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ご主人様はモンスター使い  作者: ウル
帝国のアドバイザー
86/122

86生贄

登場人物


ロウル   記憶喪失の主人公・交通事故死して狼に転生した?(★4テンロウ)

ローゼリア ロウルを助けた貴族令嬢(人間)

ノリク   ローゼリアの父親(人間)

タンゴ   ノリクの側近(★5キリン)

コンスタン 帝国御三家パヴェル公長男(人間)


 その日、ノリク様が慌てて帰ってきた。


「ローゼ、大丈夫だったか?」

 ノリク様が聞く。


「私は大丈夫、ロウルが助けてくれたから。

 でも、コンスタン様は怒って帰って行ったわ。

 パヴェル公が敵に回るかも知れないと思うと心配で。」

 お嬢様が言う。


「ローゼ、すまなかったな。

 コンスタン様が勉学のため帝都に来ていることは知っていたが、いきなり館にやってくるとは思わなかった。

 パヴェル公と調整してから日程を決めると伝えていたのだが。

 とりあえず、コンスタン様の所業をパヴェル公に伝えて出来るだけの対応をするから、ローゼは心配するな。」

 ノリク様が言う。


「ロウル君、よくローゼを守ってくれたな。

 ありがとう。」

 ノリク様が俺にお礼を言う。


「ノリク様、当然のことをしただけです。」

 俺は答える。コンスタンの野郎をぶちのめしたことは後悔はしていないし、ノリク様も当然と思っているようだ。


 それよりも、アンネ様もノリク様もお嬢様に怪我がないことを知ってほっとしていた。



 数日後、ノリク様が早く帰ってきた。


「パヴェル公に遣わした使者が帰ってきた。

 婚約の解消については問題ないそうだ。今までも散々断られているようで、パヴェル公に了承してもらえた。ローゼにも迷惑をかけたということで、パヴェル公も謝っていたそうだ。

 他に条件は付いたものの、パヴェル公が味方になってくれる可能性は高そうだ。」

 ノリク様が言う。

 よかった。

 コンスタンの野郎はとんでもなかったが、親のパヴェル公はまともだったか。

 その日は和やかな雰囲気で、食事が終わった。


 その夜、お嬢様がお風呂に入っているとき、部屋の戸をノックする音がする。


「今、お嬢様はお風呂に入ってます。」

 俺が代わりに答えると、


「分かっている。ロウル、君に用事だ。」

 モンスターの声が返ってくる。

 館にいる俺以外のモンスターって★5キリンのタンゴさんしかいない筈。

 俺はまだ会った事も話した事もないけど。


「タンゴさんですか?」

 俺が聞くと、


「そうだ。」

 そう返事が来たので、俺は扉を開ける。

 部屋の前に話に聞いていた通りの★5キリンがいた。

 館の階段に残っていたのと同じ匂いだから間違いない。


「お嬢様には聞かせる訳にいかないのでな。

 今のタイミングで来させてもらった。」

 タンゴさんが言う。


「俺に何の用でしょう?」

 俺が聞くと、


「できれば君とは同志になれればと思っているのだが、その前に意見をぶつけ合いたいと思ってな。

 ロウル、君は現在モンスターが人間世界の中で過ごすために首輪をつけなければならない状態についてどう思っている?」

 タンゴさんが聞いてくる。


「人間が俺達モンスターを支配するためにしているわけですよね。

 このままでいいとは思いませんけど、無くしてしまえば大混乱が起こるでしょうからやむを得ないのかなと。」

 俺は答える。


「首輪をしたモンスターは、支配する人間に逆らうことはできなくなる。

 もし、コンスタンのような者に支配されたモンスターはどうなると思う?」

 タンゴさんが聞く。

 俺は、コンスタンの去り際の台詞を思い出した。


「悲惨な目にあうでしょうね。」

 俺は答える。


「君はそれでもやむを得ないと思うのか?」


「そう言われると、確かに何とかしたいとは思いますが、俺の立場では何もできませんから。」


「そうか。確かに1匹のモンスターができることなど知れているな。

 では、君はこの国で人間と暮らすモンスターが首輪をつけることになった経緯について聞いているか?」

 タンゴさんは今度は別の事を聞いてくる。


「いえ、聞いてないです。」


「では、簡単に説明しよう。

 ハキルシア帝国設立初期は、人間は海岸近くと平原にしか住んでいなかった。現在の大陸の東側の町の分布を見れば分かるだろう。

 だが、人間は次第に森を開拓して居住する地域を広げていった。そして、その地域には元々住んでいたモンスターがいた。

 そして、開拓を進める人間と住んでいたモンスターの間で激しい争いが起こった。

 人間は開拓する地に住んでいたモンスターを追い払って居住地域を広げたが、追われたモンスターは頻繁に人間の居住地域を襲うようになった。

 そこで、人間は争いで捕らえたモンスターを支配して、襲ってくるモンスターに対抗する事にしたのだ。

 最初は他国でも用いている支配の契約を用いていたのだが訓練した人間にしか使えず、多すぎるモンスターに対応できなかった。そこで、訓練していない人間でもモンスターを支配することができるようになる首輪が開発されたのだ。」

