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「失礼します」
旦那様の部屋を訪ねると、中には6人が揃っている。私のこれからについて改めて報告するために集まってもらったのだ。
オレリアさんから先に事情は話をしてもらっていた。
「エミーリア、大丈夫かい?」
旦那様が不安そうな顔をして近付いて来る。
そして周りを見るとみんな同じような顔をしていた。
(あぁ、私のことを思ってくれる人がこんなにも居るんだ)
「はい。心配かけてごめんない。オレリアさんから話は聞いてるかと思います」
「ああ、こちらこそ申し訳なかった。まさかレオン様がエミーリアのことを嗅ぎ回るなんて思いもよらなくてね…気付いたときには遅かったんだ」
私は首を振る。
「私の我が儘のせいでこれ以上皆さんにご迷惑をおかけする訳にはいきません」
「えっ!?」
「でも公爵令嬢として生きるつもりもありません」
「?」
「確かに私の過去は調べられるとすぐに分かってしまうかもしれません。だからと言って隠すつもりもありません。でもこれまで通りメイドとしてここで生活したいんです」
「???」
「レオン様が特殊だっただけで、普通メイドの過去なんて調べようとする人なんていませんよね?だから今まで通りで良いんです」
「――えっと…つまりこのままメイドとして生活を続けると?」
「はい」
「そうか」
「だからと言って孤児院のある町の人たちやレオン様に口止めする必要はありません。言っても大丈夫だと思える…信頼できる人には自分からちゃんと伝えたいんです。そのうえで今の私と向き合ってほしいから」
これが私が出した答えだ。
胸を張ってみんなと向き合う。オレリアさんは口元に弧を描いている。ロイさん、ラーシュさんは無表情で頷いて、義兄たちと旦那様は…無だ…。
「…ダメですか?」
反応のない3人に不安になる。
「いや、エミーリアがしたいようにして良いよ。もし何か言ってくるようなやつがいれば僕とカールが対処するから安心して」
クラウス様がこちらに歩み寄りながら答えてくれる。カール様も彼の言っていることに頷く。あとは旦那様だけだなと思い視線を向けると頭を抱えていた。
「あの…旦那様…?」
「あぁ…ごめん…そこら辺はエミーリアがしたいようにして大丈夫だよ。クラウスが言った通り何かあれば私たちで対処するから」
「はい…」
何だか様子が気になる。
「あの…でしたら他に何か気になることでも…?」
私の一言に旦那様は目を見開いた。
「もちろんあるよ!オレリアからはざっくりとした説明しかなくてモヤモヤしてるんだ!」
「――えっ?」
オレリアさんの方を見ると目を逸らされた。
「1年ほど前に自由に外出できるようにしてほしいって言ったよね?あれは男の子に会いに行ってたのか?」
「……」
オレリアさんはどういう説明をしたんだろ。デレクのことはバレてない?なんて答えたらいいの?
旦那様の問いに答えれずにいると、いつの間にか私の隣に来ていたクラウス様がそっと肩に手を置いた。
「無言は肯定とするよ?」
怒気を含んだような声に寒気が走る…。
「エミーリア…レオン様が私の娘だと知っていると、どんな状況で言われたんだ?他に何か言われたのか?」
旦那様に次々と問いかけられるが答えれない。でもデレクのこともレオン様の件も知られたらマズい気がする。
この手は使いたくなかったけど仕方がない…。
「お父様もクラウスお兄様も怖いです。私を気遣ってくださるのは嬉しいですけど、私だって話したくないこともあります」
涙目に上目遣い&お父様+お兄様呼び
これで旦那様は確実にヤれる。
案の定、旦那様は「うぐっ」と言葉を飲み込んで耐えているようだ。一方、クラウス様は…耳まで真っ赤になってる。初めて見る表情だ。いつも冷静沈着な彼が珍しいと思っているとカール様が口を開いた。
「エミーリア、ズルいよ。俺のことも"お兄様"って呼んでくれよ」
「……あっ…」
(そういえばクラウス様のことを"お兄様"って呼んだの初めてだ)
ここで暮らし始めてずっと"様"を付けて呼んでいたから"お兄様"なんて呼ぶ機会がなかったんだ。何だか可愛い一面を発見して嬉しくなり、クラウス様にエヘヘっと微笑んだ。
「――っくそ…」
悪態をつかれた気がするが、頭をぐしゃぐしゃっと撫でられたのであまり聞こえなかった。
「旦那様、クラウス様。エミーリアは今、多感な時期です。あまりしつこいと嫌われますよ」
オレリアさんが最後に一言付け加えてくれたので、それ以上聞かれることはなかった。




