122抜擢
半月後、俺達は無事レオグラードに戻った。
レオグラードでは、魔王の封印完了の連絡を受けて、既に戦後処理が始まっていた。
破壊された街から流れてきた難民を南部貴族連合で分担して受け入れ、魔王に殺されたまま放置されていた遺体の処理などが進められている。
そのあたりが落ち着いたら本格的な復興に入るという話だ。
その夜、俺は、パワー・ガインと一緒にオーウェルさんに呼ばれる。
「ウル殿、パワー殿、ガイン殿、魔王討伐お疲れさまでした。
皆さんのおかげで最小限の犠牲で魔王を封印できました。
感謝します。
今日は、皆さんに相談したい事があってお呼びしたのです。
実は、ピュートル公から打診がありまして、皆さんの中から誰かに帝都ルーベンブルグの領主になってもらえないかと言われたのです。
とりあえず、本人達に確認しますと言って一旦は保留しましたが。」
オーウェルさんが言う。
ピュートル公は、俺達の誰かを破壊された帝都の領主に据えたいらしい。
モンスターの領主は歴史的に例のない初の事例で、かなりぶっ飛んだ判断に思える。
実現はしなかったと言え、パヴェル公もタンゴを貴族にする約束をしたらしいが。
ピュートル公はモンスターに対する理解のある方だ。
だからこそ、パヴェル公との戦いで連合国のモンスター部隊を重用して勝利を収める事ができた。
モンスターである俺達の誰かを元帝都の領主に据えることで、ピュートル公としては、モンスターを重用しているぞと言うメッセージを内外に送る事ができる。
そして、現在でもハキルシア北部では開墾を進める人間とそこに生息していたモンスターとの争いが続いている。
ピュートル公には、その問題を解決したいという考えもあるのだろう。
俺としても、是非ともこの問題は解決したい。
あとは、魔王を倒した英雄が全員連合国に帰ってしまったら、国内的に連合国に頼り切りだと思われて色々都合が悪いのかも知れない。
どの理由を鑑みても、ピュートル公が俺達の誰かを領主にして、自分を中心とする新ハキルシア帝国に取り込みたいというのは理にかなっている。
(まあ、伝説の英雄が全員エルモンドに帰ったら、国内的に連合国に頼り切りと見られるのでそれは避けたいという政治的事情があるかも知れませんね。
対魔王最終兵器でもあるロウガもエルモンドに戻るでしょうから。)
俺は言う。
それ以外の理由については、パワーもガインも分かっているだろうしな。
「それで、皆さんに今後どうしたいかの希望を聞きたいわけです。」
オーウェルさんが聞く。
(俺様はエルモンドに戻ってモンスター部隊を率いるつもりだぜ。
部隊のモンスター全員に人間が受けるような教育を受けさせたいと思っているからな。)
パワーが言う。
パワーはエルモンドに戻って、モンスターの教育に力を入れたいらしい。
確かに、全てのモンスターに子供の頃から教育を受けさせる事ができれば、モンスターも人間並に賢くなれるだろうからな。
(俺もエルモンドに戻るかな。
だけど、ハキルシア北部のモンスターの生息地が奪われている問題は解決しておきたいですね。)
俺も自分の考えを言う。
オーウェルさんには世話になりっぱなしだったので、今後はオーウェルさんの役に立たないといけないしな。
それにパワーの考えているモンスターの教育についても後押ししたい。
とは言え、帝都で知ったハキルシア北部の問題も解決はしておきたい。
そこについてもどうするかも考えないとな。
「ウル殿は領主を受けますか?」
(いや、俺は領主ってがらじゃないし。
エルモンドからできる範囲でやるって訳にはいかないか。
今後また、首輪に支配されるモンスターや生息地を追われるモンスターが出るかもしれない事を考えると、アドバイザーか何かで関わっておきたいとは思いますが。)
俺は答える。
そもそも俺は参謀型であって、大将型ではない。
参謀として知謀を発揮する方が向いていると思う。
とは言え、ハキルシア北部の問題は何とかしたいから、悩みどころだ。
「ガイン殿はどうですか?
ハイネに戻りますか?」
オーウェルさんがガインにも聞く。
(俺は、ハイネには戻らないぜ。
戻るならエルモンドだ。)
ガインは答える。
ガインはハイネを避けているようだからな。
「ブランタン殿がハイネで待っているのでは?」
(と言うより、受けてみようかと考えてみただけだ。)
ガイン、領主を受けるつもりがあったんだ。
何と言うか、慌てて言ってしまった気もするが。
(ガイン、領主を受ける事を考えているのか?)
俺はガインに聞く。
もし、ガインが領主を受けてくれるなら、俺は参謀としてハキルシア北部のモンスター問題に関われそうだからだ。
(少しは考えているんだが、完全に破壊された街を復興するのは並大抵じゃないからな。
復興できる体制ができていないと受けにくいな。)
ガインは答える。
俺から無責任に推すわけにもいかないし、ガインの考えが纏まるのを待ってからにするか。
「そのあたりは、最大限協力するとピュートル公は仰ってました。
本人がどうしてもやりたい事があるならそれを蹴ってまで押し切る事はできないとピュートル公には話しましたが、ガイン殿が受けてくれるのでしたら私もできる限り協力しますよ。」
オーウェルさんが言う。
オーウェルさん、ガインをガンガン押しているけど大丈夫か?
