脱獄
長いこと活動報告にネタを投獄してない気がする
日が昇り、朝礼の時間が近づく。
看守がいつも通りに囚人たちを起こして周る。
そして223番…グリースの牢屋の前で止まる。
「……」
昨日の朝、布団を剥がそうとして理不尽な対応をされたばかりの看守は昨日と同じように布団が盛り上がっているグリースの牢屋の前を黙って通り過ぎた。
それと同時刻、グリースとアンリは刑務所の地下道を駆け抜けていた。
『こんな古典的な脱獄が気づかれないもんだなぁ!』
「…そのために、色々と策を練った」
「だが、それでも気づかれるのは時間の問題だぞ」
「…この道が?」
「脱獄したことがだよ」
『そりゃこの道が見つかることはないわな』
アンリは刑務所の地下に収まらず、なんと王国全体に蜘蛛の巣を張るかのように広大すぎる秘密の道を張り巡らせていた。
そして、出口の数は刑務所内部と王国の外を含めて113カ所…その全てが詳しく調べられても分からないほどに巧妙な細工で隠されていた。
『女子トイレ、男子トイレは隠すのも簡単だが…まさか刑務所の廊下に堂々と出入り口を作ってるとは思わなかったな。いきなり廊下に穴が開いてお前さんが出てきた時はさすがの俺も驚いたぜ』
「一生懸命に、隠そうとするからバレる」
アーモンの賞賛にアンリが誇らしげに応えた。
結局、3人は見つかることなく秘密の道を駆け抜けて王国を抜けることに成功した。
囚人の脱獄に看守が気づいたのは、なんと脱獄から5時間を過ぎてからのことだった。
脱獄に気づいた理由は、グリースが朝食と昼食を食べにこなかったことである。
そして刑務所は脱獄した囚人『1人』を徹底的に探し回るが、時すでに遅し…彼らは既に国の外、探すだけ無駄であった。
このあっけない脱獄劇はすぐに王国中に知れ渡る。しかし国民は【勇者殺し】に怯えるどころか無関心であった。
いや、むしろ関心を持つほうが難しかったのだ。
なぜなら、勇者殺しに怯えていたのは国民ではなく『国』そのものであり、勇者殺しの怖さを知っているのは殺された勇者だけなのだから。
確かに、彼を直々に相手する看守たちや同じ場所を共有しなければならない囚人たちはその異名や彼の雰囲気に恐怖したが、噂程度でしか知らない大衆はその現実離れした男を恐れるほど彼自身に興味を持てなかったのだ。
そして、勇者殺しの脱獄は国の上層部たる権力者たちのみが大騒ぎするだけにとどまった。
『さて、第一の目標は達成だな。かなりいいペースだ、これからもその調子で頼むぜ?相棒サンよ』
「当たり前だ」
グリースはそう言って右手を前にかざす。
前に突き出された右掌から赤い光が放たれ、幾何学模様のような丸い陣が描かれる。
「…【魔術剣】ファイア」
グリースの言葉と共鳴するかのように陣が一層強く輝き、一振りの剣が現れる。
銀色の刀身から赤い炎が噴き出す諸刃の剣を掴み取り、グリースはニヤリと笑う。
「お前がくれたこの力…ようやく馴染んできたみたいだ」
『それはお前が掴み取った力だ、勇者の【才能】に対抗しうる契約により与えられし【対価】…使いようによっちゃあ神すら殺す力になる』
アーモンの言葉にグリースはうなづく。
「この剣、魔剣…なの?」
「さあな、魔術を剣にしてるから魔剣…ってことになるのか?」
『良いんじゃねえか?間違ってはいないからな』
【魔術剣】魔術を剣に変えることができる。しかし、グリースは本来の魔術を扱うことはできなくなる力。
『デメリットはでかい。しかし物は使い方だ。お前には荒削りだが剣の才能がある。…勘違いするなよ?剣術の才能じゃねえ、剣を扱う才能だ』
力を与えると言った時、アーモンはそう言った。
国の外、居場所もコネも無い2人の脱獄囚は空を見上げる。
満月…眩しすぎる月の光が魔術の剣を照らした。
『その力で、俺の望みを叶えてくれよ?』
アーモンは妖しく笑ってグリースに拳を差し出す。グリースは彼の差し出す拳に拳をぶつけ合い、静かに笑って応えた。
「感謝しろ悪魔、お前の望み…お前の力の全てを俺のために利用してやる。俺は俺自身のためにお前の望みを叶えてやる」
悪魔はその言葉にニヤリと笑った。
『当然だ…契約者は悪魔を利用するものだからな』
悪魔はそう言って虚空に姿を消した。
言いたいことを言い、聞きたいことを聞いて満足したのだろう。残された2人は自由な悪魔に呆れてお互いを見つめ合う。
「…グリース、さん?これからどこに行くの?」
「グリースで良い、次の目的地は決まっている。アーモンには言ってなかったが…まぁあいつは勝手についてくるからな」
相棒である悪魔に言っていない、その言葉にアンリは目を輝かせたが…グリースが気付くことはなかった。
「次は帝国に向かう」
「…帝国」
王国から近く、王国に負けない経済力を持つ帝国。最近革命が起きたらしいが、帝王が変わっただけであまり大きな騒動にはならなかったらしい。
この他に大国と呼べるのは宗教国である光国と魔王が治める魔国だが、この二つは帝国と比べて王国から遠い。
持ち物が無い今では向かっている途中で飢え死にする未来が鮮明に想像できる。
「帝国は王国と深い繋がりはない、俺達が犯罪者だとバレない限りは大きな問題もないだろう」
「なら…善は急げ」
2人は帝国に向かって歩き出す。
王国にいる紫電の勇者を殺すために、1度帝国で力をつける。
「紫電の勇者は強い、だから俺たちは準備しなければならない」
「…わかってる」
確実に復讐を果たすために。
小ネタはちまちま投稿してるんですけどね