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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第2章 魔王と勇者、仲間を探す
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第十一話

昼放課。

日の射す屋上で、亜蘭と犀は、座り込んで昼食をとっていた。


「………」

「………」


亜蘭は購買のパンを黙ってかじり、犀もまた、自分で作った弁当を黙々と口に運ぶ。と、二人の上に影が射したかと思うと、


「おやおや、ずいぶんと落ち込んだ雰囲気のようだが。何か嫌なことでも有ったかね、ご両人?」


二人の目の前に、小柄な女子が仁王立ちしていた。

その女子を見上げ、犀は軽くため息を漏らす。


「…やっと来たか、セラス」

「おっと、待っていてくれたとはね。お優しいな、勇者どのは」

「呼び出したのは君の方だろう。第一、あんなことをされたら、俺たちの目的に差し障るからな。断りようがない」


そう言うと、犀は女子…セラスフィアの顔を睨めつけた。



少し時を遡り、朝。

『転校生』として二人のクラスにやってきたセラスフィア…世良を見て、驚きはしたものの、当初は二人とも、彼女に対して微かに希望を抱いていた。


「良かった…!セラスが『こちら』に来ているのであれば- 」


犀が安堵に胸を撫で下ろせば、


「高確率で、勇者ご一行は全員『こちら』に来ているということだな。ぞっとはしないが、ま、事情のわかっている協力者が増えるに越したことはない。ひょっとしたら、俺たちが持っている以上の何かを知っているかもな」


