幕間 作戦会議
だーかーら、俺は学校には行ったことないんだっつの。
俺は、生まれてから此の方、勉強を他人に教わったことなんて無い。
なんでって、何しろ、俺は魔王だからな。必要最低限の学問を他者から学ぶような凡夫に、魔王が務まると思うか?
じゃあどうするんだよ。学校での正しい振る舞いなんて、俺にも分からないぞ。
おい、勇者といえども人間だろう?学校に行ったことがないなんて、そんな…
…俺はもともと孤児だ。協会で育ち、協会で学び、協会にて神託を受けて勇者になった。
…使えねぇ
あ゛あ゛?
何でもねーよ。…それじゃ、最終手段と行くか。
最終手段って?
ああ、それはな-
≫≫≫
「え?学校での正しい振る舞い方を教えてくれ、だって?」
亜蘭と犀が学校に行く前日のこと。
たまたまホームにやって来ていた轟に、亜蘭は助力を頼んだのだった。
「そう。轟さんなら、いくらでも質問できると思ってさ」
「ふむ、それは良いんだが…」
轟は頭をかくと、苦笑いをした。
「なにぶん、俺が学校に通ってたのも十年近く前の話だからなぁ。ハッキリとは覚えてないっつーか」
その言葉を聞いて、亜蘭と犀は落胆する。
「そっか…」
「まあ、覚えてないんだったらしょうがないよな」
「…いや、ちょっと待て」
部屋を出ていこうとした二人を、轟は押し止める。
そして、
「いいか、ここでちょっと待っててくれよ?」
とだけ言い残して、自分は部屋を出ていった。
残された二人は、顔を見合わせると同時に首をかしげた。
そして、待つこと数分-
ドアが開き、轟が戻ってきた。 -南郷を伴って。
「あ、あれ?南郷さんまで?」
「ああ、そうだよ」
驚いた犀は、すっとんきょうな声をあげてしまう。
しかし、それを特に気に止めることなく、南郷はニコニコとしながら部屋に入ってきた。
「いやぁ、轟に『二人に学生時代の話をするから手伝ってくれ』と頼まれたから、何事かと思ったけど」
「俺だけじゃ記憶が不確かだからな。二人いりゃ、どっちかは覚えてるだろ」
そう言って、轟は近くにあった椅子を南郷に寄越し、自分はベッドの上に座り込む。
「さて、なにからはなそうかね」
先ず口火を切ったのは、轟だった。
「やっぱり、ここは転校生が来たときのことなんていかがかな?」
「あ、それはアリだな」
「は、はい!是非聞きたいです!」
「俺も俺も!」
自分達のヒントになるかもと、亜蘭と犀は聞く体勢をとった。
「いやはや、なつかしい響きだよね、『転校生』!」
「だな。当時は、まあ今もそうかもしれんが、転校生ってのは珍しくてな。来るって知らせが来たときにゃ、クラス中大騒ぎだ」
「そうそう!そのくせ、実際に来てみたら『大したことない』で終わっちゃうんだよなぁ」
「ありゃ理不尽だよな」
「それで、飽きられてた転校生の子を一生懸命構ってたのが、当時クラス委員長だった轟だよ」
「あっ!余計なこと言うなっつの」
恥ずかしいのか、轟がむくれる。
しかし、『学校』というものに通ったことのない亜蘭と犀にとって、南郷と轟の会話は、とても新鮮で面白いものだった。
「そうだ、部活!部活の話もするべきだな」
「ああ、それもそうだね」
「俺は野球部だったんだ。南郷は…茶道だっけ?」
「うちの学校にそんな上品なものないよ。俺は弓道」
「南郷さん、弓が使えるんですか!?」
あまりにも意外だったのか、犀が口を挟む。
南郷は、ニッコリと笑ってうなずいた。
「そうだよ。まあ、それこそ、前に試合をしたのはずいぶんと昔の話だからね」
「でも、腕は落ちてないだろ?練習自体は、毎週日曜日に欠かさずやってるじゃねぇか。安息日はどうしたんだよ、安息日は」
そこで、亜蘭はふと疑問に思うことがあった。
「二人とも、なんで今の仕事についてるんすか?」
そう問われ、南郷と轟は顔を見合わせる。
「なんで、だったかなぁ」
「轟は、あれじゃなかったか?ほら、いじめっ子退治したときの」
「あぁ、あれか!ん?じゃあお前はなんだったんだ?」
「さて、なんだったか…」
「…つーか、南郷さんの仕事ってなんなんですか?よくこんなおっきい家に住めてますね」
「私の仕事かい?あれ、前に言わなかったかな。というか、もう見た目でわかると思うんだけど」
そう言いつつ、南郷は立ち上がると、首もとにかけていた十字型のネックレスを持ち上げる。
「ご覧の通り、牧師だよ。それに、ここは教会とセットだからね。光熱費とか水道代は、教会の元締めの人達が払ってくれるんだよ。…そういえば」
そこで、南郷は犀の方を見る。
「犀くんは毎朝お祈りしてなかったかい?それなら、私の職業のことも知ってただろう?」
「あー、はい!」
…正直なところまったく知らなかったが、肯定しておいた方が都合が良いと判断した犀は、すぐさま答えた。
と、ここで轟が割って入った。
「話脱線してるぞー。学校の話だよ」
「あ、そうだったね。失敬。そういえば、こんな話も- 」
こうして、二人の話を聞いているうちに、時間は過ぎていった。
◇
「おっと、もうこんな時間か。それじゃ、二人とも、明日の準備はしっかりとね」
そう言って、南郷は部屋を出ていった。
南郷が廊下を歩いていったのを確認すると、轟は二人の方に向き直る。
「参考になったか?」
「はい、とても」
「あんがとな、轟さん」
「良いってことだ。とにかく、俺の言いたいことはひとつだけ」
そう言うと、急に轟が改まった態度になる。
「せっかく『こっち』に来たんだ、楽しんでいってくれ」
「「…はい!!」」