 タンゴさんが言う。


「人間側の都合で作られたということですね。」


「まあ、そうだな。

 今では捕らえたモンスターを首輪で支配して、襲ってくるモンスターと戦わせる事に使われることが多い。」

 この世界でも人間は自分の都合で他の生物を扱っているのだなあ。

 俺はモンスターに生まれ変わった事で改めてその事実を認識した。


「かつての仲間と戦わせられるということですか?」


「同族と戦うとは限らないが、基本的にはそういう事だな。

 君はもし現状を変えることができるなら、したい事はあるか?」

 タンゴさんが聞いてくる。


「人間の意思決定にモンスターも関わりたいですね。

 そうでないと、人間の都合で何でも決められていきますから。

 俺にはそんな権限はないので、理想でしかないですが。」

 俺が言うと、


「実現性のない理想を言っても仕方ないからな。

 私は、人間世界の中で我々モンスターが積極的に政治に関われるようにしたいと思って努力している。

 ノリク殿は種族で差別をしない方だからこそ、私は仕えているのだ。」

 タンゴさん、崇高な目的を持っているんだなあ。尊敬しちゃうよ。

 タンゴさんて怒らせると怖いって聞いていたけど、寧ろ話が分かる馬だと思えてきた。


「どうやって達成するつもりなのですか?」

 俺が聞くと、


「モンスターの中に限界突破種と呼ばれるものがいるのは知っているか?」


「ええ、知っています。我々モンスターの中でも、人間に近い知恵を持つ者だと聞いています。」


「私は、限界突破種のモンスターが人間の世界の政治に関わって世の中を良くしていけるようになることを目指している。

 もし、同じ理想を目指すのであれば同志になって欲しいのだ。」

 タンゴさんが言う。


「確かに、モンスターの中で誰かが政治に関わるのは重要ですね。

 そこまで目指して進めているタンゴさんはすごいと思います。」

 俺はタンゴさんの同志になって、モンスターのために働きたいと思った。


「だが、私がここまで来るまでにも色々あってね。

 正直、仲間であるモンスターに相当足を引っ張られた。

 深く考えず、住処を追われたからといって人間の町で暴れる同族のおかげで、私が政治に関わることに多くの妨害が入った。

 それゆえ、私はモンスターの中でも限界突破種とそれ以外を分けて考えることにした。

 先を考えて行動できる限界突破種については、人間と同等に政治に関われるようにし、考えのないそれ以外のモンスターは今のままでいいとね。」

 タンゴさんが言う。

 えっ?


