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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第1章 魔王と勇者、学校へ行く
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幕間 青年・三鍋の受難

正直、余裕だと思っていた。


粋がっているだけの、只の年下の子供だと思っていた。


高校生となってから磨いた自分の力を信じていた。


寄せ集めの手下達が全滅したときも、たいした驚きは感じなかった。


結局、自分が戦えば、簡単に潰せると思ったし、実際、もう少しで片はついた。


それなのに-


-なんだ、あの化け物は!?


≫≫≫


帰路につく青年・三鍋大和(やまと)は、今まで17年間生きてきたなかでも最上級に不機嫌だった。

不機嫌すぎて、ついつい独り言が漏れる。


「…クソ、なんだったんだ、あの下級生」


明らかに三鍋よりも背丈が小さく、筋肉だってそうついているとは思えなかった。実際に、三鍋の肘鉄をまともに食らった際にたは、明らかに苦悶の表情を浮かべていたはずだ。


「…俺の力が足りなかったのか?」


そう言って、すぐさま三鍋はその考えを打ち消した。


(いや、そんなことはない、絶対に。あれは、あいつが規格外だっただけだ。…それだけだ)


しかし、いくらそうやって疑念を心中でねじ伏せても、幾度となくその思いは首をもたげる。


「…ちくしょう」


そして、家の近くの土手を歩いているとき、その思いに自分で我慢ならなくなった。

怒りのあまり、三鍋は足元の小石を蹴り飛ばす。

と、


「ぎゃんっ!」

「っ!」


小石が飛んでいった土手の方から、人の叫び声が上がる。そして、


「いたたた…なにこれ、天罰?…私、そんなに悪いことしたっけ?」


制服姿の少女が立ち上がった。

そして、その少女は、三鍋の姿を認めた瞬間、


「あっ」


と声を漏らした。

奇遇なことに、その少女は、三鍋にとっても因縁の深い相手だった。


「ひ…朝比奈」

「あ、ひどい!今呼び直したでしょ、分かってるわよ?」

「…なんでこういう日に限ってお前と会うんだよ」

「あら、つれないこと言うのね」

「……」


三鍋は、さらに気分を悪くした。



…元々、美和子- いや、『朝比奈』とは、仲のよい友達だった。

一緒に遠くへ遊びに行ったりしたことだってある。

有り体に言って、親友のような存在だった。

そんな仲の良かった少年がまさか、


-高校に上がった時には美しい少女になっていたなどと、誰が想像しうるだろうか。


しかも、最も三鍋の心を傷つけたのは、『自分以外のクラス全員が、そのこと(・・・・)を受け入れていた』ことだった。


(当時は、それが何故なのか、まったくわからなかったっけ)


そして、仲の良かった自分にたいして、少女はなぜそう(・・)なったかの説明をついぞしなかったのだ。

三鍋は苦悩し、苦悶し、屈折したあげく-

少女と縁を切った。


『もう、俺には話しかけないでくれ。俺も、お前には二度と話しかけない』

『…うん』

『…じゃあな』

『……』


(それから、もう死ぬまで会うことはないもんだとばっかり思っていたんだがなぁ…)

「ほらほら、早く食べないと溶けるよ?」

「…お前は!なんで!平然としてんだよ!」


二人が再会してからすぐ、美和子は『これも何かの縁だから』とかなんとか言って、始めから持っていたコンビニで買ったらしいアイスを一つ、三鍋に差し出してきたのだ。

最初はなんの冗談かと思ったが、どうやら一切冗談ではないと言うことを瞳から感じ取ったため、三鍋は仕方なくアイスをうけとったのだった。

怒鳴られた美和子は、もぐもぐとかじっていたアイスから口を離し、面倒そうに答える。


「別に、私がどこに居ようと良いでしょ」

「あぁ?あのときの約束はどうなったんだよ!?」

「んなもん、時効よ時効」

「おま、え、なぁ…!」

「だいたい、あの約束だって、大和が勝手に決めて、私に押し付けたやつでしょ?守る義理なんかないもんねーだ」

「やめろ。その声で俺の名前を呼ぶな。鳥肌が立つ」


そこまで言って三鍋はふと、美和子が自分を見つめていることに気づく。


「…なんだよ」

「…あのさ。もしもあのとき、私が正直に話してたら、大和はあんなこと言わなかった?」


そう聞かれた三鍋は、しかし、その質問には答えず、ただ質問を返す。


「…逆に、今なら正直に話してくれるのかよ」


一瞬だけ虚をつかれたかのような顔をしたかと思うと、美和子は悲しそうな笑顔を浮かべる。


「…ごめんね」

「…チッ」

(…なんでだよ。なんで俺の前で、そんな顔をするんだよ。俺が- )


-俺がお前と縁を切ったのは、その顔を見たくないからだったのに。


そこでハッとした三鍋は、辛うじてその言葉を口にするのだけはこらえきった。

そして、伸びをしながら立ち上がる。


「あーあ、バカらしくなってきた。いーよもう、時効でもなんでも」

「…どういう風の吹き回し?」

「別に。ただ、今日殴りあった連中のことを考えたら、意固地になってるのがバカらしくなってきただけだ」


何となく、先程までの怒りの種だった、金髪と黒髪の二人の少年をダシに使う。


「へー。どんなやつ?」

「なんで教えなきゃなんないんだよ」


正直面倒臭かったが、美和子との雪解けを祝して、教えてやることにした。


「金髪と黒髪の下級生二人組だよ。金髪の方は、確か伊藤っつったか」


そのあと、三鍋が美和子に問答無用でぶん殴られたことは、言うまでもない。

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