23封印の地
登場人物
ウル(主人公)狼に転生し、レンディールの僕となる。(★2ウルフ)
レンディール 人間のモンスター使い。俺のご主人様。
リーザ レンディールの仲間モンスター。(★2イーグル)
ガルガン レンディールの仲間モンスター。(★2サーベルタイガー)
パワー ウルの仲間モンスター。(★2ブラックベア)
俺達は、マイケルさんの案内により封印に向かっていた。
昨日の連戦が嘘のように今のところは順調である。
昼過ぎ頃、4匹の虎がこちらを見ているのに気づいた。
★4ライジュウと★3ライガーが3匹だ。
どちらも★5ビャッコの進化前のモンスターである。
俺達が封印に向かって進むと、後を追いかけてくる。
(マイケルさん、あいつら封印を守っているビャッコの子孫じゃないの?)
俺は行動からそう思い、マイケルさんに聞いてみた。
「そうみたいですね。話しかけてみます。」
マイケルさんは、4匹の虎に近付いて行った。
(何者だ?)
4匹のリーダーと思しきライジュウが言ってくる。
「緊急連絡を受け、センターから派遣されたマイケルです。
ハクガ殿にお会いしたいのですが、案内していただけますか?」
マイケルさんは、ライジュウに対して丁寧に話している。
(いいだろう。ついてこい。)
ライジュウはそう言うと、俺達の前を歩きだした。
ライガーのうち1匹が伝令で先に奥に去っていき、残り2匹は俺達の後をついてくる。
「予想したほど深刻な状況じゃなさそうね。安心したわ。」
ご主人様が言う。
俺も封印近くは大混乱だと予想していたので意外だったが、何事もないに越したことはない。
2時間ほど歩くと、★5ビャッコを筆頭に20匹近い虎が俺達を出迎えてくれる。
50匹くらいはいると聞いていたが、まあ残りは封印の近くにいるのだろう。
そして、先頭のボスと思しきビャッコが話しかけてくる。
(マイケル殿、この度は急にお呼びだてして申し訳ない。緊急で連絡したいことがありましてな。)
「ハクガ殿。ご無事そうで何よりです。緊急連絡を受けましたので一大事かと心配しました。」
マイケルさんが答える。今いる中で唯一の★5でボスっぽいのがハクガさんらしい。
(実は、3日ほど前に我らは襲撃を受けまして、最悪を想定して緊急連絡をさせていただきました。
幸い撃退したものの、マイケル殿に見ていただきたいものがありましてな。)
そう言うと、ハクガさんは奥に向かって歩いて行く。ついてこいと言う事らしい。
「私達もついて行けばいいのよね?」
ご主人様が、マイケルさんに聞く。
「はい、来ていただけますか。」
マイケルさんにそう言われたのでついて行く。
すると、ハクガさんの案内した先にオニクビの頭にいたのと同じ虫の死体が10匹近く積んである。
ビャッコ達、ちゃんと撃退出来ていたんだ。
これならセンターに緊急救援要請をしなくても大丈夫そうだな。
「ハクガ殿、これと同じものですね?」
マイケルさんは、回収してあった虫の死体をハクガさんに見せる。
(そうだが、マイケル殿はこれをどこで?)
「ここへ来る途中、襲ってきたモンスターの頭の中から出てきたものです。
正体が分かりませんので、センターへ持ち帰り分析してもらう予定です。」
(我もセンターにこの虫の正体を確かめてもらうつもりでいたのだ。
我らを襲撃した以外にもいたとは。
ハクエンのこともあるし、我ら以外にもどれだけの被害が出ているのか。)
「ハクエン殿がどうかされたのですか?」
(今回の襲撃で行方不明になっているのだ。)
「ハクエン殿もハクガ殿と同じ★5ビャッコでしかも限界突破種ですよね。
そこまで簡単にやられるとは思えませんが。」
(ハクエンと一緒に行動していた者達は全て頭に虫を付けられ我らを襲ってきた。
ハクエンに限ってとは思っているのだが、いつまた仲間が操られて襲ってくるか分からず、まだ捜索が出来ていないのだ。)
「敵の姿は誰も見ていないのですか?」
(見ていない。
奴らがやってきたことは、少数で行動していた仲間を捕らえて虫を付け、我らを襲わせただけ。
今のところ、敵の正体は全く掴めていない。)
「勝てないと判断して、自分達の正体が明らかになる前に撤退したのでしょうか。」
マイケルさんが言う。もしそうなら楽だけどな。
(敵が撤退したと判断できるなら、本格的に捜索を開始したいところなのだが、まだ油断できなくてな。)
ハクガさんとしても、ある程度安全を確保しない限り捜索に踏み切れないだろうな。
最悪の事態ではないものの、まだ解決しないといけない問題が色々ありそうだ。
(マイケルさん、俺も聞きたいことあるけど聞いていいか?)
