デレク目線
俺はデレク・ウィンストン、8歳。
城下で食堂を営んでいる両親の元に生まれ育った。
今の生活に不満があるわけではなかった。でも小さい頃から騎士に憧れていた。だってカッコいいじゃん!
騎士になってこの国の人たちを守る仕事をするのが夢になった。
騎士になるためには難しい学校に入らないとなれないんだって、母さんが言っていた。勉強も運動もできなきゃダメなんだって。
だから毎日、勉強も運動も続けている。
そして日常生活でも困っている人を助けることにした。だって騎士って困っている人を助けるのも仕事だろ?
母さんから頼まれた買い物に行く途中、人混みの中で今にも泣き出しそうな顔をした女の子が立っていた。迷子かな?と思って近付いて声をかける。
近くでみたらものすごく可愛い女の子だった。
綺麗な瞳をしていて、吸い込まれそうだった。
話を聞くとやっぱり迷子だったから一緒に友達を探してあげることにした。
手を繋いだら俺よりも手が小さくて、なんか分からないけどドキドキした。俺は緊張して色々喋っていたけど、彼女は不安だったのか何も喋らずに俯いていた。
「あっ」
「どうした?」
どうやら友達の声が聞こえたらしい。
残念だけどここでお別れだ。繋いだ手を離したくなかった。でも母さんの買い物もしないといけなかったから残念だけど「じゃぁな」って手を離そうとしたら、ギュッと手を握られた。
「あのっ…名前…名前教えてください」
顔を真っ赤にして名前を聞く彼女がとても可愛かった。
「デレク。デレク・ウィンストンだよ」
「また、私と会ってくれますか?」
彼女のほうから会いたいと言ってくれた。彼女も残念に思ってくれたのかな?嬉しくて顔がにやけてしまう。
彼女が握った手を俺も握り返した。
「いいよ!俺の家、すぐ近くで食堂やってるからいつでも遊びにきてよ」
――彼女が初めて笑った。
花が咲いたように微笑んだ彼女にギュッと胸が締め付けられた。
エミーリアと名乗った彼女は週に一度、俺の家まで遊びに来るようになった。
彼女は貴族の屋敷でメイドをしてるんだって。
こんな小さい子を働かせるなんて…と思ったけどとても楽しそうに話すので、メイドの仕事が好きなんだろう。
彼女は屋敷の料理人たちに料理を教えて欲しいけど、包丁が扱えないとダメだと言われ落ち込んでいた。だったらと俺は食堂の準備の手伝いを提案してみた。
目を輝かせて「ありがとう」とお礼を言われた。
その顔にドキドキしてしまった。
彼女はひたむきだった。仕事の休みの日にうちに来ては数時間だけど野菜を切りながら包丁の練習をしている。
驚くべきことに呑み込みが早くてあっという間に上達していた。今では俺よりも上手いんじゃないかな?
一昨日来たばかりのエミーリアが、突然訪ねてきた。週に2回も会えるなんて嬉しかった。
珍しいなと思って話を聞くと料理人たちに包丁の扱いを認めてもらえたらしい。
そこで料理を教えてもらえることになったらしいんだけど、一番最初に作ったものを俺たちに食べて欲しいって持ってきてくれた。
なんの料理なんだろって思ったらお菓子だった。
ちょっとビックリしたけど、お礼をしたくてお菓子の作り方を教えてもらったらしい。エミーリアのその気持ちがとても嬉しくて一口食べた。
うん、めちゃくちゃ美味しい。
褒めたらとても喜んでいて「今度はちゃんと料理を持ってくるね」って言ってくれた。
――話をしていたら、気付けば夕方になっていた。危ないから近くまで送ってあげることにする。
二人でいるのなんて慣れているはずなのに、夕暮れ時に歩く道はいつもと違う気がして緊張した。
夕日に染まった彼女の顔が綺麗で目が離せなかった。出会って1年しか経ってないのに…急に大人びて見えた。
他愛無い話をしていると目の前に男の子が現れた。いかにも貴族ですって感じの格好をしている。
エミーリアを見ると顔色が少し悪かった。知り合いなのかと尋ねても歯切れの悪い答えが返ってくる。
2人のやり取りを静観していると、彼がエミーリアの腕を掴み抱き寄せた。
えっ…どういうことだ!?と困惑したいると彼の冷淡な視線が投げられる。
「もうエミーリアに関わらないでくれるかな?」
高圧的にそんなことを言われたから頭に血が上り、キツい言葉で名前を尋ねた。
俺でも知っている名前…この国の第一王子だ。
なんでそんな人が町にいるんだ。それにわざわざメイドを迎えに来たのか?分からないことばかりだったが、次に出てきた言葉で全てを理解した。
「エミーリアは公爵令嬢だよ。普通なら君が話をすることもできない相手だ」
彼女を見るとなぜか動揺している。彼が言ったことは本当なのか?
エミーリアが公爵令嬢?なにそれ…聞いてないよ?
「メイドなんて嘘ついて…俺をからかって楽しかったかよ」
なんでだよ・・・。なんで・・・
エミーリアが公爵令嬢だったことがショックなんじゃない。
なんでそれを黙ってたんだ…なんで他のやつからそんなことを聞かされなきゃきけないんだ。
「お前の顔なんて二度と見たくない」
――酷いことを言った。
最後に見た彼女の顔は今にも泣きそうな顔をしていた。そして俺の名前を呼んだ。
だけど振り返るとまた酷いことを言ってしまいそうで…その場を離れた。
彼女の泣きそうな顔が頭から離れない。
なんで君がそんな顔するんだよ…。
 




