13
私は公爵家で働く使用人たちに自分から説明した。みんなは非難することなく私を受け入れてくれた。逆に「話してくれてありがとう」って言ってくれて、その後もこれまでと変わらずに接してくれる。
デレクにも自分の口から話をしたくてお店に行ったけど、会ってはもらえなかった。ご両親にも話をしたけど「これまでと何も変わらないよ」と言ってくれた。
彼には手紙を書いた。
でも返事が来ることはなかった。ご両親に「彼が許してくれたらまた顔を出します」と話をして、それ以降は行くのを止めた。
レオン様は、あれからしばらくは会えなかった。
意図的に避けていたのかは分からないけど、半年近く公爵家に顔を出さなかった。それがある日急に現れて「申し訳なかった」と謝ってくれたのだが…
「僕の気持ちは今でも変わっていないよ。君が僕を選んでくれるまでは返事はいらないから」
攻略対象の前で堂々と告白をしてきたのだ。
みんな突然のことに面食らっていた。だってレオン様に告白されたことを知っているのは私とオレリアさんだけだもの。
それからというもの週1のペースで来てはプレゼントや手紙をくれるようになった。
それから5年が経った。
今でもレオン様からのアプローチは続いているけど私の気持ちは変わらない。
未だに来ない返事を私は待ち続けている。
そして今日から騎士学校の入学試験が始まる。
一次試験の会場は騎士学校...ではなく王宮の舞踏会場。
というのも志願者数が多すぎて騎士学校に入りきれないから。
なんせ1学年20人しか入れない小さな学校。毎年この時期は巨大なホールが数日かけて試験会場へと変貌するのだ。
ちなみに今年は受験者数3,000人。倍率150倍の超難関。
受験資格はたった2つ。この国の住人であること、入学するときの年齢が14歳~17歳であること。
1日目の今日は筆記試験。
この筆記試験で3/4が篩い落とされ、二次試験に進めるのは750人だ。
テストは基本的な計算問題に地理や社会情勢、この国の歴史について。
(この日のために7年間勉強してきたんだ)
受験はこれまでの人生で生まれて初めて。すごい緊張している。静かに息を吐き呼吸を整えた。
そして開始の合図とともに一斉にみんなが問題を解き始める。
――――こんなことを言っては顰蹙を買うかもしれないけど…簡単だった。試験時間は2時間あったけど、半分の1時間で済んでしまった。できた人から途中退室が可能だったので3回見直して退出したのだ。
計算問題は小学校卒業レベルだったし社会情勢については新聞を読めば解ける問題で、地理とこの国の歴史についても本を読み込めば解ける問題だった。
試験から3日後、合格通知と二次試験についての知らせが届いた。次の試験は4日後、今度は王宮の騎士団の訓練場だった。
この合格通知には二次試験の受付番号が記載されている。その番号は一次試験の点数が高いものから振られる。ちなみに私は1番だった。
(良かった…簡単なんて言っておいてギリギリだったらどうしようかと思った)
そして二次試験の日。
受付番号が1番なので早めに向かった。
受付開始の30分前。周りをみるとちらほら受験者がいるが、受付担当者はまだのようだ。仕方がないので壁に寄りかかり、時間まで待つことにした。
入り口から入ってくる人たちをぼんやりと眺めていた。
―――ドクンと心臓が音を立てる。
デレクだ…彼がいる。
会っていない間にずいぶんと身長が伸びたみたい。顔も丸みを帯びた子供の顔から引き締まった男性へと変わっていた。
知り合いだろうか、彼の周りに男の子数人と女の子が1人…楽しそうに話をしてる。
その光景に胸がザワつく…。
ギュッと手を握り締めて彼を見ていると目が合った。
―――周りの音が遠くに聞こえ、まるで時が止まったかのようだった。
でも彼はすぐに目を逸らした。
まだ許してくれていないんだろうか、唇を強く結び俯く。
どれぐらいの間俯いていたんだろうか…。
「受付開始します」と声が聞こえたので慌てて受付に向かう。
「1番の方」
「はい」
呼ばれたので返事をし、前に出ると周りがざわついた。
(何?背は小さいけどちゃんと年齢はクリアしてるわよ!?)
