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5・二人の男と奴隷狩り

塔の窓から上空を目指し飛び出す。屋敷精霊たちに少年をよろしくと思念を送り、月夜の空中散歩を楽しむ。何年ぶりの散歩か分からないが、ホウキの乗り方は身体が覚えているらしい。というより、ホウキが私を覚えていたという方が大きい気もする。

ホウキを優しく撫でると嬉しそうな振動が伝わってきた。


高く高く飛び上がり辺りを見回す、塔を囲むように生茂る陰樹林が月夜を浴びて気持ち良さそうに風に身を任せている。季節は夏が終わったばかりなのだろうまだ生ぬるさが残る風が私の頬も撫でていく。その風に乗ってふわりと甘味の強い血の匂いが鼻腔を擽る。

魔導書から取り戻した記憶と少年に残っていた魔女の所有印の残り香で場所を突き止めようと思っていたが手間が省けたようだ。血の匂いが濃くなる方にホウキを進めればいつかは出会うだろう。


何箇所か匂いが濃い場所があるが魔物の鳴き声が大きい方に進む。先程の山猫に蝙蝠の羽根が生えたような魔物が何十匹も群れ空中を楽しそうに旋回しているのが見える。その群れから少し離れたところに静かに降り立つ。空中散歩で乱れた長い髪を整えかき上げ顔を上げるとまたも陰惨たる情景が現れる。至る所に転がる少年少女の亡骸とそれに貪りつく魔物の群れ。

魔物は私の存在に気がつくと食事を中断し、空へと舞い戻る。先程、仲間が痛い目にあったのが共有されているようだ。

その奥に黒いローブを被った男二人が下品な顔で少年少女の遺体を眺めている。

一人は小柄でひょろひょろしており、もう一人は大柄で値がはりそうな貴金属を身につけている。

大柄な男の手には血肉がこびりついた小型の斧が握られており、おそらくそれで少年少女らを追い立て身体を裂いたのだろう。斧には魔女の加護が授けられており、凶悪なオーラを放ってはいるが男らからは魔女の臭いはしなかった。


「そこの女、そこで何をしている!」


遺体を素通りし男らに向けて歩を進める私に大柄な男が気づき大股で近づいてくる。


「見られたからには仕方ないのだ、お前には…」


言葉を紡ぎ終える前に男の巨体が地面に沈む。メキメキと骨が軋む音が小気味良い。


「貴様ぁっ!!俺に…何をし…ぐっんうっ…」


身体の発育には恵まれたようだが、頭に関しては恵まれていなかったようだ。地面に沈みながらも悪態をつこうとしたので重力魔法で男の口も塞ぐ。


「おっと…つい手元が狂ってしまった…静かに良い子にしていて欲しかっただけなのに」


私のわざとらしい声の音とともに男の歯が砕け様々な方向に歯が曲がり皮膚や歯肉に突き刺さる。

あまりの激痛に男は獣の慟哭のような音を喉の奥で発している。

そんな大柄な男の惨状を見ているしかなかった小柄の男は音を立てずに両膝を折り、被っていたローブを取って私に首を垂れる。

魔女のご機嫌取りに慣れている。どうやら、魔女と手を組んでいる人間はこちらのようだ。


「ここで何をしているの?」


私の優しい問いかけに小柄の男は顔をあげる。祈るように身体の前で組んだ両手は諤諤と震えている。


「隷属の魔女さまに献上した奴隷たちを使って、奴隷狩りという人間の貴族が好む遊びを提供しておりました」


深い森の木々たちに吸い取られてしまいそうな男のか細い声が響く。


「まさか、他の魔女さまがこの森に立ち寄るとは思っておりませんでしたのでお目汚しと不躾な態度をお許しください」


男はそれ以上言葉を紡がず、もう一度深々と頭を下げて地面に伏してこちらの様子を伺っている。

奴隷狩りという人間の遊びを聞いたことがある。狩猟が趣味の貴族が森に住む動物たちでは満足出来なくなると、奴隷の人間を使って狩りの真似事遊びをするらしい。

どうやら、身につけているものから大柄な男が貴族で、小柄な男は奴隷を提供している奴隷商のようだ。

奴隷はこの倒れている少年少女らのことか。よく見るとどの子どもにも隷属の魔女の所有印があり、この森から出られないように身体を咒式で縛られている。


「ここは私の庭だったのだけれど、お前はいつからここにいるの?」


小柄の男がはっと顔を上げ、私の姿をまじまじと見る。


「まさか……あなたはスカーレットさまでは?隷属の魔女さまより聞いております!記憶を失くしておられるのですよね!貴女さまは@mpd@jtwtmw星gdm'gjtgdpa名q\……!!」


途中から小柄の男の言葉が聞き取れなくなった。まるで記号のような機械音のようなものが聞こえるだけで何も意味のある言葉は見つけられない。

私の秘密に関することを相手が話したとしても私は認識出来ないのか。本当に厄介な魔法?呪いだ。

私をこの森に記憶ごと封印した奴はいったい何者なのだ。

私が怪訝そうな顔をしても男は饒舌に言葉を紡ぎ続ける。私の記憶は命が助かるための切り札だったようだ。


「agx@tmp(mwg!wmr'swr'mr!.Awpdwgmj.ttw@.t@'@nr.@mwt.w/.pddtktg'gjjlitpom#!!!」


意味を成し得ない音の羅列が耳を掠めていく非常に不快でため息をついてしまった。


「……ですから!私めをどうかお許しくださいませ。貴女さまが目覚めたことを知らなかったのです」


さて、どうしたものかと周りを見廻し、とりあえず大柄の方を腹いせに始末し、小柄の方に主人のところへ案内させれば良いかと仕切り直す。

小柄の男がまだ何かを喋ってはいるが、まずは身を震わせ声にならない慟哭をする男の前に進む、散々子どもらに酷いことをしたのだ多少痛い思いをして死ぬのは致し方ないだろう。

男の恐怖に見開かれた瞳から苦痛と恥辱の涙が流れる。何か恨み言を投げかけたいだろうが口は塞がれ音しか発することはできない。

眼前に右手を掲げ魔法の発動を見せつける。魔女とは本当に残酷な生き物だ。


次の瞬間、風を切るような音が聞こえ右耳を矢が掠める。小柄の男が私の隙をついて矢を放ったようだ。周囲で見守ってる深淵の精霊たちの声がなかったら当たっていたかもしれない。

弓に次の矢を装填する前に重力魔法で小柄の男の左腕ごと吹き飛ばす。周囲に男の悲鳴が拡散する前に口を塞ぐ。

そうだった。これは命令された無慈悲な掃除だということを忘れていた。

大柄な男の重力の拘束を解き、右肩を潰す。


「どうやらお前らは悪い人間のようだね。文句を言わなきゃいけないから主人のところに案内して。先にたどり着いた方だけ気まぐれで命は助けるね。」


私がにこりと笑うと先に動いたのは小柄の男だった。まだ止血が終わらない左腕を抱えながら薄暗い森を駆ける。

その後を大柄の男が何かもがもが言いながら右肩を押さえ拙い足取りで追いかける。


「人を使った狩りなんて面白くないと思ったけど悪くはないね」


男らに聞こえるように声を上げ、景気づけに足下の木の根や石を弾けさせる。破片が男らの身体を掠め、貫く。声にならない低い嗚咽とそれを見守る森の精霊たちの笑い声、旋回する蝙蝠猫たちの雄叫びが周囲を包む。

悪い魔女の居場所まで飽きずに歩けそうだ。

次回は

忘却の魔女vs隷属の魔女


ショタは暖かいお布団ですやすやしています。

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