5初めてのお風呂
登場人物
ウル(主人公)狼に転生し、レンディールの僕となる。(★2ウルフ)
レンディール 人間のモンスター使い。俺のご主人様。
リーザ モンスター仲間。(★2イーグル)
ガルガン モンスター仲間。(★1ヤングタイガー)
ご主人様は、今日はモンスターセンターが運営している宿泊施設に泊まると決めたようだ。
ご主人様の話だとちょっと値段は高めだが、仲間のモンスターも一緒に泊まれるように設計されているらしい。
確かに部屋の入り口が人間が入るにしてはかなり大きいし、仲間モンスターのサイズに合わせて色々な部屋があるらしい。
食堂らしき場所で調理されたご飯を食べて満腹した俺達は、泊まる部屋に戻ってきた。
「それじゃあ、みんな体を洗いましょうね。」
ご主人様がそう言ってくる。
(えー)
リーザが露骨に嫌な顔をした。体を洗われるのは嫌いらしい。
ガルガンは、いつものことだししょうがないかといった感じだ。
「じゃあ、ガルガンから入ってきて。」
準備ができると、ご主人様は部屋付の風呂からガルガンを呼んだ。
(はあい)
ガルガンはそう返事して風呂に入っていく。
しばらくして、綺麗になったガルガンが出てきた。
どうせ冒険したらすぐに汚れると思うけどなあ。
でも、俺としては、たまにはお湯につかってゆっくりしたいかも。
俺にはまだ前世の日本人の感覚が残っているらしい。
前世の記憶が残っているからだろうか。
しばらくして、ガルガンがご主人様と出てきて、ご主人様が乾いたタオルでガルガンを拭き始めた。
が、ご主人様は素っ裸である。服を着たまま洗ってるのだと思っていた。
俺は思わず目をそらす。狼は近視だから細かいところまで見えていないとはいえ、前世で異性とは縁がない生活をしていたため、ちょっと刺激が強すぎた。
とは言え、今の俺はご主人様の仲間の狼だからなあ。
前の世界でも、ペット相手に裸を恥ずかしがったりという話は聞いたことがない。
そう考えるとご主人様の態度は普通という気もする。
しかし、俺の方は前世の記憶が邪魔をしてなんとなく気まずい。
本来は、ご主人様の裸など気になることもなく、メス狼に発情するのが正しい反応なんだよなあきっと。
ガルガンってそんな感じだし。多分だけど。
「ウル、早く来なさい。」
俺が考え事をしているうちにご主人様に呼ばれていたようだ。
(はい、今行きます。)
俺は慌てて風呂に入っていった。
俺は、体を洗われている間、ご主人様を凝視するわけでもなく、目を逸らすわけでもなく、できるだけ自然体をふるまうよう意識した。
「ウル、ここ擦っても痛くない?」
ご主人様が聞いてくる。
この前虎に噛みつかれた傷跡だ。治療は終わっているけど、ごしごし擦ったら痛いかもしれないとご主人様は気を使ってくれたみたいだ。
(大丈夫です。全然痛くないです。)
俺はそう答える。
ご主人様は、最初はゆっくりと洗っていたが俺が痛そうでないことを確認してから普通に洗い出した。
ご主人様は、俺も既に忘れていたこと気にかけてくれるんだな。
頭・四足・背中・尻尾を洗うのが終わり、ご主人様は一旦シャワーで俺の体から石鹸の泡を流す。
「ウル、今度はおなかを洗うから仰向けになって。」
ご主人様が次にそう言ってくる。
それって、前が丸出しじゃんと思ったが、ペットが恥じらうとか許されないよなあ。
多分、ガルガンもいつもそうしてるんだろうし。
俺はご主人様のペット。
ペットは恥じらわない。
ご主人様の命令は絶対。
俺は自分にそう言い聞かせて、犬の服従の姿勢をとって腹を出す。
ご主人様は俺のそんな気持ちなどお構いなく、当たり前のように俺の体を隅々まで洗う。
ガルガン相手と同じつもりなんだろう。
「すっきりしたでしょ。それじゃあ、シャワーで洗い流してから外でタオルで拭きましょうね。」
ご主人様は、俺の体をシャワーで洗い流した後、部屋の外で俺の体をタオルで拭いてくれた。
続いてリーザが覚悟を決めて入っていく。
いつもこうやって洗っているのだろう。
しばらくして、リーザが出てきた。
ご主人様は乾いたタオルでリーザを拭いた後、それじゃあ今度は私が入ってくるから待っててね。と言って、風呂の中に戻っていった。
(いつもこんな感じで体を洗ってるの?)
ご主人様がお風呂に入っている間に、俺は2匹に聞いてみた。
(そうよ。羽が濡れるのは嫌いなんだけど。)
リーザが答える。
(あんまり尻尾をゴシゴシされたくないんだけどね。)
ガルガンも答える。
ガルガンもお風呂が好きというわけではないらしい。
ただ、どう考えても俺の気持ちとは無縁の反応だ。
仲間モンスターとしては、これが普通の反応なんだよな。
それに、よく考えたら俺は狼になってから今まで自分がずっと裸でいたのに、そんなことを意識したことがなかった。ご主人様の裸を見て意識してしまったらしい。
俺が自分勝手に前世の記憶で意識してるだけ。今の俺は狼なんだから狼らしくするだけのことだ。俺は自分にそう言い聞かせた。
すぐ慣れる、きっと。
そうこうしているうちに、ご主人様が寝間着を着て出てきた。
髪もしっかり乾かしてきたみたいだ。
「それじゃあ、明かりを消すわよ。みんな、おやすみ。」
ご主人様がベッドに入る。
(おやすみなさい。)
そう言うと、リーザは止まり木に、俺とガルガンは絨毯の上に丸くなって寝る。
今日はゆっくりと眠れそうだ。