4技の訓練
登場人物
ウル 主人公 狼に転生し、レンディールの僕となる。
レンディール 人間のモンスター使い。俺のご主人様。
リーザ イーグル。モンスター仲間。
ガルガン ヤングタイガー。モンスター仲間。
俺達はご主人様に連れられて、近くの町にやってきた。
そして、モンスターセンターという建物に入る。ここで技を教えてくれるらしい。
「登録番号3928のレンディールです。本日は新たに会得したモンスターの技の訓練の依頼に来ました。」
ご主人様が受付の人に説明している。
受付の人がご主人様に何かを答えているのだけど、俺には何を言っているのかが分からない。
どういうこと?
「ウル、行くわよ。」
ご主人様に呼ばれてはっと気づいて、俺は慌ててご主人様について行く。
今はそれを気にしても仕方ない。
俺達はご主人様に続いてトレーニングルームに入る。
トレーニングルームには、人間の男が1人と狼が1匹待っていた。
男がご主人様に俺のことについて何か聞いているが、やはり何を言っているのか分からない。
「この子は★2モンスターのウルフで名前はウル。」
ご主人様が答える。
★2とか謎の言葉が出てきた。あとでご主人様に聞いてみよう。
その後、男が一緒にいる狼を紹介しているように見えるが、やはり何を言っているのか分からない。
「ウル、前にいる狼が今日あなたに技を教えてくれるコーチで、★3モンスター・シルバーウルフのアリストよ。」
とりあえず、ご主人様の言葉は分かるので、なんとか状況を理解することができた。
(アリストじゃ。)
隣にいる狼が自己紹介する。同じ狼だからか、こちらの言葉は分かる。
かなり高齢に見えるが、衰えた気配は全く感じさせない。
(ウルです。師匠、よろしくお願いします。)
俺は、目の前の老狼を師匠と読んで挨拶した。
「それじゃあ私はあそこから見てるから、何かあったら呼んでね。」
すると、ご主人様はリーザとガルガンを連れて、トレーニングルームの隅にあるベンチに行ってしまった。
言葉の分からなかった人間の男もご主人様と一緒だ。
人間の男の言葉が分からない不安はぬぐえないが、少なくとも俺に技を教えてくれる師匠の言葉は分かるから何とかなるはず。
俺は自分にそう言い聞かせた。
(ウルや、お主は何か技を習得しておるかの?)
師匠が俺に聞いてくる。
(いいえ、何も知りません。)
俺は正直に答える。
(じゃとすると、精神を集中する方法から訓練した方がよさそうじゃの。出来るようになったら、サンダーの技を覚えることにしよう。)
師匠の中で俺の訓練方針が決まったようだ。
(よろしくお願いします。)
俺は、丁寧にお願いした。
(精神力を扱うにはまずは呼吸からじゃ。これからワシの言う通りに呼吸してみよ。)
俺は、師匠の指示通りに息を吸って吐いてと呼吸をする。
正直これがどう役に立つのか分からないが、とにかく師匠を信じて言われたとおりにやるしかない。
(では、次に先ほどと同じ順序で呼吸しながら、意識を前足に集中するのじゃ。)
俺は、とにかく師匠を信じて言われたとおりに実行していく。
今の所は、そんなに難しくはない。
(うむ、順調じゃの。では、同じ要領で、左足に意識を集中せよ。その次は自分の口じゃ。)
これでいいのか分からないが、師匠の目には上手くできているらしい。
(精神集中は、問題なくできておるようじゃのう。では、次に精神力を集めて力を集める訓練をするぞ。)
今までと同じように師匠を信じて言われたとおりに実行すると、自分の口の前に力を集まってくるのを感じることができた。
これが精神力を集めて技にするコツなのだろうか。まだ形になってはいないが。
(うむ、初めてにしては優秀じゃ。では、その集めた力を放出する訓練に入るとしよう。)
俺は師匠の言われた通り着実に実行していく。そうすると、俺の口の前から電撃が飛び出た。
(ほう、サンダーを1発で習得したか。すばらしいのう。)
