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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第2章 魔王と勇者、仲間を探す
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第十三話

薄暗い夜道。

飲み屋に寄った帰りで酔った二人の男が、家までの道を歩いていた。


「この辺は、この時間になるとこんなに暗くなるんだな」

「そうだなぁ。ま、大の男二人に絡んでくるやつもいないだろ」

「まあな!ハハハハ、ハ…」


二人の男の片方が、突然歩みを止める。

歩みを止めた男を、もう片方が怪訝な顔でうかがう。


「おい、どうしたんだよ。腹でも痛めたか?」

「あ、あ、あれ…!」


立ち止まった男が指差す先から、一人の女が歩いてきた。

真っ黒い服に身を包み、顔にまで黒い布を掛けたその女は、ゆっくりと、しかし確実に、二人の方へ歩いてくる。

しかし、もう片方の男は立ち止まった男を小突くと、馬鹿にするように笑う。


「おいおい、ただの女じゃねぇか。なんだよ、幽霊にでも見えたのか?」

「ち、違うけどさ…!な、なんかこう、不吉というか- 」

「もし、お二方…」


気づくと、女はすでに二人のすぐそばまで迫ってきていた。


「道をお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか…」


その言葉に、楽観的だった男は、もう一人の男が止める間もなく答える。


はい(・・)、良いですよ!」

「あぁ、ありがとうございます。ふふふ…」


そこに、一迅の風が吹き、女の顔布をめくりあげ-


「それでは…いただきます(・・・・・・)


-後には、鈴の音だけが残されていた…。



「黒い女、だって?」


世良が学校に来てから二日目。

亜蘭は、朝っぱらから妙な噂を耳にしていた。


「うん。真っ黒い服に、顔に黒いヴェールを垂らした女の人だって。何でも、その女の問いかけに答えると、寿命を吸われちゃうんだってさ」


亜蘭の問いに、隣にたっていた西城が答える。


「寿命を吸われるなんて、安直にもほどがあると思う…」

「もー、猪戸ちゃんったら、そんなこと言ったら面白く無いでしょ?」


猪戸の言葉に、来見は頬を膨らませる。


「怪談っていうのは、こういうベタなやつの方が盛り上がるんだから!」

「非生産的だね…」

「俺から言えば、そんな真新しい噂を朝から議論してるお前ら全員生産性の欠片もないけどな」

「あ、それが違うのよ、鈴木くん」


西城は、ヒラヒラと手を振って、亜蘭の言葉を否定する。


「噂自体は、ひと月前位からあったのよ?ただ、ここ最近になって、目撃談が急増したってわけ」

「ひと月前?ふーん…」

「楽しげな話をしているじゃないか。私も混ぜてくれたまえ」


そこへ、登校してきたばかりなのか、世良がカバンを持ったまま話に入ってきた。


「あ、世良さん!いいよ、えっとね…」


世良に対して西城が説明をしている間、 亜蘭は西城の言葉を反芻していた。


(ひと月前、ねぇ…怪しすぎるよな…それに、全身黒づくめの女、か。そんな格好をするのは、あいつ(・・・)くらいしか…でも、ヴェール、だと?そんなもの-)

