てくれた。
「医務室に行こう」
「大丈夫よ。それにすぐ合格者の発表があるから」
「でも…」
「みなさん集合してください」
デレクの言葉を遮るように集合がかかる。
「それでは今から合格者20名発表します。呼ばれたものはその場に立つように」
「デレク・ウィンストン・・・・」
デレクは難なく合格したようだ。
私の隣に立っている彼はとても嬉しそうな顔をしている。その顔に私も自然と笑顔になった。
次々と合格者の名前が呼ばれる。
もう10人呼ばれた。あと残り10人……あと5人……。
心臓が痛いぐらいに激しく鼓動する。
祈るような気持ちで自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「・・・エミーリア・ファルク」
「――えっ…?」
(呼ばれた?)
聞き間違えかなと周りをキョロキョロすると、デレクが私の腕を引っ張り立ち上がらせてくれた。
「・・・以上20名が今回の合格者だ」
"わあ"っと観客席から歓声が上がる。その声にやっと合格したんだと実感できた。
―――それに安心したのか、私はそこで意識がなくなった。