これがサンダーの技。野生のウルフのほとんどが習得していると言うウルフの中で最も基本と呼ばれる技。
やっとではあるが、俺はそれを習得した。
(喜んでいる場合じゃないぞ。力をちゃんとコントロールできるようにせねばならん。)
師匠はサンダーに成功してはしゃぐ俺をたしなめると、力をコントロールする訓練に入った。
(では、今覚えたサンダーの技をあそこにある的に順番に当てるのじゃ。)
そりゃそうだよね。電撃が出せても敵に当たらなきゃ意味がないよね。
俺は師匠に言われた通り、的に向かってサンダーを放つ。
最初は上手く当たらなかったが、何回もやっていくうちに技をコントロールするコツが分かり、止まっている的には外さないようになった。
(技の使い方は分かったかの。これでお主はサンダーを習得した。他の技も力をどうコントロールするかが違うだけで基本の精神集中する方法などは一緒じゃぞ。)
(はい。ありがとうございます。)
(次は、ウルフの中でもちょっと高度な技トリプルスラッシュを訓練するとするかの。
こちらは今覚えたサンダーなどの精神技とは違い、肉体技であるが故、実際に動きを覚えて、その通りに動けるよう何回も練習するのじゃ。)
師匠はそう言うと、近くにあった人形相手にトリプルスラッシュの技を見せてくれた。
一瞬のことで、早すぎてわからない。
俺は師匠にゆっくり見せてくれるように頼んだ。
(そうじゃのう。
動きとしては、攻撃対象にとびかかりつつ、まず右腕の爪でひっかくのじゃ。
その反動で左腕が少し後ろにさがるが、その前に左腕の爪で連続攻撃をするのじゃ。
最後に牙で攻撃対象の体に3回目の攻撃を加える。
動きの基本はこんな感じじゃな。)
師匠はトリプルスラッシュの動きについて説明してくれた。
聞いて思ったが、俺には一瞬で3回攻撃とかとてもできる気がしない。
やろうとはしてみたが、とてもとびかかる一瞬で3回も攻撃できない。
散々練習したが、2回攻撃までしか上手くいかなかった。
俺は前世ではデスクワークをしていて、運動が全然ダメだったからそのせいだろうか。
いずれにしても、俺は肉体技は苦手なようだ。
俺の動きを見ていて、師匠もそれを感じていたようで、次にもう一つ精神技を練習しようということになった。
(師匠の得意な精神技って何ですか?)
できれば変わった技でも覚えたいと思って、俺は師匠に聞いてみた。
(ホールドじゃが、これはお主があと1回進化してからの方がいいと思うが。)
師匠はそう答える。
(精神技なら行けそうな気がするんです。頑張りますので、ホールドを教えてください。)
俺は、師匠に無理やり頼み込んでホールドを教えてもらうことにした。
精神集中の方法は学んだので、あとは力をどのようにコントロールするかだけのはず。
師匠の説明では、近くにある物体に力を込め、攻撃対象に結び付けるのだという。
師匠は最初の人間の男に向かって何かを頼んでいた。
男がロープを持ってくる。
(室内だと適当なものがないから、ロープで代用することにしよう。
お主は力の動きを見ることに長けておるようじゃ。わしが、今からこのロープを使ってお主にホールドの技をかける。
ロープを動かして相手の動きを封じる技じゃ。見事かわしてみよ。そして、力の動きをよく見ておくのじゃ。)
師匠にそういわれて、俺は準備をする。
これから師匠はこのロープを使って俺に技を仕掛ける。
そして、それがどのように力をコントロールしてできるものなのか。
しっかりと見極めよう。
師匠が動くと、まるでロープが生きているかの如く俺に襲い掛かってくる。
俺は横に飛んでかわそうとした。
しかし、師匠の動かすロープはまるでその動きを予測していたかの如く、俺を追いかける。
そして、俺はロープに追い付かれると、そのまま縛られてしまった。
(力のコントロールを見るのに意識を使いすぎてしまったかの?)
