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 公爵家に来てから半年が経った。

 体も少しだけど大きくなったし、掃除やお茶を入れるのも手慣れてきた。空いた時間には勉強や体力作りをしたり、たまに護衛のラーシュさんに剣の稽古をつけてもらったりと忙しいけど充実した日々を過ごしていた。


 フィデル様の家に行って以来、義兄たちはたまに私を連れて出かけるようになった。でも貴族からのお茶会の誘いなど、公式の場には一度も行ったことがない。そこは旦那様からきちんと指示が出ているようだ。



 ****



 今日は義兄2人とレオン様と私の計4人で町へ出かける。

 なぜか?

 それは私がジーナさんに言った一言がキッカケだった。


「この家に来てから一度も町に行ったことがないなぁ。お買い物とか行かないの?」


 何気なく言った一言。

 ジーナさんが近いうちに連れて行ってくれると約束してくれた。そして私の外出許可を得るためオリアナさんに聞きに行くと、そこからが早かった。


 瞬く間にこのお出かけが決まったのだ。

 最初は旦那様が連れて行くと言っていたらしい。でもロイさんとオリアナさんに止められたそうだ。


(私はジーナさんと行きたかったのに…)


 なぜレオン様が入ったのか?

 それは出かける日にちが決まった後、彼から同じ日に遊びたいと連絡が入った。カール様がご丁寧に3人で町に行くと伝えたため、レオン様もそれならばと加わったのだ。



 一応お忍びということでみんな服装は軽装だ。私は今日も旦那様のクローゼットの中からワンピースを選んだ。


 それにしてもこの国の王子が気軽に町に来てもいいのだろうか?隣を歩くレオン様をチラッと見ると私の視線に気付いたのか、こちらを見て微笑む。さすが攻略対象だけあってカッコいい。軽装でもオーラは消せないから浮きまくりだけどね。



 初めて来た町はとても活気に溢れていた。田舎の町とは全く違う町並みに心が弾んだ。

 ――色んなものに気を取られていると、みんながいないことに気付いた。


「あれ…みんなどこ行った!?」


 辺りを見回しても3人ともいない…それに8才の身長では大人に埋もれてあまり周りが見えなかった。


「困ったなぁ」


 とりあえずみんなが進んだであろう道を行く。

 ――しかし、歩いても歩いても見つからない。


「…本格的に迷子かしら…?」


 初めて来た町で右も左も分からない中、迷子になり不安が募る。一人になってどれぐらい経っただろうか、不安で涙が込み上げてくる。道の真ん中で一人涙をぬぐっていると声をかけられた。


「大丈夫か?」


 声のする方へ視線を向けると、私の前に少し背の高い男の子が立っていた。目に溜まった涙で視界がボヤけ顔がハッキリとは見えない。


「おまえ迷子か?」


 今声を出すと涙が溢れそうなので頷く。


「そっか、じゃぁ俺が一緒に探してやるよ」


 男の子が私の手を繋ぐと人混みの中を進んで行く。

 手が触れた瞬間、ドキっとしてしまった。そういえばまだ一度も顔を見ていない。こっちを向かないかな…なんて思っていたら想いが通じたのかこっちを向いた。


 その顔に見覚えがあった。ううん、間違うはずがない。彼はデレクだ――。

 思いもよらない突然の出会いに、失神してしまいそう。


「誰と来たんだ?」

「――えっと…」


 後々のことを考えるとここで義兄と言ってはマズイ気がする。でもこの状況でご主人様となんて言えない。となると…


「友達と」

「そうか、周りをよく見とけよ」


 クラウス様にフィデル様、そしてデレク…みんな簡単に触れるけど、前世でも今世でも同世代の異性に免疫のない私は毎回ドキドキし過ぎて心臓が持ちそうにない。それに、触れられた所に神経が集中して周りが見えなくなるのだ。


 手を繋いでどれぐらい経ったのだろうか。彼が何か話しかけてくれているけど頭に入ってこない。

 でも何か…次に繋がるチャンスを作らなきゃと、考えを巡らせ声を発しようと立ち止まった――そのとき


「エミーリア」


 私を呼ぶ声が聞こえる。


「あっ」

「どうした?」

「私の名前呼んでる」

「じゃぁこの近くにいるんだな」

「みたいです」

「もう大丈夫か?俺母さんに買い物頼まれてて」

「大丈夫です。ありがとうございました」

「いいよ!じゃぁな」


 彼が行ってしまう。このままでは入学するまで二度と会えない。せっかく会えたのにそんなの嫌だ。


「あのっ…名前…名前教えてください」


 緊張で声が震える。離されかけた手を私がギュッと握った。


「デレク。デレク・ウィンストンだよ」

「また、私と会ってくれますか?」


 彼は目を丸くしてキョトンとした。少し考えている彼の様子を見て、初めて会った子にこんなこと言われても迷惑だったかなと少し後悔する。

 しかし彼は私の手を軽く握り返してくれた。


「いいよ!俺の家、すぐ近くで食堂やってるからいつでも遊びにきてよ」


 そう言って可愛らしい笑顔を見せたデレクは人混みに消えた。姿が見えなくなっても私はその場から動くことができなかった。


「…また会える?」


 嬉しくてまた涙が出てくる。その時人混みの中から義兄たちとレオン様が姿を現し私を見てギョッとした。


「えっ…泣いてる…」

「えっ…俺たちのせい?」

「――ごめん」


 私の嬉し涙を迷子になったため泣いていると勘違いされたようだ。


「ごめんね。こうしてればもう離れないよ?」


 レオン様はそう言って私の手を握る。…しかも今さっきまでデレクと繋いでいたほうを。


 赤面するどころか真顔になってしまったのは許してほしい。


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