俺はまずマイケルさんに断りを入れた。
(このウルフは?)
ハクガさんが、俺のことをマイケルさんに聞く。
「今回私を護衛していただいているレンディールさんの仲間のウルフでウルさんです。
まだ★2ですが、恐らくハクガ殿と同じ限界突破種ですよ。」
多分違うけどな。でもこれで色々聞けるならそう言うことにしておくか。
(ウル殿、我がこの封印の守護者の代表でハクガだ。
我に聞きたいこととは?)
(襲われた時の主な戦場に案内してほしい。)
敵の正体が分からないにせよ、襲ったときの状況はどこかで見ていたはず。
パワーが昨日確かめていたことを、ここで確認しよう。
(分かった。案内しよう。)
ハクガさんは俺達を封印の近くに案内してくれた。
まだ血の匂いが残っている。
仲間がいきなり襲い掛かってきたんだ。大変だっただろうな。
俺は周りを見回す。
(あそこしかないよな?)
そして、俺とパワーは顔を見合わせるとお互いに頷いた。
この戦場をいい感じで見ることができる高台があったのだ。
(ハクガさん、襲撃の状況を敵が見ていたとしたら、あの高台の上が一番怪しいですよね?
敵の匂いが残っていないか確認してきます。)
(なるほど、そういう視点もあるのか。確かに今回の戦場を一望できるのはその高台しかなさそうだな。
では、ウル殿、確認をお願いする。)
ハクガさんに確認を取ったので、俺は高台に上った。
人間の匂いがばっちり残っていた。2人だな。
匂いが2ー3日前で古いから、もう近くにいない可能性もあるが。
(ハクガさん、物は何も残っていませんでしたが、2人の人間が高台の上にいた匂いが残っていました。)
俺は、戻って確認した状況を報告する。
(何者かが虫を使って我らを襲ったのが確定したか。忌々しい。
匂いで奴らを追跡できないか?)
ハクガさんが聞いてくる。
(匂いは2ー3日前で古いですが、今存在する唯一の手掛かりです。やりますよ。)
俺はそう答える。
ハクガさんは、自分を含めた数匹が俺達に同行することに決めたようだ。
残りの仲間には襲われないよう極力1か所に集まって待っているよう、仲間に指示を出していた。
俺は、人間の匂いを追跡する。
歩いて移動しているし、まだ雨も降っていないので、問題なく追跡はできる。
しばらく歩くと、人間がしばらくその場にとどまった場所に出た。
(ここで複数の虎の匂いが残っています。血の匂いも)
俺は、状況を報告する。
(ここで襲われたのか。
確かに、虫に付かれた仲間が襲ってきた方向と一致するな。)
ハクガさんが言う。
だが、順番的には敵が虎を捕らえて虫を付ける→ハクガさん達を襲わせると同時に高台から見るの順番のはず。
なぜ、敵はわざわざ高台で戦闘を確認した後、虎を捕らえたこの場所に戻ってきたのだろうか?
(ウル様、こないだの大熊の匂いがするぜ。)
パワーが教えてくれる。
熊も狼ほどではないにせよ、匂いが分かるのだ。
確認すると、例のオニクビの匂いが残っていた。
オニクビにビャッコ達を襲わせたのだろうか。
だとしても、敵がわざわざ一度ビャッコ達を捕らえたこの場所に戻ってくる必要はないはず。
(ハクガさん、この方向から襲ってきたのは、ハクエンさんと一緒にいた仲間ですか?)
俺は嫌な予感がして、ハクガさんに聞く。
(そうだが。)
やっぱり。
ハクエンさんと一緒に行動した仲間はここで捕らえられて、虫を付けられて同士討ちをさせられた。
もし、ハクエンさんが無事だったとしたら、危険を知らせるか何かをしたはずだ。
しかし、行方不明になっている時点でそれはない。
ハクエンさんも捕らえられた可能性は高いと見ていい。
だとしたら、なぜハクエンさんだけが虫を付けられて仲間を襲うよう命じられなかったのか。
(マイケルさん、限界突破種ってとても珍しいのですか?)