師匠が聞いてくる。確かにそれもあるが、全力で避けることに集中していたとしても、かわせた気がしない。
(いや、師匠の技が早すぎただけです。
基本はロープに精神力を込めてコントロールして動かし、相手の動きを封じるわけですね。
この技は自分以外の物体をコントロールする必要があるから、サンダーよりも高度なのですね。)
俺は、自分の感じたことを正直に答える。
(うむ、その通りじゃ。そこまで見切ったのであれば、詳しい説明も必要あるまい。
ロープを使って、あそこの人形を縛って見せよ。)
俺は師匠にロープを解いてもらうと、今度は自分が同じロープを使って動かない人形を縛ることに挑戦した。
ロープに力を込めて動かして、目標の人形を縛る。
この理屈が分かったので、俺は1発でホールドの技を成功させることができた。
(流石じゃの。この技を1発で覚えたのはお主が初めてじゃ。
あとは、自分でコントロールの練習を繰り返して自分のものにするが良い。わしが教えられるのはこれだけじゃ。)
(ありがとうございました。)
俺は師匠にお礼を言い、俺の訓練は終わった。
「ウル、3レベル技のホールドを覚えるなんてすごいわ。素質があるんじゃない。」
俺が、部屋の隅で待っていたご主人様のところに行くと、ご主人様が褒めてくれた。
(でも肉体技は全然ダメでしたけど。)
「それはいいのよ。得意分野で勝負することが大事よ。」
ご主人様はいつも、俺が頑張れるようにこうやって、俺を前向きな気持ちにさせてくれる。
(ウル、すごいや。難しそうな技覚えたねえ。)
(これで狩りもしやすくなるわね。)
ガルガンとリーザも俺のことを認めてくれた。
今までいいところなしだったから、少しは役に立てるところを見せられてよかった。
そして、俺は、気になったことをご主人様に聞いてみることにした。
(ところで今日のご主人様の話を聞いていて気になっていたのだけど、★2とか★3って何ですか?)
「ああ、それね・・・・」
ご主人様の話を要約するとこうだ。
この世界のモンスターは全て進化レベル1から進化レベル5までのランクが決まっている。モンスターセンターがこの世界のモンスターの生態と進化について研究し、ランク付けを決めたのだという。よく使うため、進化レベル1のことを★1と略すことが多いらしい。
モンスターは、ある程度経験を積むことにより進化することができ、進化する度に進化レベルが1つずつ最高★5まで増えていく。
例えば俺は狼だから★1ヤングウルフ→★2ウルフというように進化していく。ちなみに俺は今★2ウルフだという。
そして、師匠の★3シルバーウルフは★2ウルフの進化先の1つだという。
モンスターは進化レベルが増えるほど強くなり、高度な技を使えるようにもなる。俺みたいに★2なのに、3レベルの技を覚えるのは珍しいらしい。
基本★1モンスターは幼体で成体になると★2になる。
また、過去には★5を超越した★6モンスターというのがいたらしい。ただし、★5に毛が生えた程度の奴から桁違いの化け物まで全部ひっくるめて★6と分類されている。要はモンスターセンターが分類したランク付けに載ってないモンスターは全部★6として扱われる。
過去のモンスターなので★6モンスターというのは現在活動していないということになるが、封印された★6は各地に存在するらしい。封印を守るのもセンターの仕事のようだ。
あと、もう一つ大きな疑問がある。こちらの方が重要度が高い。
ご主人様以外の人間の言葉が理解できなかったことである。
(実は、俺、今日ご主人様以外の人間の言ってることが全然分かりませんでした。)
俺は後になったが、一番の疑問を聞いてみた。
「それね。それは、私がモンスターと意思疎通ができる魔法を使っているからよ。モンスター使いは、自分の従えるモンスターと意思疎通ができないと不便でしょ。」
ご主人様は、当たり前のように答える。
そういう事か、今まで俺がご主人様と話が出来たのは、ご主人様の魔法のおかげという事か。
俺自身は人間と意思疎通できないわけだ。
そして、師匠と話ができたのはモンスター同士だからという事か。
これは、やはり人間の言葉を勉強しないといけないかな。
ずっと、ご主人様と一緒にいるなら大丈夫だろうか。でも、余裕が出来たら覚えたいな。
「ウルは、色々なことを考えてるのね。賢いわ。何と言うか、まるで考え方が人間みたい。」
ご主人様は鋭いな。確かに、俺達のことよく見てるもんなあ。
(俺だってご主人様の役に立ちたくて色々考えているんです。)
俺はとりあえずそう答えておいた。
俺の前世の話はまだ言わない方がいい気がする。流石に、転生の話とかは信じてもらえないだろうし。
いつかご主人様に、前世が人間だったと話せる日が来るのだろうか。
真実を話すことはいつでもできる。
慌てることはない、ゆっくり考えそう。俺はそう思った。