「煙草」【ショートショート】
寒色の空と有色を失くした私が、今日も窓辺で藻掻いている。
季節外れの風鈴と消費期限の切れた辞書が、私の頭を殴った。
『生きる』『生きる意味』と、震える手で何回も辞書で調べても私を納得させる論理はどこにもない。
人間って、とても愚かだ。生きることに前向きなくせに、その理由は書いていない。
焼いた目玉焼きの匂いと、まだ口をつけていない麦茶の冷たさが私の鼻腔を突き抜ける。
四月の季節風と僅かに暖かい木洩れ日はどうやら私の味方にはなってくれないらしい。
美味しくもないタバコを吸いながら、私は表紙が擦りきれるほど読んだ、安っぽい自己啓発本を今日もまた読み返す。不味いコーヒーと特に特徴のない目玉焼きを口に含みながら。
答えのない答えを知ろうと足掻く私は、救いようのない愚か者だ。
家賃5万2000円のワンルームのアパートに引きこもっている空虚な私は、誰にも見つからないようにそっと涙を流した。
(終)
※ここから先はエピローグです。
おまけーエピローグー
艶やかな服を身にまとい、派手な下着を身につける。そして、夜の歓楽街へ走り出す。
私の身体は、もう私のものではないのかもしれない。数え切れない程の男とかいう奴にお人形のように扱われ、彼らは遊びに飽きるとお人形の左手に少しは価値のある紙切れを握らせる。
私はとても滑稽だ。目も当てられないほど醜悪な存在だ。
粘液にまみれた体外も体内も、もう所有権は自分にはない。
ほら、壊してくれよ。
頼むから壊してくれよ。
生きる理由なんて無くても、私みたいな死ぬこともできない人間は生きなくちゃならないのだ。
煙草と何かの苦味の残った口に、嫌でも無理やり食べ物を突っ込んだ。
昨日も今日も、なぜか私のもとには朝が来るのだ。