空中から現れる妻
「妻?」
アイリのクローンは呆けた表情をしていた。
「妻だ、そうだ。私は誰かと覚えてないか?」
まだ呆けた表情を作っていた。
ちょっとの記憶すら残っていないそうだね。
がっかりさせた。もし、少なくともちょっとの記憶があれば、三日前に起こったことについて尋ねられるかもしれない。
なぜ私をきっぱりと裏切ることにしたの?
ほんの少し前に未来をウハウハ話していたのに⋯⋯
「あなた、自分の名前を思い出せるの?」
「申し訳ありませんですが、少しも覚えていません。」
見た目がそっくりとしたが、記憶が空っぽとなった。
人形と違いはないそうだ。
プロトタイプをこき使うために大賢者は【クローニング】術式にあらかじめ【絶対
服従】という性格を書き込んだ。
「じゃ、サシャと呼びる。」
実は意味ないんだ。
ただ、気が狂わないようにクローンを本人と区別しておかないと。
「いい名前です!ありがとうございます!マスター」
浮かんでいた無邪気な笑みは緊張感を和らげてくれた。
「気に入ってくれてよかった。ところで、サシャ、マスターなんてやめて、ベルフォートと呼んでください。」
「ベルフォートさん?」
「さんなんてもやめて」
「呼び捨てなんて⋯⋯恋人みたい⋯⋯」
「恋人」を聞いた時、思わず顔が赤くなるった。
「言う通りだ!いや、いや、恋人というよりむしろ夫婦というほうがいい!」
敢えてそう言った。
「はい、ベルフォート!」
いきなり僕を抱きしめて両腕を体に巻きつけながら、ほっぺたが触れ合うと感じた。
可愛すぎ。
記憶がないけど、性格は相変わらずだ。
無邪気、優しい、元気盛ん。
まだアイリのように完璧な女の子とずっと一緒にいるチャンスがあると思わなかった。
「ああああああああ!誰がいる!」
話している間に、ドアが開かれた。
現れていたのは助けてくれた少女だ。彼女が呼び出して、危うく捧げていたお皿をひっくり返すところだった。
「落ち着いて、家内だけだ!」
そう説明してみても、相手は少しも納得していないに見え、まだ驚いた表情をしていた。
普通の人にとって、確かに空中から現れる人という場合は極めて珍しいだ。見慣れないどころか、怖がるだかもしれない。
「あんた、誰」
手を離しながらサシャはそう問い返した。
少女はビクビクして小刻みに震えていると見えた。
「こ……これは私のセリフです!」
「さっきベルフォートはもう答えただろ?妻だ、妻」
「それはどんな答えですか?」
「じゃ、どんな答えはよかったか」
「どうやって部屋に潜り込みましたか?」
なるほど、サシャは泥棒扱いされた。それで泥棒の共犯となったじゃない?もしそうであればさっそくしっかりと説明したほうがいい。
でも、どうやって説明したほうがいい?
とりあえず、【クローニング】は決まって言えないはずだ。
「ついさっきベルフォートに作製されたクローンだから」
よく考えずにサシャはそう言いながら真面目に少女をじろりと睨んだ。
そんな風に言い出した!
「クローン?」
「違う!クローンなんて冗談だけだ!気にしないでください!」
即座にそう話を挟んだ。
「実は僕たちは魔術師、それにサシャは空間魔法の魔術師だ。僕を座標として移動するので、ここに空中から現れた。」
「魔術師?」
失格とよく言われたところで、なんとなく魔術を使いさえすれば魔術師だと思う。
「まぁ、そうだ」
少女は笑みが浮かんで緊張感がパッと緩んでくる。
「なるほど、間違いました!」
「こちらこそ。できるだけすぐに片付けて後にすることにする。安心してください」
「出てこれられますか?」
驚いて呼び目が大きくなった。
「ど……どういう意味ですか」
「この辺りの森に入りすれば絶対出てこれません!もう方法を見つけますか?」
出てこれない?
森に三日迷いこまっていたものの、それは森が大きいすぎばかりだ。もし同じ方向へと走りまくったら、出てこれない理由はないはずだ。
少女は頭を横に振ってため息をついた。
「知りませんか?知らずに森に入ったら無鉄砲だ。魔術師にしても、まったく自殺のようだ。」
「まだわからない……」
「わからないなら、見せてあげよう」