21巨大熊との闘い
登場人物
ウル(主人公)狼に転生し、レンディールの僕となる。(★2ウルフ)
レンディール 人間のモンスター使い。俺のご主人様。
リーザ レンディールの仲間モンスター。(★2イーグル)
ガルガン レンディールの仲間モンスター。(★2サーベルタイガー)
パワー ウルの仲間モンスター。(★2ブラックベア)
(ウル様、起きてくれ。)
俺は今日もパワーに起こされた。
(パワー、今日は訓練しないはずじゃなかったか。)
(何か巨大な動物の足音が近づいてくるぜ。)
パワーにそう言われて耳を澄ますと、その通りだった。
(みんなを起こすぞ。)
俺はパワーに言って、みんなを起こす。
みんなが起きた時には、音の主がすぐ近くまで来ていた。
「★5オニクビ。なぜ、こんなところにいるの?」
ご主人様が姿を現した音の主について教えてくれる。
★5オニクビは熊の最終進化形の1つ。目の前にいるのは体長6メートルは軽く超える巨大な熊だった。
「マイケルさん、木の後ろに隠れて。」
ご主人様がマイケルさんに指示を出す。今回は敵が1匹だけなので木の上でなくても大丈夫だろう。
いや、木の上でも攻撃が届くくらい敵がでかいので、木に登っても無駄だな。
パワーはいつの間にかストレングスを使って巨大化していた。
しかし、敵は巨大化したパワーですら子供に見えるくらいのでかさだ。
ここまで近づかれた以上、ご主人様やマイケルさんを連れて逃げるのは難しいだろう。
何とかして追い払うしかない。
ご主人様は干し肉をオニクビの横に投げる。
ここのところ襲ってくるモンスターは餌狙いばかりだ。
食べている間に逃げるか、少なくとも距離を取るつもりだったのだろう。
しかし、オニクビは干し肉に見向きもせず、こちらに一歩一歩近づいてくる。
さっきの餌狙いの狼の群れの比ではない。明らかに俺達を狙っている。こいつはかなり危険だ。
「リーザ、これを使ってオニクビに岩石落とし。ガルガンは当てたらファイアー。」
ご主人様が2匹に指示を出す。俺がパワーを倒す時に使った必殺コンボを使うつもりだな。
リーザもガルガンも一度は経験済みなので、動きがスムーズだ。
今度は俺が時間を稼がないと。
パワーがオニクビの前に立ったので、パワーを支援することも想定しながら、俺はホールドの精神集中を始める。
今度は相手が1匹なので石をぶつけるのは効率が悪い。
ロープで相手の動きを少しでも遅らせて、リーザ達の援護をするつもりだ。
オニクビがパワーに飛びかかってきた。
パワーも負けじとオニクビに飛びかかるが、パワーが後ろに吹っ飛ばされる。
さすがにこれだけ体格差があるとどうしようもない。
しかし、パワーが時間を稼いでくれたおかげで俺の精神集中が完了した。
(ホールド)
俺はロープをオニクビの左後ろ脚と近くの木に巻き付ける。
オニクビはパワーに意識が行っていたようで、ホールドが綺麗に決まった。
相手が巨大なので、両脚すら無理で、片脚だけだが。
足が動かせないことに気づいたオニクビは、脚とロープで巻き付けた木を両手で押し倒す。
一瞬で木が根元から折れる。さすがに★5だ。馬鹿力すぎる。
ロープを巻き付けた木がほぼなくなり、オニクビの脚にロープだけが残っていようが、オニクビの動きを制限することはできない。
ツタじゃなくて丈夫なロープなので、ある程度は時間を稼げると思ったが、あっという間だった。
だが、それでも一応時間稼ぎにはなったようだ。
リーザの準備が完了し、オニクビの顔に油がかかった。
タイミングを合わせて、ガルガンがファイアを放ち、オニクビの顔が燃える。
よし、今のうちにもう1回ホールドだ。俺は精神集中を始める。
オニクビは、燃えている炎を振り払おうとしていた。あまり賢いとは言えない。
オニクビが両腕で顔の炎を振り払っている隙に、パワーがタックルで体当たりした。
体格差があったが、オニクビのバランスが悪くなっているところをつけたのと、パワーの体重とスピードの勢いで、オニクビの体が後ろに倒れる。
俺の追撃のホールドの精神集中も完了した。
チャンス。
俺は2回目のホールドでオニクビの右腕と近くの木を巻き付けた。
パワーが倒れたオニクビの右前脚の上に乗って、脚の動きを封じる。
それを見て、ガルガンもオニクビの左前脚の上に乗る。
オニクビと言えども、片脚だけでパワーはおろかガルガンすら飛ばすことはできない。
オニクビは意味のない言葉を発して吠えるが、多勢に無勢で動きは封じられてしまった。
唯一動ける左腕が必死に火を振り払っている。
とりあえず、いつまでもパワーとガルガンに任せるのは危険だ。
俺は、ホールドを3回かけて、オニクビの四肢を1つずつ封じていった。
(わりとあっけなかったな。)
★5だというのでかなり身構えたが、いざ戦ってみると数の差であっという間に相手を封じることができた。
うーん、やっぱ同じ熊でもパワーの方が数倍手強かったぞ。
(おいっ、いい加減降参したらどうだ?)