(少し1人で考えさせてくれ。)
ガインはそう言って、一旦部屋から出て行った。
流石に無理に推す訳にはいかないし、本人にじっくり考えてもらうのがいいだろう。
「ウル殿は、帝国北部で人間とモンスターが争っている問題を解決したいとか。」
オーウェルさんが言ってくる。
(そうですね。
出来るだけ関わりたいと思ってますが、俺は領主と言う柄じゃないですから。
ガインが受けてくれるなら、参謀として解決したいと思いますが。
もし断った場合、この問題はどうなりますかね。)
俺は逆に聞いてみる。
ガインが受けてくれるなら問題はないが、そうでない場合の事も考えておく必要があるからだ。
「さすがにそれは、ピュートル公に確認しないと分かりませんが。」
(もし、ガインが受けてくれない場合、参謀かアドバイザーとして元帝都に残るというのはありですか?)
そちらの選択肢についても聞いてみる。
「その場合はピュートル公に相談しましょう。
ピュートル公からすれば、元帝都に残ってくれるだけでいいとは思うのですが。」
オーウェルさんもそれ以上は分からないので、ガインの結論を聞いてからピュートル公に相談する事にした。
翌日、オーウェルさんの所にガインがやってくる。
(あの後相談してみたんだが、元帝都の領主の件、受ける事にした。
だが、受けるにあたって色々頼みたい事がある。)
ガインが言ってくる。
「頼みたい事とは何でしょう?」
オーウェルさんが聞くと、
(俺の齧った程度の知識じゃ対処できない事も出てくるだろうからな。
定期的にウル様にアドバイザーとして元帝都に来て欲しい。)
ガインが言う。
これは俺にとっても願ったりかなったりな展開だ。
(いいぜ。
俺としてもハキルシア北部の人間とモンスターの対立問題は片づけたいと思っていたし、ちょうどいい。)
俺はそう答え、この話はすぐにまとまった。
(あと、ピュートル公に、町の統治を実際に行う人員を求めたいのだが。)
ガインが続けて言う。
そりゃ、ガイン1匹だけいても町の統治も復興もできないだろうしな。
「ピュートル公はそのあたりは最大限協力してくれるそうです。
後程、ピュートル公に返事をしに行きましょうか。」
オーウェルさんはそう言って、ガインを連れてピュートル公に返事をしに行った。
ピュートル公は、ガインのために色々な人員の便宜を図ってくれたらしい。
何でも、ガインに帝王学を学んでもらうのだとか。
その後、ガインが領主になる話をモンスター部隊の仲間にも話し、今後どうするかを1匹ずつ確認することになる。
元手下のウィル・ゼル・アリサ、そして★5スザクのヤヨイ隊長が元帝都に行くという。
さらに、ウィル隊・ゼル隊・アリサ隊の中からも多数のメンバーがガインについて行く事になった。
ガインはかなり人望があるな。リコもウィルについて元帝都に行く事にしたしな。ゼル隊なんて全員だ。
こうして、連合国のモンスター部隊は、元帝都へ行く者と連合国へ戻るものが別れる事になる。
数日後、ガインに無事子供が生まれた。
雄と雌が1匹ずつだった。
ガインは、姉にダーマ、弟にヴォイテクと名付けたようだ。
ハキルシア帝国の法律に則ると弟のヴォイテクが領主を継ぐ事になる。
ガインは、ちゃんと教育もするだろうから大丈夫だろう。
さらに翌日、ローゼリアお嬢様がレオグラードに到着する。
オーウェルさんは、ノリク様とレオグラードにきたアンネ様に会って婚約の承諾を貰い、2人は正式に婚約した。いずれ、エルモンドで結婚式をあげる事になった。
ノリク様は長期間ウォルタンから離れられないので、アンネ様だけが式に出席する事になった。
さらに数日後、連合国の部隊がレオグラードから帰る事になった。
俺はオーウェルさんとローゼリアお嬢様を連れてスレイルさんの部隊に護衛されて先にエルモンドに戻った。
これからは、エルモンドでパワーと協力してモンスターの教育に貢献しつつ、定期的に元帝都にも行って、ハキルシア北部の人間とモンスターの争いをなくすため努力をしようと思う。
そして、オーウェルさんがノリク様にも協力してもらって、狼族の俺の番候補を探してくれるらしい。
誰が来るか分からないが、楽しみにしておこう。
俺は、この先狼族モンスターとして一生を終えるのだから。
ご主人様はモンスター使い(完)
ご主人様はモンスター使いもようやく完結までこぎつけることができました。
途中できりをつけようと二度も(完)をつけましたが、結局ここまで書き続けることになりました。
最初は、ブックマークの数に一喜一憂していましたが、結局自分が読みたい作品まっしぐらで書くことになりました。
私自身が展開を楽しむため、予め先の展開を決めず、各々の登場人物が現在の状況から何を考えるだろうかと思いながら続きを書いていきましたので、展開が二転三転したのではないかと思っています。
自分で書いておきながら、特にウルが問題児で、何度もぶっ飛んだ作戦を思いついて実行しようとするので、既にオーソドックスな方向で書きかけていた続きを没にされたことが何度もあります。それがあって、途中で主人公を扱いやすいガインに変更しようと思いついたわけなのですが。
そのような内容でしたが、最後まで楽しんでいただけたのであれば幸いです。
最初に決めた設定上で最強の存在である魔王も倒し(封印し)、世界は平和になりました。
多少の後日談を熊王伝の方で書くかもしれませんが、こちらではこれ以上書く内容はないと思いますので、今度こそ完結となります。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。