16初めての進化
登場人物
ウル(主人公)狼に転生し、レンディールの僕となる。(★2ウルフ)
レンディール 人間のモンスター使い。俺のご主人様。
リーザ レンディールの仲間モンスター。(★2イーグル)
ガルガン レンディールの仲間モンスター。(★1ヤングタイガー)
パワー ウルの仲間モンスター。(★2ブラックベア)
ご主人様が俺を連れていくとセンターを説き伏せてくれたおかげで、俺は今まで通り旅をすることができることになった。
色々あって、センターの人が忘れていたが、ガルガンが進化可能になっているという。
ご主人様は早速進化させてもらうことにしたようだ。
とは言っても、★1からの進化には選択肢がない。幼体から成体になるだけだ。
★1ヤングタイガーのガルガンは、虎の子供(と言っても、狩りができる程度の大きさはあるが)であり、進化することにより成体の★2サーベルタイガーになる。
これに関してはほぼすべてのモンスターについて言える。
俺はこの世界に来た時から成体の★2ウルフだったが、もし赤ちゃんから成長したのであれば、★1ヤングウルフから始まることになる。
ただし、ドラゴンなどの強いモンスターに関しては★1はなく、幼体が★2で成体が★3であるが、関係は同じである。
ガルガンが、進化台と呼ばれるカプセルの中に入っていく。
初めての進化ということもあり、ちょっと緊張しているようだ。
(ご主人様、モンスターはセンターでしか進化できないの?)
俺は、野生のモンスターがどうやって進化しているのか気になったので聞いてみた。
「野生のモンスターも十分な経験を積むと自然に進化するわよ。
私も実物を自分の目で見たことがあるわけじゃないけれど。」
ご主人様が答える。
(それなら、わざわざセンターにお金払ってまで進化させてもらう必要性が分からなくて。)
「センターで見てもらうと、必要最低限の経験があれば確実に進化できるのがメリットかしらね。
ガルガンもこのまま冒険を続ければ、いずれは自然と進化するのでしょうけど、結果が同じなら早いうちに進化した方がいいでしょ。」
まあ、自然の進化がいつ起こるか分からないのであれば、可能な時に確実にやっておいた方がいいのは確かか。
そんなことを話しているうちに、ガルガンの入ったカプセルが光り出す。
光が消えると、そこにはかなり大きくなったガルガンがいた。
無事、★2サーベルタイガーに進化したようだ。
ガルガンが、カプセルから出てこっちへ走ってくる。
俺より二回り大きくなってる。パワーとそんなに変わらない。
ガルガン、でかくなったなあ。
普通の★2ブラックベアよりは普通の★2サーベルタイガーの方が大きいからだ。
逆に言えば、パワーはブラックベアの中でも特別でかいと言えるわけだが。
(どうだった?)
俺は、ガルガンに聞いてみた。
(リーザに聞いたとおりだったよ。体に力がみなぎってくるような感じがして、気がついたら終わっていた。
何も痛くなかった。)
リーザは進化経験があるのね。★2だしそりゃそうか。
口調とかは進化で変わったりしないのね。
「ガルガン、進化おめでとう。大きくなったわねえ。」
ご主人様もガルガンを出迎えている。
「それじゃあ、今度はコストも測ってもらってきてね。」
ガルガンは、センターの人に呼ばれてコストの測定をしに行った。
モンスターは、進化をするとコストが大きくなる。大体2倍近くになるらしい。
仲間モンスターのコストが増えることにより、モンスター使いの支配力をオーバーしてしまうと、モンスターとの契約が切れてしまう。
そして、そのモンスターを大事に扱っていないモンスター使いの場合、逃げられたり最悪の場合襲われたりするらしい。
なので、進化とコストの測定はセットの手続きになっている。
ガルガンのコストは16と判定された。
進化前が8だったらしいから、ちょうど2倍だ。
パワーとか俺が規格外なだけで、これが普通のモンスターのコストらしい。
これで今日の用事は全部済んだ。
まだちょっと時間が早いけど、ご主人様は今日はセンターに泊まって、今後のことを考えるらしい。
ご主人様に連れられて俺達は、センターの宿泊施設にやってきた。
久々の絨毯である。
パワーが驚いていた。
「ねえ、ウル。相談したいことがあるのだけど。」
部屋に入ってみんながくつろぎ出した頃、ご主人様は俺に相談してきた。
(何ですか?)