パワーがオニクビに言うが、オニクビから返事はない。
四肢を全部封じられて顔が燃えてるのに、こいつは根性があるな。
(ウゴゴゴゴ・・・)
オニクビが意味不明の変な声を出す。
さすがにこの状況じゃ勝ち目はないだろ。
「★5オニクビは、恐怖の咆哮を持っているわ。油断しないで。」
ご主人様が言う。
とは言え、恐怖の咆哮は戦う前に吠えて、恐怖で相手を動けなくしてから戦う技だ。
ここまで追い詰められてから使ったところで意味がないはず。
戦う前に使われなくて良かったが。
俺達は、オニクビを囲んで様子を見る。
さすがに諦めて降参するかと思ったのだが、その気配はないらしい。
突然、オニクビが口から赤いものを吐く。
血だ。
オニクビの血だ。
その後、オニクビはピクリとも動かなくなる。
どういうことだ?
顔は火傷しただろうが、外傷はほとんどないはず。
燃えているオニクビの頭がぴくぴく動いている。
何かに気づいたのか、パワーがオニクビの頭を持ち上げる。
そして、オニクビの頭の下のあった何かを蹴飛ばす。
パワーが蹴飛ばしたのは、頭だけ異様に大きく大きな口と鋭い歯を持ったグロテスクな虫のような生物。
体長10センチくらいだろうか。オニクビの頭を食いちぎって出てきたようで、体中にオニクビの血がついている。
(サンダー)
俺は、こいつを逃がしていけないと直観的に感じ、逃げようとする虫のような生物にサンダーを放つ。
(ファイアー)
ガルガンも気づいて追い打ちをかける。
虫のような小さな生物が技を2つもまともに食らって生きていられるはずもなく、ピクリとも動かなくなった。
(パワー、凄いぞ。良く気づいたな。)
俺は、全然気づかなかった。
(こいつ、死んだはずなのに頭の中がごそごそ動いてるみたいだったから、見てみただけだぜ。
なんか良く分からない変なものが出てきて驚いたぞ。なんか、気味が悪いな。)
こいつがオニクビを操っていたのだろうか?
だとすれば、干し肉に興味を示さなかったのも分かるし。
(ご主人様、マイケルさん、こいつが何だか分かりますか?)
「分からないわ。でも、この虫みたいなものが原因なのは間違いなさそうね。
ビャッコの危険信号と何か関係がある可能性がありそうね。」
ご主人様も分からない。ただ、封印を守っているビャッコの所にこんな奴がうようよいたら封印が危ない。
「私も分からないです。とりあえず、遺体を回収して帰ったらセンターに証拠品として提出します。」
マイケルさんも分からないか。
少なくとも自然発生するような生物ではない。
それに、こんな小さな虫が★5モンスターを操っている時点で普通じゃない。
何者かが、この虫を使って何かを企んでいる。
封印を解いて魔王を復活させること位しか今の俺には思いつかない。
明日到着するであろうビャッコのいる封印の場所で、何か事件が起こっているであろうことを俺は確信した。




