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ご主人様はモンスター使い  作者: ウル
帝国のアドバイザー
102/122

102ベッカム商会

登場人物

ウル    元連合国アドバイザー(★4テンロウ)

スレイル  連合国ドンロンモンスター部隊大将(★5キリン)

アルベリク ベッカム商会当主(人間)

アンセリカ ベッカム商会前当主でアルベリクの母親(人間)

タロウ   ベッカム商会所属(★5セト)

ブライアン フィロソフィー商会当主

ピュートル公ハキルシア帝国3大貴族・連合国と同盟(人間)

パヴェル公 ハキルシア帝国3大貴族・ノリクと同盟(人間)

ノリク   連合国の宿敵(人間)


 次の日、俺はスレイルさん達に警護されてエルシアに向かう。

 エルシアはハキルシア帝国の交通の要所。

 多くの人間が行き来している。

 人間が多い町で40匹ものモンスターがどかどか町に入っていくのは流石にまずいよな。


 そのため、メルさんに連れられて俺とスレイルさんだけが町に入っていく。

 他のメンバーには町の外の通行の邪魔にならない所で待機していてもらうことになった。

 門番には事情を話して、町の近くに屯しているモンスターを討伐しないようにお願いもしておく。

 メルさんが近所の人に場所を聞くと、すぐにベッカム商会の場所が分かった。


「★5セトのタロウ様はお見えでしょうか。

 連合国のアドバイザーのウルが、会いに来たと伝えていただきたいのですが。」

 メルさんがベッカム商会の受付に話を通してくれる。


 すると、しばらくして奥からタロウさんが出てきた。


(ウル殿、まさかエルシアまで来てもらえるとは。無事で良かった。

 操られていたとはいえ、ウル殿を騙してノリクに売るような真似をして申し訳ない。)

 タロウさん、いきなり俺に頭を下げて謝ってきた。

 やはり、洗脳されていた時の記憶は残っているんだな。


(済んだ事はいいですよ。

 タロウさんもやりたくてやった訳じゃないですし。

 今日は今後の事でベッカム商会に相談をしに来ました。)

 俺は慌てて言う。


(そうでしたか。

 こちらの★5キリンは連合国の方ですか?)


(はい、ドンロンの連合国モンスター部隊の大将のスレイルです。

 今日は俺の護衛で付いてきてもらっています。

 こちらの人間が、モンスター部隊の通訳のメルです。)

 俺は、スレイルさんとメルさんを紹介する。


(ではしばらくお待ちください。

 ご主人の都合を聞いてきます。)


 しばらくするとタロウさんが戻ってきて、俺達は奥の部屋に案内された。

 部屋には、1人の人間のお婆ちゃんが椅子に座って待っていた。


「ウル殿、スレイル殿、メル殿、よくいらっしゃった。

 息子のアルベリクは今、手が離せないようなのですまないねえ。

 私は、先代ベッカム商会代表のアンセリカ・ベッカムだ。

 代わりに話を聞かせてもらうよ。」

 お婆ちゃんが言う。

 どうやらベッカム商会当主アルベリク・ベッカムの母親で、先代のベッカム商会当主らしい。


(ご主人は未だにアンセリカ様には頭が上がらない。

 ウル殿の相談にも乗ってもらえるだろう。)

 アンセリカさんの側に控えたタロウさんが言う。


(こちらこそ、突然押しかけてしまい申し訳ありません。

 我々は現在レオグラードに向かっている途中なのですが、途中でお聞きしたい事や相談したい事がありまして、寄らせていただきました。

 ベッカム商会がピュートル公への肩入れを止めたのは、タロウさんが帰ってきたからですか?)

 俺は話を始める。


「そうねえ。

 それが手を引く口実になったのは確かだわねえ。

 でも、その前から手を引く事は考えていたのよ。

 フィロソフィー商会とちょっとごたついてねえ。」


(フィロソフィー商会との関係は部外者には話せないような話ですか?)

 俺は突っ込んでみる。


「公には言えないけどねえ。

 ありていに言えば、フィロソフィー商会がエルシア全体をピュートル公側になし崩し的に引き入れようとしているんじゃないかと疑ったわけさ。

 かと言って、確証があるわけでもないから、タロウの件を理由にさせてもらった訳でねえ。」


(それでは、ベッカム商会がピュートル公に肩入れしたのは、タロウさんが捕まったからですか?)