俺は、マイケルさんに聞く。
「もちろんです。極稀ですし、存在については公になっていないのです。
この封印にはハクガ殿、ハクエン殿といますが、お二方は勇者ハルカタに付き従った限界突破種の子孫だからであって、基本的にはほぼいないと考えていいほど希少なのです。」
(限界突破種の子孫には限界突破種が生まれやすいのですね。なら、限界突破種を捕らえて繁殖させることができたら、色々凄いことができそうですよね。)
俺の答えに、マイケルさんとハクガさん、そしてご主人様がはっと気づいて顔を見合わせる。
「ウル、まさか、敵の目的は限界突破種を捕まえることだったと言いたいの?」
(ええ。
恐らくハクエンさんも一緒に捕まった可能性が高いのに、なぜかハクエンさんだけは虫を付けられて仲間を襲わされていない。目的がハクエンさんだったからでは?
敵が襲撃に失敗したあと、あっさりと引き上げた可能性が高いこと。既に目的を達成しているからです。
それに、いつ仲間が襲い掛かってくるのか分からない状況では、人海戦術でハクエンさんを捜索することもできませんよね。
敵がわざわざ一度ここに戻ってきたのも、捕らえてここに置いておいたハクエンさんを運ぶためと考えれば辻褄はあいます。
それにずっと思ってたのですけど、センターに勝てるとは思えない低ランクの魔王の封印を解くという敵の目的が謎だったんですよ。魔王のランクが低いからと言って封印が解きやすいわけでもないのに。
魔王の封印解くのが目的なら、もっと強力な魔王にするはずなのに、敢えてランクの低い魔王を選んだ理由はなぜか。
敵の目的が魔王の復活などではなく、限界突破種の捕獲だったからだと思うのです。)
(ウル殿、もしそうだとするなら、敵は封印での戦況など見る必要もなく、すぐにハクエンを連れて帰ればいいのではないか?)
ハクガさんが聞いてくる。
(もし、皆さんが混乱してハクガさんも捕らえるチャンスがあるかもと敵が考えたとすれば、戦況を見るのも悪くないですよね?
撃退されたなら、ハクエンさんだけ連れて帰ればいいわけですし。)
(あそこで敵を撃退出来ていなければ、我も捕らえられていたと。)
(俺の推測でしかないですが。)
「ウル、すぐに追跡を続けた方がいいわね。」
ご主人様が話を割ってきた。確かに、急いだ方がいい。
俺は、ここでの戦闘後の敵の匂いを探して追跡を続ける。
ここから先は人間とオニクビの匂いしかしない。
敵はどうやってハクエンさんを運んだのか。
オニクビに運ばせたくらいしか思いつかない。
日が暮れたが、雨でも降れば追跡が困難になるため、俺は追跡を続ける。
3時間ほど歩いて、開けた平原に出てくる。
当然完全に夜になっている。
そこで、俺は馬車の車輪と思しき跡と、馬の匂いを見つける。
(馬車の車輪と思しき跡と馬の匂いがあります。
敵はここに馬車を用意しておいて、ハクエンさんを乗せて馬車で移動したようですね。)
俺は、状況と推測を報告する。
「馬車で移動されたとすると、追跡で追いかけるのは困難ね。
馬車はどちらに向かっているか分かる?」
ご主人様が聞いてきた。
(東の方に向かってます。)
「なら、行き先は虎島港ですね。ハクエン殿を運んでこの島から出るつもりなのでしょう。」
マイケルさんが答える。
(マイケルさん、急いで港に連絡とる方法ないの?)
俺は、マイケルさんに聞く。
「ありません。
緊急連絡アイテムでは、センターに異常を知らせるだけで、メッセージは送れないのです。」
「ガルガン、マイケルさんを乗せて、スピードをかけて走れない?」
ご主人様がガルガンに聞く。
確かにこうなった以上、一刻も早く港に連絡を取りたい。
(分かったよ。それじゃあ、背中に乗って。)
ガルガンが答える。
スピードで移動速度を上げて、最速で港にマイケルさんを連れていけば、間に合うかもしれない。
リーザの方が早いだろうけど、港の位置も分からないし、マイケルさんを連れていけないからな。
(いや、我が行こう。)
ハクガさんが言う。
「ハクガ殿は、封印の守りをお願いします。まだ、敵が残っていないという確証はないですので。」
マイケルさんの言う通り、封印を守るにはハクガさんの判断が必要だよな。
(分かった。なら、安全のためここにいるスピードが使える仲間だけでも護衛に連れていってくれ。)
ハクガさんはマイケルさんの意見に了解すると、ガルガンの護衛に★4ライジュウ1匹と★3ライガー2匹を付けてくれた。
「ガルガン、マイケルさんをお願いね。私達も後から向かうから。
マイケルさん、ガルガンをお願いします。港に付いたらゆっくり休ませてあげてください。」
ご主人様は、そう言ってガルガンとマイケルさんを送り出す。
マイケルさんはライジュウとライガーに守られながら、ガルガンに乗って東へと急いで向かって行った。