「ちょっと、鈴木くんったら」

「へっ!?あ、な、なに?」


来見に揺さぶられたことで、亜蘭は思考から覚める。


「もしかして寝てた?」

「いや、ちょっと考え事しててさ」

「ふーん…?」

「考え事なんて…そんなベタな…」


来見に加え猪戸からもジト目で睨まれ、やましいことの無いはずの亜蘭はなぜか冷や汗が出る。

と、そこに、


「こんなとこにわらわら集まって、何かあったのか?」


と、犀がやって来た。


「おー、おはようさん。お前があとから起きるなんて、珍しいなぁ」

「誰のせいで…!、いや、起こしてくれなかったことを責めるのはお門違いか。悪いな、八つ当たりしちゃって」

「別に?」


などとしゃべっていると。


「眼福…!」

「いつ見ても良い…!」

「………(無言で頷いている)」


女子三人組が、それぞれ亜蘭と犀に手を合わせ、拝み始める。

その光景を見て、世良と犀は揃って怪訝な顔をする。


「えっと…?」

「あー、二人とも気にしなくて良いよ。やらせといたげて」


その行為の持つ意味(・・)を美和子から教わった亜蘭は、鷹揚に手を挙げる。


「それじゃ、私たちはお邪魔だろうから…」

「へ?ちょっ、待ってくれ!ひ、ひきずるなぁ!」

「じゃぁね~」

「…」


さんざん拝み倒した挙げ句、女子三人組は、世良を引きずりつつ亜蘭と犀の席から離れていった。

…取り残された犀が、思い出したように亜蘭に向かって話しかける。


「…あ、そうだ。例の噂、聞いてるか、亜蘭?」

「おう。俺も、その話をしようとおもってたところだよ」



その日の昼休み。


「ん、やっときたか。おそいぞ、世良」

「いや、遅れてすまない。西城たちが解放してくれなくってね」


先に屋上に来て昼食を食べ始めていた亜蘭と犀に、遅れてやってきた世良が片手で詫びると、二人の正面に腰を下ろし、

…胡座をかいた。


「…お前、今自分が何を着ているのか、思い出した方が良いと思うぞ」

「何か問題でもあるかね?私が羞恥心を感じなければ、それで構わんだろう」


苦言を呈する亜蘭に対し、世良は平然として答える。


「仮にこの光景を誰かに見られたところで、不利益を被るのは私じゃなく君たち二人だしな」

「わかっててやってんのかよ!たち悪いぞ、それ」

「なんのことだか」


そう言うと、世良は持っていたランチボックスを開封し始める。

それを見て、犀は不思議そうな顔をする。


「そういえば、セラスはどうやってこの町で暮らしているんだ?まさか、ずっと野宿って訳でもあるまいし」

「ああ、それなら」


世良は、ランチボックスから取り出したサンドイッチをかじりながら、


「晴日さんという、おばあさんのところにお世話になっている」


と、事も無げに答えた。


「もちろん、事情は話していないがな」

「な、なんだって!?そ、それじゃあ、どうやって…」

「どうやってもなにも」


世良は持っていたサンドイッチを食べ終わると、水筒片手に犀に得意気な笑みを向ける。


「私もかつては『大賢者』とまで呼ばれた女だぞ?人の記憶を操る術くらい、片手で数えられないくらいには知ってるさ」


そう言って、空いている手をヒラヒラと泳がせる世良を、亜蘭は軽く小突く。


「ばっか、お前、一人の記憶を弄っただけじゃズレ(・・)が生じるだろーが」

「そこはぬかりないぞ?」


と、世良はまた得意気な顔になる。


「学校に行く前日に、晴日さんの記憶をちょこっと覗かせてもらってな。頻繁に晴日さんと会う人々にも対策(・・)を施させてもらったよ。ついでに、晴日さんと縁がある人のところにも顔を出したりな」

「ああ、一昨日のあれか」

「そのとうり!」


亜蘭と世良の会話を、要領を得ない犀は適当に聞いていたが、結局は、


「まあ、セラスが良いならいいさ」


と、話を納めた。

しかし、世良は不満そうに顔をしかめる。


「ちょっと待ちたまえ。まだ、私がここに呼ばれた理由を聞いていないぞ?まさか、仲良く三人で昼食を採るため、なんて理由でもあるまい。もしそうなら、私は教室に帰って昼食を続けさせてもらう」

「…もうとっくに食べ終わってる人間の言うことでは無いと思うけど」


犀の言った通りに、いつの間にかとっくに空になっていたランチボックスを提げ、世良が立ち上がった。

そして、腕を組み、居丈高な態度で亜蘭に問い直す。


「そ、れ、で?」

「おい、そうあせるなよ。ちゃんと用事はあるさ」


世良より少し遅れて食べ終わった亜蘭は、世良をなだめつつ立ち上がる。


「話ってのはさ…今朝の、噂についてだよ」

「ああ、例の『黒い女』か?」

「そうだ。実は、その女、ちょっと心当たりがありそうでな」

「ほう、奇遇だな。私もだ」

「…なに?」


世良の言葉に、亜蘭は怪訝な顔をする。


「どういうことだ?あいつ(・・・)の詳しい外見は、お前たち勇者一行は知らないはず- 」

「会ったんだよ。昨日、帰り道で」


そう言って、世良は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「いや、今の今まで、その事を報告するのを完全に忘れていた。申し訳ない限りだ」

「おいおい…」

「まあ、それにしても、姿かたちこそ違えど、あの気配は間違いなく彼女(・・)だ。そこは保証しよう」

「そっか…まあ『全身黒づくめの女』なんて、俺にとっちゃ他に候補は無いか」

「ちょ、ちょっと待て!どういうことだ?『こちら』に来ているお前の配下は、例の『七罪将』とかいう奴等のみ、しかも人型だろ?それなのに、セラスが知っていて俺が知らないはず- 」

「あるんだな、それが」


深くため息をつくと、亜蘭は犀に向き直り苦笑いをする。


「あいつは昔っから人に顔を見られるのが嫌いでな。なぜ鉄仮面からヴェールに変えたのかはわからんが、ま、声も聞こえず、顔も見えずじゃ判別なんかつかないだろ?」

「お、おい。それって…」


亜蘭の言葉で何かを察したのか、犀の顔が青くなる。

犀の顔を見て、亜蘭もまた肩をすくめた。


「そ、お察しの通りだよ。例の女ってのは、恐らく- 」



ちょうどそのころ。

サウスパーク・ホームの前を掃除していた南郷は、顔を撫でる時期にそぐわぬ寒風と、微かに聞こえる鈴の音に、ふと顔を上げる。

と、南郷は、ちょうど顔を上げた方向に女が一人立っていることに気づく。


(なにか、うちに用事でもあるのかな…?)


などと南郷が考えを巡らせているうちに、その女は音もなく歩いてくると、南郷の眼前に立つ。

不審に思った南郷が、


「なにかご用ですか?」


と問うと、女は注視しなければわからないほどに少しだけ首を傾げると。ヴェールに隠れ、南郷からは見えぬ口を開く。


「道をお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか…?」



「 -恐らく、『色欲』のバアルエル。…俺の妹のことだろうよ」


そう言い切った亜蘭の顔は、犀にすら見てとれるほど曇っていた。

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