表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

7

「エミーリア、俺たち出掛けるから付いてこい」


 カール様が部屋の片付けをしている私に声をかける。


「どこに行くんですか?」

「今日はフィデルの家に行くんだ」

「えっ!?」


 今一番会いたくない人の名前が出てきて顔が強ばる。


「大丈夫だよ」


 私の顔を見たクラウス様が説明してくれる。


「フィデルがこの前の無礼のお詫びをしたいんだって」

「もし、また何かされそうになったら俺たちが守ってやるから」

「でも私まだ仕事が…」

「俺、オレリアに聞いてくるよ」

「えっ、待って――」


 カール様は人の話も聞かずオレリアさんに確認しに行ったようだった。


「でも私、お仕着せしか持ってませんので」


 クラウス様にさりげなく行きたくないと伝える。


「それなら大丈夫だよ」

「?」


 何が大丈夫なのか聞けないままカール様が戻って来た。


「エミーリア!オレリアが行って良いってさ」

「……」


 そう言われる気がしていた。絶対これ貴族と交流させる気だよね…そう思いながら遠い目をしていると誰かに手を引かれる。前を見るとクラウス様だった。


「さぁ、準備しに行こうか?」

「準備?」




 クラウス様に連れて来られた部屋は旦那様の部屋だった。なぜここに?と疑問に思っていると旦那様が姿を現した。


「エミーリア!今から出かけるんだろ?さぁ服を選んでくれ」


 旦那様のウォークインクローゼットの更に奥にクローゼットがあり、そこを開けると女の子の服が沢山あった。


「…旦那様…これって?」


 顔を引きつらせ、彼の方を向くと得意気な顔をしている。


「もちろんエミーリアの服だよ!初めて会った日から君に似合いそうなものを少しずつ買ったんだ」

「にしても量が…」


 クローゼットの中には一年かけても全て着れそうにないほどの服が並んでいる。メイド見習いの私は普段お仕着せのため、こんなに服を揃えられても着る機会がないのだ。

 それによく見るとドレスが多い。ドレスは着る機会がないはずなのに。

 色々と聞きたいことはあるが早くと準備を急かされる。



 沢山の服の中から、動きやすそうな淡いピンクのワンピースを選んだ。


「よく似合ってるよ」


 破顔した旦那様が近付いてくると、私を抱き上げた。

 突然のことに抗議をしたかったが、こんなにも嬉しそうな顔をされては何も言えなかった。





「じゃぁ行こうか」


 クラウス様が私と手を繋ぐ。メイドに対してこの振る舞いは如何なものかと思いつつ、離そうにも力が強くて離せなかった。クラウス様をチラッと見ると笑顔で誤魔化された。


 旦那様の部屋を出るとき、服のお礼をと思い彼の耳元でコソッと呟いた。


「ありがとう、お父様。行ってきます」


 初めて"お父様"って呼んだから恥ずかしくて、はにかんだ笑顔を旦那様に向けた。彼は目を丸くしていたが段々と顔が赤くなりその場に崩れ落ちていた。



 ****



 フィデル様の家に到着し、応接間に案内された。


「遅くなってすまない」


 部屋に入るとレオン様とフィデル様の姿が見えた。そして彼らの奥にもう1人いる。


「彼はネルダール侯爵家の次男ニコラスだよ」


 クラウス様が教えてくれた。彼こそもう1人の攻略対象だ。

 私はレッスンで習ったばかりのカーテシーをする。


「へーこの子が見習いのメイド?可愛い顔してるね」


 ニコラス様が興味津々に近付いてくるのでクラウス様の後ろに隠れた。


「今日はフィデルがエミーリアにお詫びをしたいって言うから連れてきたんだけど」


 クラウス様は私を庇ってくれてた。その言葉にフィデル様が一歩前に出てくる。


「エミーリア、この前は悪かった。そのお詫びと言ってはなんだがお菓子を用意したから食べてくれ」


 フィデル様の視線の先には、美味しそうなお菓子が沢山並んでいる。

 前世では病気のせいで食べたくても食べれなかったし、お母さんと暮らしたときも孤児院にいる間も貧しくてお菓子なんてほとんど食べれなかった。それが今、目の前に食べてくれと言わんばかりに置いてある。


「本当にこれ食べて良いんですか?」

「もちろんだよ」


 その言葉に甘えて、席に座り目の前にあるケーキに手を伸ばし、口に運ぶ。


「!美味しい」


 思わず声が出た。

 公爵家では義兄たちが甘いものがあまり好きではないようで来客時ぐらいしかお菓子が出ない。料理人さんたちがたまにコソッとお菓子をくれるけど、ポケットに入れておけるようなクッキーが多いので私にとってケーキは貴重なのだ。



 お菓子に夢中になり過ぎて、ふと我に返るとみんなが私を見ていた。その視線に恥ずかしくなる。


「ごめんなさい…つい…」

「気にしないで。美味しそうに食べてる姿が可愛くてね」

「しっかり食べて大きくならないとな」


(――ああ、きっとみんな兄のような心境なんだわ。こんな口いっぱいにお菓子を頬張ってる私は女として見られないものね)



 この日以降、お菓子を餌に彼らの集まりによく呼ばれるようになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