「それって、限界突破種が人間と同様にそれ以外のモンスターを支配するだけで、今と何も変わらないじゃないですか。」

 俺が言うが、


「考えなく暴れるモンスターと、我々限界突破種は別物だということにして人間に理解してもらわないことには、私が政治の世界に入っていくのは難しいのだ。」

 タンゴさんは答える。


「モンスターが政治にかかわるようにするための一次的な手段としては仕方ないと思いますが、俺は最終的には全てのモンスターが救われるよう考えるべきだと思います。」

 俺はタンゴさんに自分の考えを言う。ここは譲れないポイントだ。


「ロウル、君は限界突破種以外の仲間に甘いようだね。

 彼らはしっかりと支配しておかないと、好き勝手暴れまわる。

 支配されるのも仕方ないと思うが。」

 タンゴさんは言うが、俺は同意できない。


「限界突破種でなくても同じ仲間でしょう。

 俺は、最終目的として、仲間を支配する考え方には同意できません。」

 俺は言う。


「そうか。同意しては貰えないか。

 君の考え方は分かった。

 君も一度、限界突破種でないモンスターと関わってみるといい。

 それで、少しは考えが変わるかもしれん。

 邪魔したな。」

 そう言うと、タンゴさんは自分の部屋に帰っていった。

 なんか思わせぶりなことを言い残したのが気になるな。

 限界突破種以外のモンスターとだって、ちゃんと話せば分かり合えると思う。

 俺はそう思った。



 その後、本を読みながら待っていると、お嬢様が部屋に帰ってきた。

 今日はちょっと遅かったな。


「お嬢様、お帰りなさい。」

 俺はお嬢様を出迎える。


「ロウルは本当は今日は入らない日だけど、折角だからお風呂に行かない?」

 お嬢様が聞いてくる。

 俺は館から出ないから大して汚れないし、乾かすのも大変なので3日に1回しかお風呂に入らない。

 だけど、折角お嬢様がそう言うので、今日はお風呂に入ることにした。


 部屋に入ると、今までなかった巨大な浴槽があって、お湯が入っている。 

 これなら俺でも前世のように湯船に浸かることができるな。


「この中に入っちゃっていいの?」

 俺が聞くと、


「今日はもうロウルだけしか入らないから大丈夫よ。」

 お嬢様が言ってくれた。

 俺は、お腹を上にして湯船に浸かる。

 湯船の大きさが俺にぴったりで気持ちいい。


「あとで、洗ってあげるからゆっくり浸かってね。」

 お嬢様が言ってくれる。

 確かにしばらくこうしていたい気分だ。


 俺はゆっくりお湯に浸かった後、お嬢様に体を洗ってもらった。


「大きな浴槽があってびっくりしました。」

 俺は洗ってもらいながらお嬢様に言う。


「前、ロウルが全身お湯に浸かっていたって言ってたじゃない。

 お父様にお願いして、作ってもらったの。

 どう?気に入った?」

 お嬢様、以前、俺がぼそっと言ったのを覚えていたんだ。

 俺のためにそこまでしてもらって申し訳なく思ってしまう。


「そこまでしていただかなくても。

 でも、とても気持ち良かったです。」

 気を遣わせた事が俺的には気になったが、嬉しかったのは事実だ。

 俺はこの世界に来て、初めて湯船に全身で浸れて幸せな気分になることができた。



 そして、綺麗になって、お嬢様の部屋に戻って、お嬢様と話す。


「それにしても、パヴェル公が話が分かる方でよかったですね。

 絶対コンスタンの奴が無理難題を言ってくるかと思ったのですが。」

 俺が言うと、


「いや、色々条件を付けられたみたいよ。

 お父様とタンゴが対応してくれたみたいだけど。」

 お嬢様が答える。

 タンゴさんの名前が出たのが気になるな。


「タンゴさんが何かをしてくれたのですか?」


「本当はね、コンスタン様が怒って、ロウルを引き渡せって言ってきたみたいなの。

 引き渡さないとミューゼル家を潰すとまで言ってたそうよ。

 タンゴが、ロウルの代わりに別の★4テンロウを送るから大丈夫だって言っていたわ。」

 お嬢様が答える。


 ちょっと待て、それってその★4テンロウが俺の代わりに殺されるって事じゃないか。

 しかも、コンスタンのことだ。楽には死なせないはず。散々痛めつけて、苦しませてから殺すに決まっている。


「待ってください。

 それって、その★4テンロウが俺の身代わりに殺されるって事ですよね?」

 俺は言う。


「そうなるわ。

 だけど、そうしないとパヴェル公が敵に回る可能性が高いし、ロウルは絶対に渡したくないし。」

 お嬢様が言う。

 今はっきりと分かった。

 タンゴさんは、こうなる事を知っていて俺に話をしに来たのだ。

 ここで俺が、自分の身代わりに同族の★4テンロウを差し出すことを認めれば、俺はタンゴさんと同類だ。

 タンゴさんは、俺を追い詰めて、俺に自分の都合で仲間であるモンスターを自分の身代わりにして殺させることで、俺の仲間モンスターに対する意識を変えていき、いずれ俺を仲間に引き入れることを狙っているに違いない。

 冗談じゃない。


「俺は、俺の代わりに誰かが殺されるなんてまっぴらです。」


「だけど、そうしないとパヴェル公が敵に回る可能性が高いから仕方ないの。」


「誰かを犠牲にするくらいなら、俺がパヴェル公のところへ行きますよ。」

 お嬢様に言う。

 俺は、罪もない他人を犠牲にしてまで自分が生き残りたいとは思わない。


「ロウル、お願い。

 私は貴方を失いたくないの。」

 お嬢様が俺に抱きついてきた。


「俺だって、黙って殺されに行くつもりはないですよ。

 やるだけのことはやります。

 シャミアさんを呼べませんか。」

 俺はお嬢様に言う。


「ロウル、何か手があるの?」


「確実な手がある訳じゃないですけど、足掻けるだけ足掻きますよ。

 時間がないので、急いでシャミアさんを呼んでください。」


 もう夜だけど、俺はお嬢様に頼んで、急いでシャミアさんを呼んでもらった。


20230207


話番号修正・誤字等修正

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