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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第1章 魔王と勇者、学校へ行く
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第三話

数週間後の月曜日。


「今日からこのクラスに転入した、伊藤犀です。よろしくお願いします」

「同じくお世話になる鈴木亜蘭です。よろしく」


場所は、市立泉ヶ原学園。

二人は、転入したクラス、2年3組の全員の前で、自己紹介をしていた。


「それでは、二人とも空いている席について」


担任教師の指示で、二人はそれぞれ空いた席につく。


「じゃあ、今日のホームルームはここまで。一時間目の準備をしなさい」


と言って、担任は教室を出ていく。すると早速、


「伊藤くんの髪の毛って地毛?それとも染めてるの!?」


と、犀の隣にいた女子が質問を投げ掛ける。


「地毛だよ。祖父がイギリス人で、僕はクォーターなんだ」


犀は、二人であらかじめ決めておいた言い訳を返す。


「クォーター!?スッゴーい!」

「どうりで日本人っぽくない顔立ちなんだな」

「ねえねえ、お祖父様はどんな人なの?」


すぐに犀の周りには人が群がった。

質問攻めにされ少しだけ顔のひきつってきた犀を眺めていると、


「なあ、お前、えーっと…」


男子が一人、亜蘭に話しかけてきた。


「亜蘭。鈴木亜蘭だよ」

「あぁそうそう、よろしくな、鈴木」


その男子は飄々とした感じで、亜蘭に話しかけてくる。


「…犀には話しかけなくていいのか?」

「わざわざあんな人だかりの中に突っ込んでくほど元気じゃないよ」

「でしょうね。(はるか)くんはああいう人気者は苦手そうだし」


今度は女子が一人、こちらに話しかけてくる。


「…?えっと…」

「ああ、ごめんなさい。まだ自己紹介をしてなかったわね」


その女子は、軽く髪をかきあげると、


「私は瑠衣(るい)。富士実瑠衣よ。このクラスの委員長をやってるわ、よろしく」

「ご丁寧にどうも」

「ついでに言うと、この軽薄そうな男子は霧島遥くん」

「霧島です、よろしくな。ってゆーか」


亜蘭に会釈した霧島は、富士実に突っかかる。


「軽薄、ってーのは気にくわないんだけど」

「貴方が良いかどうか何て、私の知ったこっちゃないわよ」

「…変わってるんだな、二人とも」


亜蘭は、言い争いを始めた二人に苦笑を向ける。そもそも、霧島は自分と話しにきたのではないのか。いつの間にか主に二人で会話を進めてしまっている。


(まるで俺と犀みたい…ん?)


気づけば、犀を取り囲んでいたグループが静かになっている。それに富士実と霧島も気づいたのか、そちらに顔を向け


「あぁ、なるほどね」


二人は同時に顔をしかめる。


「あいつのお出ましか」



「お前が転入生か」


教室に突然入ってきて犀の前に立ったのは、明らかに犀よりも上の学年の生徒だった。


「そうだけど、なにか?」


犀は、言葉を選んで返答する。目の前の男からは、何かしらいやな感じがしたからだ。現に、周りの生徒からは、ヒソヒソと


三鍋(みなべ)先輩だ…」

「まさかとは思ったけど、目をつけられちゃったのね…」


といった声が聞こえてくる。

そんな周りの声も気にせず、三鍋は無表情のまま、犀を見下ろす。

そして、そのまま口を開いた。


「お前にちょっとした用事があってな。今日の放課後、校舎の裏まで来てもらおうか」

「あぁ、いいよ」


ほとんど即答だった。考える暇もない、そもそもその必要すらなかった。おそらく、相手は複数人で待ち構えているのだろう。そして、数と暴力で他者をいいなりにさせる、そういったことを今までもしてきたのだろう。そして、犀は、-サフィールは、そういった輩が最も嫌いだった。

そうした犀の態度になにかしら感じ取ったのか、


「ほう、良い返事だ。…くれぐれも、尻尾を巻いて逃げることだけはしてくれるなよ」


それだけ言い残すと、三鍋は静かに教室を出ていった。



「ヤンキーだ、本物だ…!」


一部始終を見ていた亜蘭は、心踊らせていた。

元々、『ヤンキー』というものの存在は、サウスパーク・ホームで見たテレビや南郷から借りた漫画で知っていた。しかし、もはやほとんど作り話のような物だと思っていた---三鍋を見るまでは。


「…友達がピンチなのに、何でそんなに楽しそうなの?」

「ん?いや、あはは」


富士実の突っ込みを笑ってはぐらかす。


「にしても、なんなんだ、あの先輩は?」


亜蘭が聞くと、二人は顔を見合せ、質問には霧島が答えた。


「うちの学校は、公立校じゃ珍しく中高一貫校でさ。中学校と高校が同じ敷地内にあるんだけど、あの人は高校2年の生徒なんだよ。素行が悪いって有名なんだ。暴力行為がとにかく多いってさ」

