76罠
気が付くと、俺は大きな木の箱の中に入れられていた。
木と木の僅かな隙間から光が入ってくる。
今は昼間のようだ。
そして、かなり大きな風の音を立てている。
俺を入れた箱ごと空中を移動しているらしい。
そして、動こうとすると俺の両前脚・両後脚にそれぞれ鉄製の枷がついており、俺は左右に脚を動かすことができない。
さらに、口の周りを鉄製の鎖で縛られており、噛みつくことも喋ることもできない。
やられたな。
とりあえず、フリーアクションの技をかけて脱出しよう。
俺は精神集中を始める。
「グワッ。」
突然俺の体に強力な電流が流れ、精神集中が乱れてしまう。
何度やっても同じだった。
この枷は俺が技の精神集中をしようとすると電撃を放ち、技の精神集中を乱すことで、俺が技を使えないようにしているのだ。
このままでは逃げることはできない。
次に誰が何の目的でやったのかを考える。
どう考えても、タロウさんが俺を罠に嵌めたとしか考えられない。
しかし、俺にはタロウさんがそんなことをする理由が思いつかない。
俺は、一体何が起こったのか考えを巡らすが、答えは出なかった。
明らかなのは、俺を嵌めた奴は最初からそれを狙っていたこと。
そして、明確に俺を狙っていたということくらいだ。
一体誰が?
エルシアはない。交渉が上手く行っているのに俺を捕らえるメリットがない。
ピュートル公もない。エルシアと同じだ。
俺の頭にはノリクしか思いつかない。
それじゃあ、奴の目的はなんだ?
今更俺一匹を捕まえた所で、戦況が変わるわけでもないのに。
それ以前に、ノリクが俺の存在を認知できているとは思えない。
俺は考えてみたが、敵の狙い・目的・手段、どれもはっきりと分からなかった。
そうこうしている間に、日が暮れてくる。
そして、俺を運んでいた何かも地上に降りる。
すると、何人かの人間の足音が聞こえる。
「今夜はここで野宿をします。
獲物に麻酔薬と栄養剤の追加投与をしておいてください。
あと、ドランの餌もお願いします。」
指示を出す声はタロウさんだ。
やはり、タロウさんが。なぜ?
しかし、口を鎖で縛られているので声を出すことはできない。
唸り声くらいは出せるが、それで状況が良くなるとは思えなかったので、俺は、あえて寝ているふりをした。
しばらくして、俺が入っていた箱が開けられる。
そして、寝たふりをしている俺の体中に、針が刺され、俺の体の中に何かが注入される。
すぐに、箱は閉じられる。
「ジロウ様、獲物は寝たふりをしています。」
俺に注射をした人間が報告していた。
寝たふりがばれたか。
注射されて痛みを感じても動かなかったからか?
失敗だったかも。
「脱出の機会を窺っているのでしょう。
油断しないようにしてください。」
タロウさんそっくりの声が指示を出す。
ジロウって誰よ?
タロウさんとは違うの?
そんなことを考えている間に俺に注入された麻酔薬が効いてくる。
俺は、また意識を失ってしまった。
途中、何回か意識を戻すことはあったが、完全に自由を奪われた俺は何もできず、ひたすらどこかに連れていかれるようだった。
その間に、俺は考えを巡らし可能性を纏める。
タロウさんと俺に銃を見せた奴は別の可能性が高い。
タロウさんが俺を捕える理由が思いつかないし、わざわざ別の名前を使う必要もない。
だが、声もそっくりだし、はっきり確認したわけではないが匂いまで同じ気がした。
一卵性双生児か。タロウとジロウと言う名前から、その可能性を考える。
そして、兄弟の中でもジロウの方はノリクの手の者なのだろう。
タロウのふりをして、接近して俺の油断を誘い、俺を捕えたのだ。
都合よく銃を持っていたのも、ノリクの許可を貰って持ち出したのだろう。
断定するには情報が少なすぎるが、これなら俺の中で違和感なく全てが繋がる。
タロウさんに兄弟がいたなんて聞いていないしな。油断した。
かと言って、これからどうするか?
ジロウと配下がとても隙を見せるとは思えない。
何か言って情報を聞き出そうにも口を縛られているから話すこともできない。
まあ、都合よく情報を喋ってくれるとは思えないが。
だめだ。脱出の可能性が見えない。
オーウェルさんが救出してくれるのを待つしかないか。
そして、恐らく一週間ほど経った後、俺を入れた箱は今度は馬車に乗せられて町に入っていく。
その後、どこかの建物の前に止まる。
「タンゴ様、目的の獲物を捕らえてきました。」
ジロウの声がする。
タンゴがいるという時点で、俺が今いるのはノリクの館の前か。
やはり黒幕はノリクだよな。
俺は遠く、帝都ルーベンブルグまで連れてこられたというわけだ。
「地下室に入れて、逃げられないよう処置をしておけ。」
推定タンゴと思われる馬の声がする。
人間が数人がかりで、俺が入った箱を館に入れていく。
そして、箱ごと地下室に入れたようだ。
俺は、箱が開けられて俺をつなごうとする瞬間を狙って暴れようとするが、十人がかりの人間に取り押さえられ、無駄に終わる。
俺は、首輪をつけられて首輪を地下室の壁につなげられるだけでなく、両前脚・両後脚の枷も地下室の壁につなげられた。
地下室の壁からほとんど動くことができない。
その代わりに、俺の口を縛っていた鎖は外された。
傍の人間に噛みつくこともできるが、それをしても無駄な抵抗だということは分かっているので、そんなことはしない。
人間達は、俺の目の前に干し肉をいくつか置くと、地下室を出ていった。
定期的に栄養剤を投与されていたとはいえ、一週間余り何も食べていない俺は腹が減っていた。
助けが来るまで生き延びるしかないよな。
俺は、目の前に置かれた干し肉を食べた。
普通の干し肉なのだろうが久々の食べ物は美味しかった。
だが、オーウェルさんにしても、俺が遠くルーベンブルグにいるなんて分からないだろう。助けが来るのは絶望的な気がする。
それにしても、ノリクは何のために俺を狙ったのだろう?
それも分からない。
念のため試すが、精神集中を始めると電撃が走り技を使うことはできないようだ。
俺にできることは、救助を待ちつつ、ノリクの出方を待つことだけだった。




