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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第2章 魔王と勇者、仲間を探す
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第十六話

「ほほう、噂をすれば影がさすとは、まさにこのことだな。ま、これで君たち魔王陣営は全員揃ったわけか」


バアルエルと亜蘭たちが再会した、次の日の昼下がり。

事の顛末を聞いた世良が、感心した声をあげる。


「加えて、『あちら』との連絡手段も獲得、と。これはなかなか大きな進展だな」

「ああ。それに、バアルエルが魔力を補給する際に、合わせて相手の知識も吸ってたみたいでな。彼女の能力と合わせて、動きやすい奴が多いに越したことはない」

「なるほどな…それにしても」


そこで言葉を切り、世良は犀の方を向く。


「こんなところまでついてくるとは、一体どういう了見だ、バアルエル(・・・・・)?」

「それは貴女には関係のないことです、賢者セラスフィア」


そこには、犀の背後に寄り添うバアルエルの姿があった。


「私は勇者さまのお邪魔にならないよう、かついつでもお役に立てるようこうやって後ろに控えているのです。貴女に注意される筋合いはありません」

「筋合い云々じゃなく、単純にわざわざ学校にまでついてくる理由がわからんのだが」

「喧嘩すんなよ、ったく…」


そう言ってため息をついた亜蘭を、世良が問い詰める。


「そもそも、彼女の『通信』の有用性を確認して、そのあとの話をまだ聞けていないぞ。続きを話してくれ」

「話の腰を折ったのお前だろーが。…まぁ、それはいいや」


そして、亜蘭は続きを話し始めた。



昨日。

諸々の状況をバアルエルから聞き終えた亜蘭は、いったん内容を確認していた。


「あー、つまり、『あちら』に残っているのはまだ合流していない四将全員で、いまだに人間との戦いは続いている、ってことでいいんだな?」

「はい。ワイズマンさまによると、『あちら』には現在、『嫉妬』のシグムントさま、『憤怒』のニライカナイさん、『怠惰』のマグ=エフェトさん、そしてワイズマンさまの四名が、揃って魔王城の防衛にあたっているとのことでした」

