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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第2章 魔王と勇者、仲間を探す
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第十五話

遅れてホームに帰ってきた犀は、部屋のドアを開けるなりあんぐりと口を開けて立ち尽くした。

当然である。

なぜなら、そこには、


「あ、ほんとに帰ってきました」

「な?だから言っただろ」


-亜蘭と肩を並べて座る、首の無い女の姿があったからだ。


「うわっ、バアルエル!な、なんでここに…!?」

「ふん、貴方に答える筋合いはありません」

「おい、そんなつれなくするなって。一応、あいつも協力者なんだし」


犀に対してつんけんした態度をとるバアルエルを、亜蘭がなだめる。そして、話題を変えようと笑みを浮かべた。


「それよりもほら、『むこう』と通信が出来るんだろ?犀も帰ってきたし、早速見せてくれ」

「ほ、本当なのか!?」


亜蘭の言葉に、犀もバアルエルに歩み寄り、顔を紅潮させながら問いかけた。どうやら、『バアルエルが「あちら」と繋がっている』ということに、かなり期待を高めたらしい。

が、それに対してバアルエルは膝の上で固く拳を握りしめると、


「…いやです」


と言い放った。


「お、おい、なんでだよ!実際に見せてくれないと、せっかくの幸運をどうにも活用できないじゃないか!」

「嫌なものはイヤです!勇者に力を貸すなど、魔族としてこれ以上の恥辱はありません!」

「そ、そんなに毛嫌いしなくてもいいだろ?な?」


苦笑いになった亜蘭は、バアルエルをなだめにかかる。

しかし、それも逆効果だったらしく、バアルエルの機嫌は余計に悪くなった。


「第一、兄さまも兄さまです!勇者などに協力を求めるなど、魔王の矜持というものがお欠けになっていらっしゃるのでは!?」

「矜持って…お前なぁ」

「そんなの、兄さまらしくありません!あの格好良かった兄さまはどこに行ったのですか!」

「 -いい加減にしろ、バアルエル」


一気に低くなった亜蘭の声に、バアルエルの肩がびくっと跳ねる。


「魔王だの勇者だのっていうのは、今は関係ないんだ。今は『あちら』から来た者全員が力を合わせる時なんだよ。もう少し大人になってくれ、いいな?」

「で、でも」

「お前は『むこう』でもそうだったよな、子供みたいにわがまま言って。あの時は別に構わなかったが、今は非常事態なんだぞ。もっと真剣に考えろ」

「う、あ…」

「あ、亜蘭?それくらいにしてやったらどうだ…?」


気まずそうな顔で、横から犀が口を挟む。

そして、次にバアルエルの方に顔を向けると、


「確かに君は、俺に対して余り良い感情は抱いていないかもしれない。けれど、今だけは力を貸してもらえないか?それはきっと、君自身のためにもなるだろう。どうかな…?」


と言って、バアルエルの反応をうかがった。

それに対してバアルエルは、


「…少し考えさせてください」


と、それだけ言って、部屋を出ていった。



バアルエルの足音が遠ざかり、聞えなくなった頃合いで、亜蘭は犀に向けてにやりと笑う。


「とまあ、こんなもんかな。いやぁ、よく俺のアイコンタクトに気づいたな。おかげで、だいたい思った通りにことを運べたよ」

「…後で彼女に恨まれても知らないからな?まったく、よくも『言の葉の支配者(ワード・マスター)』の前で小芝居が打てたもんだ」

「いやいや、あの子は説明すればわかってくれるとも!たぶん!きっと!」

「おいおい…俺が乗ってやったから良かったものの、あれじゃ傍目にはただのいじめだぞ?もう少しやり方をだな…」


わりと真剣に注意をする犀に、亜蘭は一度悪い顔をするのをやめ、苦笑いにも似たような表情になる。


「ま、冗談抜きにしたって、あのままじゃ話なんて聞いてくれそうにもないしな。ああも精神に乱れが生じていれば能力を十分には発揮できないし。そのための威圧だよ」

「そして、その乱れている状態のところに俺が優しくすれば態度は高確率で軟化する、と。…仮にも勇者である俺に、こんな狡い真似させるなよ」


呆れた風情で頭をかく犀に、亜蘭はまた悪い笑みを浮かべると、机においてあるパソコンへと目を向ける。


「ネットで見た『ドア・イン・ザ・フェイス』だかなんだかの応用だよ。やっぱり、持つべきものは知識と良友だよな!」

「だーれが良友だ、共犯者の間違いだろ。まったく、お前はどこまでもらしい(・・・)というかなんと言うか…」


と、そこで、ドアをノックする音がし、続けて扉がひらいた。

亜蘭と犀が扉の方へ顔を向けると、


「「あっ」」

「………」


そこには、明らかに怒りを押し包んでいるのがわかる顔の輝が立っていた。


「…魔王さま」

「…はい」

「今すぐ、バアルエルさまに、謝って来てください」

「いやー、まいったね、聞こえてたか」


と言って亜蘭が犀に顔を向けた瞬間、


「今 す ぐ」


恐ろしくドスの効いた声が部屋にこだまする。


「はいっ!今すぐ行ってきます!」

「バアルエルさまは今私の部屋にいます。疾く」