「ガルガンにどの技を覚えさせようか考えてるの。ウルの意見も聞きたくって。」
ご主人様は、ガルガンに覚えさせる技について考えているらしい。
しかし、パワーの餌やガルガンの進化で予定外の支出があったため、今は覚える技を絞らないといけないようだ。
基本、モンスターには相性のよい技と相性が悪かったり、習得できない技があったりする。
ウルフの場合、基本技であるサンダーのように野生のモンスターでも覚える技を好相性技と言い、習得しやすく、かつ、効果にボーナスがつく技もある。そのため、基本的に好相性技は習得の最優先候補になる。
とは言え、仲間モンスターのメンバー的に敢えて別の技を覚えさせたいことも少なくない。誰も使えないからどうしても回復技を覚えさせたいとか、戦術的に特定の技を組み合わせて使いたい時などである。
また、習得できない技もある。
例えば、リーザのウィンドショット。発動させるのに翼を使うため、翼を持たないモンスターは習得できない。
また、精神技はある程度互換性があるので、習得自体は基本的に可能であるが、光属性のモンスターは逆属性である闇属性の技を習得することはできないなどの制限がある。
さらに、モンスターには習得できる技の数に限度があり、無暗に覚えさせればいいというものではない。センターでの技の習得には少なくない費用が掛かることもあり、使い道のない技を覚えるようなことは極力避けたい。
習得可能な技の数は、そのモンスターの知恵と進化レベル(★の数)に影響するようで、コストが高くとも賢いモンスターであればより多くの技を習得することができる。また、同じモンスターでも進化すれば習得できる技の数は増えていく。
このように、技を習得させる時は色々と考えることが多い。
俺は当時そこまでは考えてなかったから、自分で勝手にホールドを教えてもらったけど・・・。まあ、役に立っているからいいか。
多分元人間の俺は、習得できる技の数も相当多いのだろうし。その分コストが馬鹿高いけどな。
サーベルタイガーであるガルガンの好相性技は、ファイアーブレス・シャープ・スピード・ブラッドファングとのこと。
それぞれの技の使い勝手を考えてみる。
ファイアーブレスは、今覚えているファイアーの上位技で前方広範囲に炎をばらまける。多数の敵を相手にするときに便利ではあるが、下位技のファイアーを持ち、覚える技の数を絞らなければいけない現状、優先して覚えたい技ではないと思う。
シャープは、一時的に自分の牙と爪の切れ味を上げる技である。そして、スピードは一時的に自分の移動速度を上げる技である。虎は、獲物に素早く攻撃して仕留めなければならないからなのだろう。これも、現状対象が自分だけというのがネックである。
これらの技は、新たに技を覚えなくとも、熟練すれば仲間にかけることができるようになるのだが、その効果を出すには★3まで進化する必要があるらしい。ガルガンがいずれ★3に進化することを考えれば、新たに技を覚えずとも使い勝手が良くなるので、将来的にはありだとは思うが、今そこまで優先する技にも見えない。
ブラッドファングは、噛みついた相手の生命力を奪い、自分の生命力を回復する攻防一体の技である。戦闘中に回復の必要性が減るので、これが一番即効性があるような気がする。
(即効性という意味では、ブラッドファングでしょうか。)
俺は、ご主人様に思っていたことを話す。
「私は将来的にパワーにかけることも考えてシャープかなと思ったけど、確かに即効性には疑問はあるわね。」
(そう言えば、パワーに技を覚えさせることできないですか?)
「もちろん、パワーにも技を覚えさるつもりよ。
ガルガンが決まってからのつもりだったけど、一緒に考えた方がいいかしら。
ブラックベアの好相性技を確認してくるからちょっと待ってて。」
ご主人様は部屋の外に出ていった。
今のうちに本人達に聞いてみよう。
(パワー、お前、何か技を覚えているのか?
俺達との戦いでは使わなかったみたいだが。)
(俺様は、ベアハッグは使えるぜ。あまり使うことはないけどな。)
まあ、俺達も遠距離技ばかり使ってたよな。お前に近接されたら終わりだったからな。
(遠距離技を覚えてみたいか?)
(強くなれるなら、何でも覚えたいぜ。)
よし、やる気だ。
とりあえず、仲間の中でパワーだけが遠距離技を持ってないので、相性が良くなくても何か遠距離技を覚えさせよう。
(ガルガン、進化したんだし覚えたい技とかある?)
ガルガンにも聞いてみよう。
(リーザやウルみたいに便利な技を覚えてみたいな。)
難しい注文が来た。
リーザは遠距離攻撃・回復・色々便利な岩石落としと一通り揃っているからなあ。
あと、俺のホールドが便利に見えたんだろうなあ。★3技だけど。
検討したガルガンの好相性技だと、スピードかなあ。
予めかけておくと、突破とか離脱とかに使えそうだし、急いで伝令とかにも使えるかも。
(希望は分かったから、ご主人様と相談してみるよ。)
俺は、そう答えた。
2匹の希望を聞いたので、それも踏まえて検討しよう。
しばらくしてご主人様が戻ってきた。
ご主人様の話によると、ブラックベアの好相性技は、ベアハッグ・ストレングス・シャープらしい。
ストレングスで筋力も上げ、シャープで牙と爪の切れ味まで上げたりと近接戦特化だなあ。
これらを覚えても、破壊力は増すだろうが、パワーのできることはあまり増えないような気がする。
(待っている間にパワーに聞いたのですが、ベアハッグは覚えているみたいです。)
「シャープがガルガンと重なってるから消去法でストレングスかしらね。」
それを覚えてもこないだみたいな戦闘だと何もできないままのような。パワーは好きそうだけど。
(ご主人様、俺も2匹に話を聞いて考えたのですけど、ガルガンにスピードで、パワーには何か遠距離技覚えさせるというのはどうですか?
ガルガンのスピードは、将来的に味方にもかけることができますし、予めかけておけば、突撃離脱などに使えると思います。
パワーだけ、遠距離技がないので、好相性技でなくても何か遠距離技が1つはあった方がいいと思いました。)
「そうね。それじゃあ、ガルガンの技はスピードにしましょう。
パワーは、まだ精神技を1つも覚えていないから、精神技の基礎から学ぶことも考えると、下手にハードルを上げず好相性技から選んだ方がいいと思うわ。遠距離技はいくつか依頼をこなして2つ目の技を覚える時にしましょう。」
なるほど、何でもすぐ覚えられた元人間の俺を基準にしちゃだめだよな。ご主人様はこういうところによく気が付くなあ。
(それなら、結局ストレングスでしょうか。本人が強くなりたいと言ってましたし、重いもの動かす時に便利かもしれないです。)
「分かったわ。それじゃあ、パワーはストレングスにしましょう。
明日訓練してもらえるように、予約してくるわね。教えてくれるコーチの予定が空いてるといいけど。」
ご主人様は部屋を出ていった。