訳が分からずに受付に行くと
「すごいね、君」
「はい?」
「テスト、学校始まって以来初めてだよ。満点」
「えっ!?」
「知らなかったのかい?」
「…はい」
どうやら過去に不合格になって納得しなかった人が居たらしい。そのため学校に問い合わせすれば点数を教えるようになったそうだ。その時に知りたければ平均点と合格者上位5名の点数まで教えるのだとか…。
何でも落ちた人に現実を知ってもらいたくて公表してるらしい。
(上位5名は逆にやる気をなくすんじゃないかな…)
なんて思いながら受付を済まし試験会場へ向かおうと受験者たちの間を通り抜ける。
「2番の方」
「はい」
私とすれ違いに出てきたのはデレクだった。
5年前とは変わって低くなっていた声。そんなことにもいちいちドキドキしてしまう自分を殴りたい…。
(集中しなきゃ)
「受付された方から訓練場に向かってくださいね」
気持ちを切替え試験会場へ向かう。
体力測定は持久走20kmに反射神経・瞬発力のテスト、あとは10キロの重りを30分持ち上げるという忍耐力のいるテストだ。
男だろうと女だろうと関係なし。成績が良かった上位100人が三次試験に進める。
30人ずつのグループに分けられる。そのグループで上位4人に入れなければおそらく落ちる。まぁグループごとではなく全体から100人だから、他のグループの成績が悪ければチャンスはある。
私はデレクと同じグループだ。
今、訓練場には私とデレクと試験官の数人しかいない。
「久しぶりだね」
「…あぁ」
「「………」」
「「…あの」」
かぶってしまった。
「お先にどうぞ」と譲ると話をしてくれた。
「すごいな。一次試験満点なんて」
「ありがとう。デレクも2番ってすごいね。お店の手伝いもしてたんでしょ?」
「あぁ、でも最後の1年間は追い込みで店の手伝い休ませてもらってたから」
「そうなんだ…おじさんとおばさん元気?」
「元気だよ…エミーリアの話は?」
突然話を振られたのでドキッとしたが、ずっと聞きたかったことがある。
「…手紙…」
「試験はじめます」
勇気を出して聞こうと思った瞬間、30人そろったらしく試験が始まる。
****
「おっ……終わったぁ」
半日かけて試験が終了した。
このグループでギリギリ上位に食い込めたと思うけど…分からない。ぶっちぎりで1番はデレクだった。
(やっぱり、すごいよ)
終わってもまだ体力に余裕がありそうなデレクを見て思う。
「また合否通知をお送りします。解散」
終わったグループから順次解散となった。
デレクと話の続きをしたかったけど、同じグループに友達がいたようだ。話をしていたので、仕方がないと早々と帰ることにした。
―――そして合否通知が届いた。
なんとか合格した。順位は55位と微妙なとこだった。
残すは最終試験のみ…試験の日まで毎日ラーシュさんに稽古をつけてもらった。
最終試験日。
二次試験の1位通過はデレクだった。
女の子は100人中5人しか居なかった。その中で私は1番だった。
最終試験は受付順からくじを引き対戦相手を決める。対戦時間は最大10分。勝敗がつかなくても10分経てば終了となる。勝ち負けが基準ではない。戦い方や回避能力など総合的に点数を付けられ、上位20人が合格者となる。
この試験の合否は全員終了した時点で発表される。
全員のくじ引きが終わり全50組の対戦が発表された。デレクは23番目の対戦だった。私は50番目…最後だ。なにより気になる相手だけど、私の相手はデカかった。
私の身長150cmだけど対戦相手は190cmもあるらしい。しかもマッチョ。
うん…これは死なないよう気を付けなきゃ…。
今日は騎士学校の訓練場で試験だ。
最終試験なので保護者の観覧が許されている。
観客席を見ると旦那様、義兄たち、ロイさん、ラーシュさん、なぜかオレリアさんとジーナさん総勢7名が来ている。
目立たないように地味な格好をしているけどそこだけ空気が違う。
そしてそのすぐ近くにデレクのご両親がいる。
(なぜそんな近くに!?)
あらゆることにドキドキしながらも試験が進む。
デレクは才能を遺憾なく発揮していた。
ご両親が席で大喜びしている横で、ジーナさんとオレリアさんがコソコソ話をしていたのでおそらく気付いたんだろう。
お願いだから何もしないでくれ…。
そしていよいよ私の番になった。
私と対戦相手が訓練場で対峙すると会場がざわつく。
そりゃそうだ。体格があまりにも違いすぎる。でも大丈夫…力じゃない。ラーシュさんに教えてもらったことを思い出してやれば大丈夫。
目をつむり深呼吸をする。
「はじめ」