「わかりましたっ!」


亜蘭が大慌てで部屋を出ていくと、次に輝は犀の方に顔を向ける。


「は、はひっ…!」


恐怖のあまりうまく声が出なかった犀に、しかし輝は特に怒るでもなく、軽く会釈をした。


「魔王さまの狂言に乗っていただき、ありがとうございます」

「え?あー、どうも?」

「先ほど バアルエルさまが私の部屋にいらっしゃったのですよ。『兄さまに苛められた』と、半泣きで」

「首が無いのにわかるのか…?」

「そこは気にしないでください。とにかく、私の部屋にいらっしゃったバアルエルさまは、魔王さまに対する愚痴を並べ立てていらっしゃったのですが- 」


そこまで言うと、輝は一旦言葉を切り、犀の顔をまじまじと見つめた。

不審に思った犀は、輝に先を話すよう促す。


「愚痴を並べ立てて、それで?」

「…いえ、やめておきます。とにかく、貴方の言葉が慰めとなったようなので、いちおうお礼をと」

「えー?なんでそこを隠すんだよ」

「いえ、他意はありません。ただ、正直に言えば調子に乗るかと思ったので」

「よりいっそう分かんなくなったよ!まったく、君が俺に対する態度を軟化させるのはいつになることやら…」

「さあ、いつでしょうね」


頭を抱えた犀に対して輝が感情のこもっていない声でそう答えたのと同時に、部屋のドアが開き、亜蘭がバアルエルを連れて入ってくる。しかし-


「えーっと、それはいったい…?」

「俺にもわかんねぇよ。こうするって聞かないんだ」


バアルエルは、亜蘭の背中に隠れるようにし、犀とあからさまに距離を取っていた。


「ま、これでお前にもつっかからんのなら構わんだろ」

「あー、まあね」

「……」

「えっと、それじゃ、早速、『通信』を見せてもらえるかな?」


そう言って、犀がバアルエルの方へ近づいた瞬間、


「っ!」


バアルエルは一瞬息を飲むと、更にちぢこまるようにして、亜蘭の後ろに隠れようとする。


「やっぱり、俺だけでも席を外した方がいいかな…?」

「い、いえっ!だ、だ、大丈夫ですから!!」


バアルエルは慌てたようにして、亜蘭の後ろからとび出てきた。


「も、もう大丈夫です!ほら、ほらっ!」

「わ、わかったから!離れて!」

「…さっきからなんなんだ、一体…?」

「魔王さまには、後で私が説明して差し上げます。が、その前に- 」


そこで言葉を切った輝は、犀に迫り寄っていたバアルエルを羽交い締めにして引き剥がす。


「ほらほら、バアルエルさま。深呼吸でもなさって、いったん落ち着いてください」

「へっ?あ、ああ、ごめんなさい」


我に帰ったバアルエルを解放し、輝はすました顔で続ける。


「それでは、例の『通信』とやらをお願いします。そのためにこうして集まっているのですし」

「ええ、わかりました」


そう言うと、バアルエルは椅子に腰掛け、動かなくなる。


「お、おい、亜蘭」

「んー?」

「大丈夫なのか、これ?微動だにしないけど」

「うーん…」


と、いきなりバアルエルが立ち上がった。


「終わりました」

「え、終わり?」


あまりのあっけなさに、亜蘭が拍子抜けしたような顔で尋ねる。


「そもそも、いままでのどこが通信だったんだ?」

「今、私の体が動きを止めていたでしょう?実は、その間に私の意識は『あちら』に置き去りになった私の頭の方へと移っていたのです。そして、頭の側で近くにいたワイズマンさまに諸々の報告をして、また『こちら』にある体の方へと戻ってきたというわけです」

「そ、そうか。傍目からじゃ、何してるかまったくわかんなかったけど」

「そう、その点がこれの不便なところなのです。他者と意識の共有でもしない限り、私が口頭で説明しなければいけなくて…」


そうして亜蘭と会話をしているバアルエルの肩に、犀が激励の意味を込めて手を置いた。


「まあ、多少不完全でも、現状は『あちら』と『こちら』をつなぐ唯一の手段だ。頼りにしてるよ…あれ」


返事がないことを訝しんだ犀がよくよく見ると、バアルエルは小刻みに震えていた。そして、勢いよく犀に向き直ると、


「~~~!!!」


声にならない叫びをあげつつ、犀をポカポカと叩き始める。


「イタッ、イタッ!ちょ、ちょっと!そんなに気にさわることをしたか!?」

「う、うるさい!婦女子の肩にいきなり手をのせる方が悪いんです!!」

「そ、そんなこと言われても…!」


激昂するバアルエルと狼狽える犀を眺めつつ、輝が嘆息する。


「典型的すぎて呆れてきますね」

「どういう意味だ?」

「魔王さまは鈍すぎです。もうちょっと感性を磨いたらいかがですか?」

「なるほど、俺のことを『亜蘭』と呼べという言いつけを破るだけでなく、俺が鈍感、か。最近美和子に構って貰えてないのが随分堪えているようだな」

「な、なぜそれを!?」

「最近お前が美和子と歓談しているところをあまり見かけないからな。ま、所詮お前と美和子との絆はそんなもの、ということかな」

「…ふ、ふふ、言ってくれるじゃありませんか。ふ、ふふ、フフフフ」

「おうとも。ハハハハハ」


…この二人もまた、激しく火花を散らすのだった。

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