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 あの衝撃的な出会いから1年が経った。


 あの日、帰ってから旦那様に頼んで自由に外出できるようにしてもらった。だって会いに行くって約束したし…。

 最初は許してもらえなかったけど、これまで以上にメイドの仕事をこなすという条件を付け、更に"お父様"って呼んでおねだりしたのだ。



 彼の実家を知ったからと言って騎士学校に入学するという目標は変わっていない。今も勉強と運動をしている。

 週に一度デレクに会えるので、今まで以上に色んなことを頑張れる。




「こんにちは」


 デレクの家を訪ねる。


「エミーリアいらっしゃい」


 食堂をやっている彼の実家は朝が忙しい。私はいつもこの忙しい時間帯に会いに行く。

 なぜか?

 "ご両親の印象を良くしとかなきゃ"っていうのも少しはあるけど、実は公爵邸ではなかなかキッチンに入れてもらえない。私は料理を教えて欲しいのだ。


 これまでの料理経験といえば、母が倒れてから亡くなるまでの半年、ベッドで寝ている母に指示してもらいながら作っただけ。なので包丁の持ち方や皮の剥き方、切り方など全て自己流。それが正しいのかさえ分からない。

 縫物はメイドの仕事で必要だったためジーナさんから教えてもらった。同じように料理も習いたかったのだが、彼女は料理が苦手で教えれないと言われた。それならばと本職の方にお願いしたかったが、公爵邸の料理人から「せめて包丁が正しく扱えるようになったらね」と言われた。そのため、ここで一から教えてもらっている。


 最初は迷惑かな思ったけど、デレクもご両親も快く引き受けてくれた。案の定、私の包丁の扱い方はダメだったらしくその矯正から始まった。


 今では手慣れたものだ。


「上達したね」

「でしょ?」


 この分だと料理人さんたちに教えてもらう日も近いかな。1年かけて包丁の持ち方から野菜の皮剥き、さらには様々な切り方まで基礎を身に付けた。これを公爵邸の料理人たちに披露して料理を教えてもらおう。


 ちなみにデレクには経緯は話してないけど、公爵家で見習いメイドとして働いていることは伝えた。この年齢でメイドとして働いているのは事情があるのだろうと察してくれたのか、何も聞かないでくれた。




 彼と会えた日はいつもご機嫌だ。

 ジーナさんにだけデレクの話をした。するとその食堂のことを知っていたようで「あそこ美味しいよね」と言っていた。今では私の話を色々聞いてくれる。お姉さんがいたらこんな感じなのかなと思いながらいつも話をしている。


 ジーナさんと廊下を歩いていると「エミーリア」と声をかけられた。前方から遊びに来たレオン様が歩いてくる。


「レオン様、いらっしゃいませ」

「なんかご機嫌だね」

「そうですか?」

(午前中デレクの所に行ってたから顔がにやけてたかな?)


 レオン様に指摘され顔を引き締める。その様子を見られたようでクスッと笑ったのが聞こえた。


「今日もお茶を入れてくれる?」

「かしこまりました。準備してお持ちしますね」


 レオン様は私のお茶をお気に召してくれたらしい。来るといつも頼んでくれるから「上達したかも」と嬉しくなる。

 私は一礼してその場を離れた。



 エミーリアが立ち去った後、レオンの表情からは笑みが消えすぐ後ろにいる側近に声をかける。


「エミーリアの行動を調べろ」




 ****



 今日はついに公爵邸の料理人さんに教えてもらえる日!


 事前に包丁が扱えるようになったと実技テストを受けさせてもらった。すると私の包丁さばきにみんな驚いていた。

 忙しい食堂でこれでもかというぐらい沢山の野菜の皮剥きをし、切り刻んだ。合格しないほうがおかしい。



 今日作るのはパウンドケーキ。包丁は全く関係ない…。

 というのも初めて作ったものをどうしてもデレクとご両親にあげたかった。


 料理人さんたちも「えっ?」って顔してたけど見ないふり。



 ―――説明を受けながら作業をすること2時間。ドライフルーツ入りのパウンドケーキが完成した。

 念のため味見をしてみると


「ん~!美味しい」


 とても上手にできた。


 可愛いラッピングをして着替えをして彼の家に向かう。実は一昨日行ったばかりなので、今日はサプライズ訪問だ。いつも行くのは午前中だけど、ランチ時間が過ぎてから出向いた。




「ん!これ美味しいよ」

「エミーリアちゃん本当に初めて作ったの?」

「うん、美味い」


 デレクもご両親も大絶賛してくれた。

 最初はただデレクと仲良くなりたいという下心しかなかった。でもここで過ごす時間が増えていくたび、ご両親のことも大好きになった。今ではかけがえのない時間となっている。



「遅くなったからそこまで送るよ」

「ありがとう」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けば夕方になっていた。

 出会ってから1年、デレクには包丁の使い方を教えてもらったり、町に連れて行ってもらったりとずいぶんと仲良くなれた。学校に入学するまであと5年、この時間がいつまでも続くと信じて疑わなかった。



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