「過剰防衛すぎるわ!仮にも将軍なら、もうちょっと戦力の分散くらいしろよ…」


呆れた亜蘭が、大きくため息をつく。

バアルエルも、軽く肩をすくめた。


「将としては無力な私でも、戦力を拠点防衛に傾けすぎなのは分かりますね」

「こんな風に過剰に俺の城を守ろうとするなんて、発案者がワイズマン以外考えられないんだよなぁ…」


ふたたび大きなため息をついた亜蘭に、犀が震える声で尋ねる。


「い、今の名前って、例の『七罪将』のだよな…?」

「ああ、そうだけど?」

「…ご健在っぽい?」

「みたいだな」

「……」

「ん?おーい、どうしたんだよ?」

「…いや、なんでもない」


黙りこんだのを変に思った亜蘭が顔を伺うが、犀は答えない。

しかし、横から輝が注釈を挟んだ。


「まぁ、確かに、私を含め死ぬ気で倒したはずの魔王軍幹部の怪物たちが軒並み生きていれば、落ち込みたくもなるでしょうね」

「ちょっ…!俺が気を使った意味は!?」

「あー、なるほどな」


図星だった犀があわてふためいたのに対して、亜蘭は大して気にも留めていない様子だった。


「まぁ、そこは真剣勝負の結果だしな。俺は構わんぞ」

「そ、そうなのか…?」


それを確認した犀も、ほっと胸を撫で下ろした。


「いや、気にしてないならいいんだ。…気にしてないなら」

「別にいいっての。てか、そんなことよりさ」


そう言って、亜蘭は犀の方、正確には犀の後ろに目をやった。


「さっきからなにしてんだよ、お前」

「えっ!?え、ええっと、これは、そのぅ…」


犀の後ろで寄り添うように立っていたバアルエルは、その事を指摘されて恥ずかしそうにもじもじしていた。


「いや、なんといいますか」

「犀に惚れたなら、もっと堂々としたらどうだ?」


亜蘭は先程、輝にそれとなく聞いた内容を遠慮会釈なくぶつける。

その瞬間、輝とバアルエルが同時に反応した。

輝は「あっ」と洩らした上で呆れたように頭を振り、バアルエルはびくっと跳ねたかと思うと、ものすごい勢いでまくし立てる。


「か、庇ってくれた恩をどうやって返そうか、思案中なだけです!勇者といえど恩は返さなければいけませんし!でしょう!?」

「お、おう」

「ほ、ほんとですからね!」

「わかった、わかったよ」


バアルエルの剣幕に、亜蘭は気圧される。

いままで随分と永い時間を生きてきたが、(バアルエル)がこのような態度をとったのは、はじめてのことであった。


「それはそうと、バアルエルさま」


そこに、輝が口を挟む。


「もうそろそろお暇する時間では?あまり長く居すぎると、南郷に怪しまれてしまいますよ」

「へ?あー、それは- 」

「ってゆーか、さっきからずっと聞きたかったんだけど。お前、どうやってホーム(ここ)に入って待ってたんだ?さすがにあの(・・)顔じゃ怪しまれただろ」

「ああ、それなら」


質問を受けたバアルエルが、右手に着けていた黒い手袋をはずす。と、彼女の白い手の甲に、暗褐色に光る文字列が刻まれているのがあらわになった。


「『幻惑の魔句』を使って、普通の人間に見えるようにしてあります。連日、人間と接触するときは常にこれを使っていました」

「へぇ、さすがは『言の葉の支配者(ワード・マスター)』、魔法だろうが秘術だろうがお手のものか」

「えぇえぇそうですとも!もっと誉めてください!」


犀に誉められたのが余程嬉しかったのか、バアルエルのテンションが大幅に高まる。

しかし、


「おーい、みなさん。お取り込み中のところ悪いけど、もうそろそろご飯の時間だよ。妹さんもおいで」

「あ、はい。是非」


南郷が顔を除かせたのを見て、すぐに態度を落ち着かせる。

…と、そこで亜蘭は気になることがあった。


「なあ、バアルエル。二つほど聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「はい、なんでしょう、兄さま」

「じゃあ、まずひとつ。いつのまに食事に招かれるくらい南郷と仲良くなったんだ?」

「仲良く…?ああ、いえ、違います。私、今日からここにお世話になることにしたのです。兄さまやグローリアスさまと同じ拠点なら安心できますし、人型で過ごしていればバレませんし」


バアルエルは事も無げに答えた。

その唐突さに少し驚いたものの、亜蘭には特に反対する理由がない。それに、もっと気になることがある。

ので、軽く流す。


「そっか。ま、お前が自分で決めたのならいいさ。それじゃ、あとひとつ」

「なんでしょうか?」

「…南郷がお前のことを『妹さん』と呼んだ件についてなんだが」

「はあ、それが」

「明らかに俺より身長の高いお前が俺の妹だと認識される理由は、たぶんお前の自己紹介にあるんだよな?」

「……」


急に黙りこんだバアルエルは、そのまま亜蘭に背を向けて部屋を出ていこうとした。


「待てコラ!その様子だと、何かやましいことがあるな!?」


しかし、亜蘭はバアルエルに数瞬で追い付くと、そのまま羽交い締めにして拘束する。


「は、離してください!兄さまと言えど、セクハラですよ!?」


バアルエルは、何とかその拘束から逃れようと手足をばたつかせる。

だが、いくら身長が高いとはいえ、力は亜蘭の方が圧倒的に強く、バアルエルは抜け出せる気配すらない。


「な、無いです!なにもないですってば!」

「正直に白状しろ!今なら怒らないでおいてやる!!」

「どうかんがえても嘘じゃないですかぁ!」


嘆くバアルエルの声が、部屋にこだまするのであった…



「…で、結局どういった内容だったんだい?例の自己紹介とやらは」

「えぇ?あー…」


亜蘭は少し言いよどんだが、観念して世良に話す。


「えっと、-」


『兄が家を出て行ってしまったことへの寂しさに耐えきれず、私も家を飛び出してきてしまいました。なので、しばらくこちらにお世話にならせていただけますでしょうか。勿論お金は-、え?私の方が明らかに年上だろうって?…ここだけの話、その、兄も体の成長(・・・・)のことは気にしているので、あまり触れないでいただけると… 』


「 -だそうだ。ったく、自分の兄貴の、しかも不慮の事故(・・・・・)によって小さくなった身長をからかうなよな!」

「不慮の事故、の部分を強調するな。見苦しいぞ?」

「うっさい!」


加熱し始めた二人のやり取りを落ち着かせようと、犀が軽く咳払いをする。


「えー、ごほん。とにかく、これで亜蘭側は全員合流できたんだろ?そしたら、できたらでいいんだけど…」

「おいおい、手伝ってほしいならはっきり言えよ。じゃないと手伝いにくいだろーが」

「…兄さまはもっとデリカシーというものを身につけるべきだと思います」

「ああ!?輝に続いてお前までも!俺、そんなに鈍いかよ…?」


軽く落ち込んだ亜蘭を無視して、バアルエルは犀の肩に手をのせる。そして、随分と明るい声で言った。


「もちろん、勇者さまの仲間探し、協力させていただきます!」

「…!そうか、ありがとう!」


その言葉を嬉しく思ったのか、犀は立ち上がると、バアルエルの手を握る。


「…ど、どうしたんだ、バアルエル?震えてるみたいだけど」

「いひゃっ!?ななな、なんでもないですよぉ!?」


…などといちゃつく二人の横で、


「楽しそうだな、おい」

「おや、兄として、自分の友と恋仲になった妹にかけてやる言葉は無いのかね?」

「いやいや、それは深読みしすぎだって。…たぶん」

「だといいがね」

「……」


ふてくされた亜蘭と、それをからかう世良の姿があったのだった。

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