表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/32

2


「こら、遅いぞ!」

「すみません!!」


 講堂の入り口で可丈が腰に手を当てて待っていた。いまいち締まらないのは、ふわっふわの薄橙色の襟巻きのせいだ。じっと蓮花が襟巻き――可丈の守龍を見つめると、毛に埋もれていた目と目が合ったが、ツンと逸らされる。

 蓮花たちは、苦笑いしながら講堂に入る。


「うあぁ。ここが講堂かぁ。広いな……あ。あああ⁉」


 蓮花は焦ってバッとうつむいた。なぜなら講堂の正面の壁に第三皇女・蓮花の巨大な姿絵が飾られていたからだ。


――な、なんでこんなところに、私の絵が飾ってあるのよ!?


「どうしたんですか?」

「な、なんでもない!」


 隼と、うつむいたままの蓮花は、候補生の列の端に並んだ。


「龍騎士訓練所の院長、陸源(りくげん)老師が出てきましたよ!」


 顔を上げないようにして、目だけを壇上に向ける。

 蓮花の絵の前に、袈裟をかけた小柄な好好爺が現れる。しかし何かおかしい。そのおかしさの原因に気がついたとき、候補生のほとんどは肩を震わせながら下を向いた。陸源の頭の上に乗っているのが髪の毛ではなく、小さく変化(へんげ)した、ふわふわの紫色の守龍だと気がついたからだ。結果的に、蓮花がうつむいているのが目立たなくなった。


 陸源はコホンと咳払いをする。


「あ~。適性検査に合格した十三人の皆さん。おめでとうなのじゃ。あなた方は龍騎士候補生となったのじゃ。しか――し、十三人全員が龍騎士になれるわけではないのじゃ。龍騎士になるには、守龍を得て龍騎士にならなくてならないのじゃ」


 候補生たちは、みな緊張して、ゴクリと喉を鳴らした。


「守龍を得るには、宝貝(ぱおぺい)で宝珠を作らなくてはならないのじゃ。しかし、宝珠を作るには、危険が伴うのじゃ。だから見合わない候補生は、容赦なく失格にして、ふるい落とすのじゃ」


 入隊式で浮かれていた候補生たち「ふるい落とす」と聞いてざわりとした。


「それに宝珠を作れても、全員が龍騎士になれるわけではないのじゃ。作った宝珠を欲しいという龍がいなければ、守龍を得ることはできないのじゃ。宝珠は、魂を分割して作るものじゃ。守龍を得られれば、分割した魂を補って余りある加護が得られるのじゃが、守龍を得られなければ、魂は宝珠ごと無に帰すのじゃ。そうなると、記憶の一部や感情が失われることもあるのじゃ。だから、よく考えてみるのじゃ。ここで辞退するか、それとも危険を承知で続けるか……」


 候補生たちの顔は、不安に揺れていた。しかし、誰も動かない。

 陸源は、しっかりと頷いた。


「三ヶ月、頑張るのじゃ!」


 壇上を去りかけた陸源が再び壇上に戻り、第三皇女蓮花の絵を指さす。


「頑張れば、このように美しい姫様を、お嫁さんにする事もできますぞ!」


 そう言い残して、陸源は今度こそ満足そうに壇上を降りた。

 蓮花の絵は、候補生の士気を上げるためのものだったらしいが、蓮花にとってはなんとも苦痛の多い入隊式だ。


「あの美しい女性は誰ですか?」


 隣にいる隼が、蓮花の絵を指さして首を傾げた。本人が隣にいるのに気が付かない。「そりゃあ、美化されているから仕方がなけどさ」と苦笑いしながら、説明をしようとした蓮花たちの後ろから、声がかけられた。


「知らないのか? 孫家の使用人」


 綾錦をまとい、絵の蓮花と比べても遜色がないほどの美貌の少年だ。


「氾洛修様……」


 蓮花は反射的に、洛修に背中を向けたまま顔を隠すようにうつむいた。蓮花と面識はないが、氾皇后の甥である。孫金餅なんかよりも、はるかに皇家に詳しいはずだからだ。

適性試験の時は、孫金餅と揉めている洛修を、蓮花は遠くから見ていただけなので、なんの危険も感じなかったが、こんな近くで会ってしまったら……。


――バレる。絶対にバレる! バレないはずがない!!


 洛修は、ゆったりとした優美な動作で隼に頷いた。


「うむ。隼といったな。孫家を抜け出せたようで何よりだ」

「はい。ありがとうございます。あの……その節はありがとうございました」

「何のことだ?」

「私が適性検査で並んでいた時の事でございます。二番目に並んでいた氾家の方には、大変助けられました」

「知らぬ」

「そうでございますか。でもお礼を申し上げます」

「うむ」

「ところで、あの姫のことであったな……」


 洛修は姿絵の蓮花を、うっとりと見つめた。


「あの方は、第三皇女であらせられる蓮花姫だ」

「蓮花姫……?」

「本当の姫は、あの程度の姿絵では表す事のできない、高貴で美しい姫なのだ……」


 それ、誰の事を言っているのよ!? え? むしろ実物の影もないくらい美化されているわよね? それよりも美しいってどういう事? だ思わず突っ込みたくなる蓮花だ。


 洛修は、悩ましげなため息をつく。


「清藍国の第三皇女は、その高い身分にもかかわらず、龍騎士と結ばれなければならないという、古い古い掟に縛られているのだよ。なんという不幸だろう……。私が見事、龍騎士となった暁には、姫と結婚してさしあげたいと思っている。身分の釣り合う私が……。きっと姫も喜ばれるであろう」


 うっとりとため息をつく洛修。

 蓮花はゴクリと唾を飲み込む。もし洛修が婚約者を決める時までに龍騎士になっていたら、その可能性がないわけではないからだ。龍騎士のほとんどは庶民出身だ。今までの第三皇女も庶民に嫁いでいた。高官の子息が龍騎士になった例もないではないが、時代があわなかったのだ。蓮花の結婚相手の筆頭候補が可丈なのも、優秀なのに加えて、姓持ちだからなのが大きい。しかし、もし釣り合いのとれる身分の子息が龍騎士となったら……。

 おそるおそる蓮花は肩越しに洛修の顔を見る。氾皇后に似た、煌びやかな美貌。


――……ないわ。だって私よりもきれいだもん。


 うげっとなる蓮花に、洛修はとうとう気がついてしまったようだ。洛修はカッと目を開く。


「そなた……!!」


――バ、バレた――――!!


 蓮花は思わず「男です。女じゃありません」と訴えるために、あのスリの前でしたような『男らしい立ち姿』になった。


「な、何か?」

「……」

「…………」

「………………」

「……………………」

「かわいそうにのう……」

「へ?」

「そなたのように体が小さくては、訓練についていけないかもしれぬと心配したが……、頭の方も……で、あるか……」

「え、え~と」


――バレてない?


 洛修は「無理をせぬように……」と言い残し、他の候補生の元へ去って行った。氾家の子息とあっては、早速にも取り巻きが出来たようである。

 一方、残された蓮花と隼は……。


「何なのあれ? もしかして励ましてくれた?」

「さ、さあ……」


 隼も、苦笑いをなんとか隠そうとして隠せないでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