「そうだねえ。

 息子はタロウが攫われたと知って激怒したからねえ。

 ブライアンに勧められてピュートル公に肩入れしたものの、途中でおかしいと気づいたようだねえ。

 どうするか考えていたら、ノリクの方からタロウを返すという話が来てねえ。

 ノリクと話をつけて、手を引く事にしたわけさねえ。」


 俺がノリク様の所にいた頃のエルシアの予想はあながち間違いじゃなかったのか。


(エルシア商人の中では、フィロソフィー商会だけが昔からピュートル派なのですか?)


「そうねえ。

 今はピュートル派と言うよりは反ノリク派と言うべきかねえ。

 ブライアンは、宰相になる前のノリクとは上手くやっていた筈なんだがねえ。

 ノリクとの間で何があったのか知らないけどねえ、いつの間にか完全に敵対関係になっていたねえ。

 ブライアンも以前はエルシアをよく取りまとめてくれていたんだけどねえ、今じゃ反ノリクの急先鋒になってしまったわねえ。」


 ノリク様が宰相になってから敵対?

 反ノリク様の急先鋒?

 ノリク様の政策の何かが気に入らなかったのか。

 エルシアはもともと納税は緩いはずだから、モンスターの首輪関係だろうか。


(フィロソフィー商会は、モンスターの待遇はどうなのですか?)


「普通だと思うけどねえ。

 商人にしてはモンスターの数が多いけどねえ。

 うちにもタロウがいるけど、ブライアンのところに★5ガルムのアレスがいたのには驚いたねえ。」


 ブライアン・フィロソフィーがノリク様のモンスターの待遇への政策に不満を持って反ノリク勢力になった可能性はありえるけど、これ以上は分からないか。


(ありがとうございます。

 エルシア商人の関係が大分分かりました。

 ベッカム商会は、現在は完全中立の立場ですか?)


「まあ、そういうことだねえ。

 どちらが勝ってもベッカム商会の安泰は保証されたからねえ。

 フィロソフィー商会はもうピュートル公と一蓮托生になってしまったねえ。」


 ベッカム商会が中立を保ったとなると、ノリク様の引き抜きに協力してもらうのは難しいか。


(タロウさんが戻ってきてから、ノリクから何か連絡がきたりしていますか?)


「いや、何もないねえ。

 向こうもそんな暇はないんじゃないかねえ。」


 これは無理か。


(そうですか。

 あと、タロウさんにもお聞きしたいのですが、ノリクに捕まっていた頃はどんな生活をしていましたか?)

 俺はタロウさんにノリク様の所にいた時の待遇について聞いてみる。


(私は操られていたから不満を感じることもなかったが、ウル殿を捕えた後は、ノリクの館の使用人のいる家で過ごしていた。

 私専用に世話をしてくれる人間がいたので何も不自由はしなかったが、逆に何もする事がなかった。

 ある日、ノリクの住んでいる館の地下に連れてこられて、私は正気に戻った。

 そうしたら、エルシアに返してもらえると言われ、本当に帰って来ることができたのだ。)

 タロウさんが答える。


(何も酷い事はされてないということですか?)


(捕まって操られるときは抵抗できないようにされたが、それ以外では特にはない。)

 とりあえず、タロウさんに確認することで、ノリク様がタロウさんを大事にに扱っていたことは確認できた。


(実は今日俺が来た理由なのですが、ピュートル公側にノリクを引き抜く案があって、ベッカム商会はノリクと連絡しているようなら、チャンネルがあるかもしれないと思い、訪ねてみたのです。

 話を聞いた限り難しそうですね。)


「お役に立てなくてすまないねえ。

 ミューゼル家も昔は南部貴族派だったのにねえ。

 どこで判断を間違えたのかねえ。

 ところで、ノリクの引き抜き案は、あんたの発案かねえ?」


 流石ベッカム商会前当主。鋭い。


(鋭いですね。

 その通りです。

 よく分かりましたね。)


「いや、初めて聞いた話だからねえ。

 発案者でもない人物がわざわざこんな所で話したりしないさねえ。

 しかし、ノリクに捕まったあんたがなぜノリクの引き抜きを考えたのかい?」


(この話はアンセリカ様の心にしまっておいていただけるとありがたいです。)

