ヒロイン 〈美形の恐怖〉
次の日。私は朝5時に起き、2時間の電車に揺られて、もみくちゃになって何とか天龍学園に到着した。学園の門の前には、ずらーっと外車っぽい黒い車が並んでいて、見るからにお嬢様とかご令息みたいな感じの子たちがいっぱい出てくる。これが同年代か、と悲しくなるくらいにみんな気品が漂うお上品なオーラをまとっていて辛くなる。とぼとぼと歩きながら、昇降口を目指して歩いていると、前にあの麗しい麗子さんの背中が見えた。今日も美しい黒髪のロングヘア。声をかけようとすると後ろから衝撃波がやってきた。
「おはよう、希」
耳元でささやかれたその声は紛れもなく空原峻である。突然のイケメンの声とオーラと存在に、周りがざわめくが私はもう失神しそうだ。ふらついた私を空原峻が支える。もう無理。ホント無理。イケメンってなんか無理。
「希、大丈夫か?」
「峻、やめてあげなさい。希さんが困っていますよ。」
この声は!あの!麗子様!学園一の美少女の登場にみんなが道を開ける。麗子様が空原峻に支えられている私の手を取って空原峻から解放してくれる。イケメンからは解放されたけど、その代わりに美少女が私に接近していることに私の脳はキャパオーバーを迎え、気づいたときには意識がもう飛んでいた。
次に意識が戻ったのは、保健室のベットだった。入学二日目で、保健室のベットも二回目って。一体どういうことなのだろう。むくりと起き上がると、
「希!」
「希さん!」
と空原峻と麗子様が私のベットの周りにやってくる。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですか?」
二人が私の手を包み込む。無理無理無理。美形の耐性なんてつくはずない。また倒れそうになったけど、必死の思いで身を保つ。
「はい...私は大丈夫です。今、何時ですか?」
「今は、10時だ。」
「あっ。もう授業始まってますね。ごめんなさい。私のせいで。」
私が心からの謝罪を込めて頭を下げる。
「いいに決まってるだろ!」
「いいに決まっていますわ!」
「ちょっと、麗!かぶせるのは辞めてくれないか!」
「それは私のセリフですわ、峻!」
美形同士がよろしくやっている。っていうかこの二人、普通に仲いいじゃないか。なんで婚約破棄なんて...
「あの、お二人はなんで婚約破棄なんて...お互い仲とてもいいじゃないですか。」
私がそうつぶやくと、二人は顔を見合わせて言った。
「決まってるじゃないか。」
「決まっているでしょう。」
「ほかに好きな人がいるからだ!」
「ほかに好きな人がいるからよ!」
わお、ここまで息がぴったりだとは...
お読みいただきありがとうございました。