遭遇
今日は黒猫が目の前を横切ったので初投稿です
軽い休憩をした2人、今までよりかなりアンリの距離が近いことにグリースは気付くことなく森を歩いていた。
『…なぁ、帝国はまだかよ。そろそろ同じ景色ばかりで飽きて来たぜ』
「文句を言うな、2日もあれば到着できる」
『そうだけどよぉ…変わりばえしない森の景色ってのは見ていてイライラしてくるぜ』
グリースは好き勝手に喋り続けるアーモンにため息をつき、アンリはアーモンを無視して歩き続ける。
『そうだ!なぁグリース、お前は帝国に詳しいのか?』
「…唐突にどうしたんだ?」
突然アーモンが何か閃いた様子でグリースに話しかける。
『暇だからよ、目的地の帝国について話でもしてもらおうかと思ってな』
「…本当に勝手な奴だなお前は。それに、長い年月を生きている悪魔の方が知識も豊富なんじゃないか?」
グリースの言葉にアーモンは首を横に振った。
『俺は自分に興味のあることしか知らねぇし、知ってもすぐに忘れちまうよ』
「なら、俺が今説明しても無意味だな」
『おいおいそりゃねぇだろ?』
不満を隠さず抗議するアーモンを無視するグリースの袖をアンリが引いて止めた。
「…どうした?アンリ」
「私も、帝国について…知りたい」
『おお!気が利くやつじゃねえかお前!』
真面目な顔のアンリを茶化すようにアーモンが叫んではやし立てる。
「アーモンのため…じゃない。私が…知りたいだけ」
「…はぁ、わかった。俺が知っている限り話そう」
「…ありがとう」
『面白いトークを期待するぜ?』
帝国、王国と同じ30年程度の歴史を持つ大国であり、王国と同じように1人の権力者が国の政治を取り仕切っている。
王国は国王、帝国は帝王と呼ばれる奴だ。
基本的に国王や帝王は相続制で、子供やその親族が代々王の地位を継いでいくのが基本だったが…最近、帝国で革命らしき騒動が起きたらしい。
「…革命、そんなところに行って大丈夫なの?」
『巻き込まれて死んじまいましたなんて笑い話にもならねぇぜ?』
「幸い、そこまで大きな物じゃないし…既に争いは収まっている。心配することはないはずだ」
そして、ここからが大事な話だ。
帝国には王国と同じ2人の勇者がいる。
1人は『怪力の勇者』だ、こいつの逸話は王国でも有名だからな…事実かは怪しいが。
しかし、もう1人は名前すら知らない。
『…それ、本当にいるのか?』
「王国に負けたくない一心でついた嘘かもしれないが、一応は気を付けておこうと思う」
「…勇者にあったら、どうするの?」
その言葉にグリースは口を噤む。
…グリースは勇者を恨んでいるわけではない。故郷の村を壊滅させた神速の勇者と紫電の勇者の2人を恨んでいるだけなのだ。
しかし、勇者という理不尽な存在に思うところがないという訳ではない。むしろ勇者という存在そのものに怒りを感じているのかもしれない。
グリースは自分の怒りがどこに向いているのか分からなくなっていた。
だからなのか、アンリの質問に曖昧な回答をしたのだ。
「…状況によって判断する。とりあえずは俺が指示する」
「…わかった」
考え込んでしまっていたからだろうか、グリースは達は油断していたのだ。迫り来ていた敵に気付くのが遅れてしまった。
ゴゴゴッ! と地面が揺れて初めてグリース達は敵の接近に気がついた。
「っ!?なんだ!!」
「…敵?」
『まぁ、人間じゃあないだろうな』
アーモンの言った通り、木々をなぎ倒して来たのは人間よりも遥かに大きなバケモノだった。
身体中を覆う茶色い鱗は日の光に照らされて鈍く輝き、爬虫類のような緑色の瞳はギロリとグリース達を睨みつける。
そして、特徴的なのは背中に生えた一対の翼。
その姿はまるで…
『おぉ、翼の生えたトカゲさんのお出ましだぜ』
「ワイバーンか」
「どうするの?」
とりあえず、襲われる前に逃げよう。
そう言おうとしたその時だった。
「追いついたぁぁぁぁ!!!」
ワイバーンの後方から男の叫び声が聞こえたかと思えば、あっという間に1人の男がワイバーンの頭上を飛び越えてグリース達の前に飛び込んできた。
アーモンは男が近づいて来た瞬間にロエースに姿を隠し、アンリはグリースを守ろうと前に出ていつの間にか用意していたナイフを構える。
「うおっ!?誰だお前達!」
「…お前、まさか!」
突然現れたのは綺麗な茶色の髪を肩まで伸ばした赤い瞳の大男だった。そして、その姿をグリースは知っていた。
「…怪力の勇者…だと!」
グリースの驚いた顔を見た怪力の勇者はニカッと笑った。
「おお、やっぱり有名人だな!俺は」
帝国に到着するより先に、グリース達は1人の勇者と出会ってしまった。
明日も黒猫が目の前を横切ります