 流石に、今この話が広がるとまずいからな。


「そうかい。

 では、そうしておくさねえ。」


(俺はタロウさんとは違って、操られませんでした。

 連合国にいた頃の記憶は消されましたけど。

 向こうで拾われたと思ってノリクに仕えていた訳です。

 ノリクには大事にしてもらいましたね。

 実際に仕えてみて分かったのは、ノリクは不器用さで敵を作ってしまっただけで、真面目に政治をしていたことです。

 モンスターに対する政策も色々悩んだ結果でしたし、俺が改善要望をしたら方針転換もしれくれました。

 結局俺は連合国から救出して貰うことができたのですけど、大事にしてもらった記憶は残っているわけで、戦いにくいわけです。

 しかも、かつて俺が嫌っていた行為は全て腹心である★5キリンのタンゴが単独でやったという事も分かりましたし。

 ピュートル公側に引き抜いて、戦わずにすまないかと考えている訳です。)

 俺は答える。


「なるほど、あんたの考えは分かったさね。

 それならば、ブライアン・フィロソフィーにも話を聞いておくといいかもねえ。

 反ノリクの急先鋒になった理由を聞くことで、ノリクの知らない面を知ることができるかも知れないからねえ。

 逆にあんたの話が、ブライアンにとって転機になるかもしれないねえ。」

 アンセリカさんが言う。

 確かに、以前はノリク様と上手くやっていたにもかかわらず、今は宿敵になっているブライアン。彼に話を聞けば色々情報が得られそうだ。


(ご助言ありがとうございます。

 ブライアン殿にも話を聞いてきます。)


(私が案内しましょうか?

 ご迷惑をおかけした手前、少しでもウル殿の役に立ちたいですし。)

 タロウさんがフィロソフィー商会まで案内してくれると言うので、お願いすることにした。



(エルシアでは、モンスターの待遇はあまり良くはないのですか?

 エルモンドに交渉に来た時も、俺に人間に参考にして貰えるにはどうしたらいいのか聞いてましたけど。)

 ベッカム商会を出て、道すがらタロウさんと話をする。


(悪いという事はないのですが、マスターである人間によりますね。

 あくまでモンスターは人間に使われる存在ですから、マスターによっては待遇の悪い者もいるかもしれません。)

 タロウさんが答える。


(となると、概ね五島諸島と同じですね。

 世界的にはそれが平均的だと聞いています。

 エルモンドのように、モンスターが方針決定に関わるのは例外ですからね。)

 俺が答えると、


(そうです。

 私としては、人間の意思決定に関わりたいと思って努力したつもりですが、却って迷惑をかけてしまって。

 一度は意見が対立してあれだけ口論したご主人が、私の事を大事に思っていた事が分かって嬉しかった半面、意見を言いずらくなりました。)


(そうですね。

 自分の意見だけを主張するだけじゃなくて、ご主人の考えも尊重して、ご主人の目的に沿いながら自分にできることを少しずつやって信頼を得ていくのがいいと思います。)


(分かりました。

 以前の私は、意思決定に関わりたいという思いが強すぎたのようです。

 アルベリク様ともっと話すようにしてみます。)

 タロウさんもこれで信頼関係を深められるといいな。


 そうこうしているうちに、フィロソフィー商会の建物が見えてきた。


「ベッカム商会のタロウです。

 ブライアン・フィロソフィー様はお見えになるでしょうか?」

 タロウさんが、人間の言葉で受付に聞く。


「残念ながら当主は、エルシアにはいません。

 ここのところずっとレオグラードとの間を何度も往復していますので。」

 受付の人間からの答えを聞く限り、ブライアンは今いないようだ。

 本格的にピュートル公に肩入れしているのならそうなるか。


「こちらは連合国アドバイザーのウル殿。

 戻りましたら、ブライアン様に会いに来ていたとお伝えください。」

 タロウさんが言う。


「分かりました。

 当主が戻りましたら伝えておきます。」

 受付が答える。


(我々はこれからレオグラードに向かいます。

 向こうで会えるかもしれません、そうでなくてもレオグラードに向かったとお伝えください。)

 俺が言うと、ちゃんとモンスターの言葉を理解してくれていたみたいだ。


 俺達は、タロウさんにお礼を言ってレオグラードに向かう事になった。


20230524 話番号修正・誤字等修正

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