「ふぅん、なーる」


素行が悪い者、和を乱す者はどこにでもいるらしい。

と、そこまで考えたところで、亜蘭はふと思い出す。


「そういえば、一時間目の準b」

キーン…コーン…カーン…コーン

「あら、もうこんな時間?」

「あっ、やべぇ!」


凍りついたようになっていたクラスの空気が、急にあわただしくなった。



そして、放課後。


「っあぁぁ!!」

「ぐぼぁっ!?」


犀の投げたバットが顔面にめり込み、大柄な青年が倒れ伏した。

犀の足元には、いずれも高校生らしき男子生徒たちが七、八人ほど倒れている。

その犀の目の向いた方向に、三鍋は平然と立っていた。


「なかなかやるじゃないか」

「くっ、はあ、はあ」


もうこれ以上戦えないであろうことは、犀自身理解していた。

いくら元勇者であろうとも、今はせいぜい中学生程度の筋力。体格差のある高校生相手に戦うのも、限界だった。

しかも、三鍋は只の高校生とはレベルが明らかに違う。それは、ただただ犀と三鍋の手下との戦いを見ている、その立ち姿を見ただけでも、簡単に犀には推測できた。

と、また三鍋が口を開く。


「…どうした。まさか、もうこれ以上動けない、なんて言うつもりじゃないだろうな?」

「……」

「おいおい、冗談だろう」


三鍋は犀の疲労に気づくと、何故か少しだけ残念そうな顔になった。


「まあ、いいか。観戦してるだけでも、それなりに楽しめたしな。…それじゃ、幕引きといくか」


三鍋が犀に近づいてくる。しかし犀は疲労からか、もう一歩も動けなくなっていた。

三鍋は静かに犀の前に立つと、そのまま流れるように上段蹴りを放ち、


「《パワー・アブソーブ》」


その蹴りを、亜蘭はいとも容易く受け止めたのだった。



「あ、亜蘭、お前、まほ…」

「もうしゃべるんじゃねーよ。疲れてんだろ、お前」


亜蘭は憎まれ口を叩きつつ、内心ホッとしていた。

六時間目が終わったあとすぐ、富士実と霧島の二人に様子を見に行くよう急き立てられ、嫌々来てみたのだ。

犀が負けるとは思わなかったから。

仮にも、自分を死の間際まで追い詰めた相手だから。


「おい、呆けてる場合か?」

「っ!」


いつの間にか飛んできていた三鍋のストレートを間一髪でかわし、三鍋から距離を取る。そして、犀に肩を貸すふりをして、小声で話しかけた。


「なあ、犀」

「なんだ、よ…?」

「こいつは、多少怪我させても問題ないか?」


その問いに、犀は首肯で返す。


「よし、ならい- 」

「しゃべっている暇があるとは、余程余裕なようだな」

「っ!くそ、作戦会議もだめってか!?」


距離をつめていた三鍋が、またも鋭い拳を繰り出す。その拳を亜蘭はまたもすれすれでかわし、体勢を整える。

と、突然、三鍋が大きくため息をついた。そして、恨めしそうな顔を亜蘭に向ける。


「お前みたいな弱そうな奴に、時間を割きたくないんだが」

「弱そう、だって?」

「他にどう表現すればいいんだ?避け方にセンスが感じられない、反撃もしてこない、終いには戦闘中に傷ついた仲間とおしゃべりと来た。それとも、俺をおちょくってるのか?」

「なるほど、言うね、センパイ?」


言って、亜蘭は三鍋に向かって拳を構える。


「後悔しても知らないぜ?」

「…ふん、下らない強がりだな」


三鍋は、なんの警戒もしていないといった感じで、無気力に二人の方へ歩み寄ってくる。

そして、ある程度間合いが詰まった瞬間、


「はぁっ!」


勢いよく走り出して、一瞬で距離を詰め、肘鉄を繰り出す。

不意を突かれた亜蘭はかわしきることが出来ず、両腕を顔の前に構えてガードした。

しかし、衝撃を殺しきれず、腕はミシミシと悲鳴を上げる。

三鍋は、嘲笑するような顔を亜蘭に向けた。


「ほら、所詮はこんなものだ」

「…ほざいてろ」

「…なに?」


今度は逆に、亜蘭が三鍋の隙をつき、腕を振り払って距離をとる。

そして、


「そんじゃ、終わらせようぜ」


凄惨な笑顔を浮かべると、三鍋に向かって突進した。

しかし、今度は警戒していた三鍋は、亜蘭の動きに合わせるように蹴りを繰り出してきた。

なるほど、三鍋はよほど優秀な戦士なのだろう。

人間相手(・・・・)なら。

亜蘭は三鍋の攻撃をかいくぐって懐に入り、三鍋の腹に拳を添えて呟く。


「悪いな。《インパクト》!」


その瞬間、三鍋の体は3メートルほど吹っ飛んだ。


「がふっ!?て、てめぇ、一体、なに、も…」


そこまで言って、三鍋は気絶した。


「何てことはない、只の魔王だよ」


その問いに答えては見たが、誰にも聞こえることは無いだろう。

亜蘭は、犀に肩を貸すため、犀のもとへと戻った。


「魔法…」

「ん?」

「使って良かったのか…?学校で、しかもまだ初日だぞ。噂がたちでもしたら」

「まわりにゃ誰もいないだろ?それに、今使った魔法は二つとも、傍目には魔法だとは分からない。心配すんなって」

「…そうか」

「そうだよ」

「ならいい」


そして、亜蘭は犀に肩を貸し、立ち上がらせる。


「帰ろうぜ」

「あぁ、そうだな」


こうして、二人の学校生活は、波乱万丈な幕開けとなった。

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