亜蘭は、新たな『あちら』の人間の登場に期待を寄せていた。

しかし-


『コレハコレハ、勇者ドノデハナイカ。ヨモヤ、君ガ裏切リトハナ』

「…なに?」


二人が窓の方に顔を向けると、そこには、人型の小さな泥人形が立っていた。どうやら、先程の声はその人形が発したらしかった。

そして、


「あ?誰だ、今の声?」

「〇〇ちゃん、なんか言った?」

「ううん、言ってない。変なのー」


声を聞きつけ、騒ぎ始めた教室を見て、二人の顔色は真っ青になった。


『オヤ、存外騒ギニナルノダナ。ソレデハ…』


先程より小さな声でそう言ったかと思うと、泥人形はどろりと形を崩し、


『昼 屋上』


という文字を一瞬だけ壁に形作ったかと思うと、そのまま床へと染み込み、消えていった。

亜蘭と犀は顔を見合わせると、世良の方へ顔を向ける。彼女は-

二人には見向きもせず、また教室の騒ぎに耳を貸すでもなく、自分の割り当てられた席へ無言で座っていた。



「いやはや、君に新しい仲間が出来たようで、私は嬉しいよ。いや、君が魔王側に着いた、といった方が正しいのかな?まったく、笑いが止まらないよ」


そう言う本人は笑顔のつもりらしいが、最早笑顔とは言えないほどひきつっているし、そもそも目がまったく笑っていない。

世良は、そんな表情を器用に保ったまま、再び二人に話しかける。


「ん?どうした、サフィール?これからは、魔王と仲良しこよしの方針に宗旨替えしたんだろう?」

「 -いい加減にしろ、セラス」


耐えきれなくなったのか、犀が世良に言い返す。


「俺たちが手を組んでいるのは、元の世界に帰るのに最も効率的だという判断からだ。第一、俺たちの目的は平和であって、魔物達の撲滅では- 」

「ほほう?なるほど、効率のために仇敵と手を組むか。君には勇者としての矜持というものが欠落していると見える」


蔑むように犀をあげつらう世良を見て、遂に我慢の限界に達したのか、亜蘭が口を開く。


「おい、小娘」


いつになくドスの効いた声に、ぎょっとした顔で犀が亜蘭を見るが、知ったことではないとばかりに、世良を睨み付ける。


「貴様はなんだ、さっきから。俺は貴様のせいで今日機嫌が悪いんだ。これ以上飯が不味くなるような話を続けるつもりなら、即刻この世から退場させるぞ」

「おやおや、やはり魔王は野蛮だな。さすがは魔族といったところか?」


亜蘭はその言葉には答えず、


「《プロテクト・キューブ》」


と唱えてパチン、と指をならす。と、三人を含む屋上の空間が、半透明の立方体(キューブ)で区切られ、周りの空間と断絶された。


「っ!亜蘭、やめろ!」

「いいや、駄目だな。こいつには一度、身の程を理解させてやらんといかん」


立ち上がった亜蘭を見て、世良は身構えた。


「君が彼を丸め込んだのか、彼が君を頼ったのかは知らんが、どちらにせよ、君が私を攻撃すれば、晴れて勇者は裏切り者だ。それでも- 」


世良の糾弾も、ここまでだった。


「《ヘルフレイム》…!」


亜蘭の手から放たれた業火が、世良に襲いかかる。

しかし、身構えていた世良もまた、すかさず懐から一本の試験管を取り出し、開封する。そして、


「濡らせ、『アクアリキッド』!」


中に入っていた青い液体を、燃え盛り覆い被さる炎へと振り撒く。

瞬間、世良を焼き付くさんとする焔の波は、たちまち消え失せた。

しかし、その間にも、亜蘭は世良との距離を詰める。そのまま、世良の目の前に拳を突きだし、叫ぶ。


「《インパクト》!!」


不可視の衝撃波を受け、世良はキューブの壁へと叩きつけられる。


「がっはぁ…!ぐっ、阻め、『クレイドール』!」


そう言って、また別の試験管の中身を振り撒いた世良の前に、世良を守るようにして、朝に見た泥人形の数十倍の大きさの人形が形作られる。

が、そんなものは『魔王』であった亜蘭には通用しない。


「ふん、ならばこれでどうだ。《アイスエイジ》!」


亜蘭が手をかざすと、巨大な泥人形は瞬く間に凍てつき、崩れ去った。


「くうっ…」

「どうした、もう終わりか?大言壮語を吐いておいて、所詮は其の程度か」


亜蘭の言葉に、世良は、屈辱からか唇を噛む。その体は、怒りをこらえるかのように、小刻みに震えていた。

しかし、壁面に叩きつけられたのが効いたか、はたまた亜蘭の魔法にあてられたのか、世良は座り込んだまま、動こうとしない。

亜蘭は無表情で世良の前に立ち、彼女に向かって手のひらをかざす。


「ではさらばだ、賢者よ。《シャドウブラ-」

「そこまでだっ!!」



屋上に、犀の声が響く。数拍おいてから、犀は諭すような調子で亜蘭に話しかける。


「もういい、亜蘭。これ以上の戦いは、無意味でしかない。それに- 」


と、一旦言葉を切って、犀は世良に顔を向ける。


「彼女は…セラスは俺の仲間だ。手にかけるのだけは、例えお前だろうが絶対に許さん。…セラス、立てるか?」


そう言って、犀は世良に手を差し伸べる。すると-

世良は、もうこれ以上堪えきれないといった様子で、勢いよく吹き出した(・・・・・・・・・)。そのまま、クックッとしゃっくりのように笑い続ける。

ぎょっとした犀の肩に、にやけ顔の亜蘭が手をおいて言う。


「ま、お疲れさん。いやぁ、さすがは勇者様。自分の感情より仲間を優先するとは、かっこいいなぁ」

「なっ!?ど、どういうことだよ!?」

「簡単な話だよ、サフィール」


少しよろめきながらも、何事もなかったかのように立ち上がった世良を見て、犀の混乱は更に増す。


「世良!?だ、大丈夫なのか…?」

「ああ、せいぜいが軽い打ち身だよ。ひとえに魔王の手心のお陰かな」

「よせよ。俺は真面目に戦ってたぜ?」

「冗談はよしてくれ。君が本気で戦っていれば、今頃私はぐちゃぐちゃだよ」


にこやかに談笑する亜蘭と世良を見て、我慢の限界に達した犀は大きくため息をついた。


「何がどうなってるのか、俺にも分かるように教えてくれ…」

「もちろんさ、サフィール」


そうして、世良による説明が始まった。



そもそもの話は、朝のちょっとした事件から時間を置いたころ。二時間目が終わり、犀がトイレに行くために席を立った時だった。

犀が教室を出たのを見計らって、世良が亜蘭の元へとやってきたのだ。


「…何か用?」

「おや、そうしらばっくれることは無いぞ?確かに姿形は変わったが、その魔力、仮にも賢者の私が見落とすと思ったのかい?」

「…それならなおさらだ。なんだ、俺にとどめでも差しに来たか?」

「まさか!これから良き協力者となりうる君を害するつもりなど毛頭ないさ。そうじゃなく- 」


世良は大仰に肩をすくめると、顔を亜蘭に近づけ、声を落として続ける。


「実は、ちょっと協力を頼みたくてね。ま、いわば、信用回復のためのテスト、といったところかな」

「信用回復…?詳しく聞こうじゃないか」

「いや、実に下らないことだがね」


そう言うと、世良は苦虫を噛み潰したような顔になる。


(サフィール)も一応勇者のはしくれとはいえ、ひと月は魔王のそばにいたんだ。彼が変に毒されていないか、試したくなるのも仕方がないだろう。分かってくれるかね?」

「『毒されてる』ってのはちと不本意だが、ま、たまにはあいつを思いっきりからかってみるのも悪くないかな」


そう言って、亜蘭は世良に手を差し出す。


「そんじゃ、これからよろしく」


が-

世良は、差し出された手を、呆けたような顔で見ているだけで、握手をしようとはしなかった。


「…?どうした、魔王とは握手も嫌か?」

「へ?あ、いや、そんなことはないさ。ただ- 」


世良は少し言いよどみ、


「いや、何でもない」


結局、その先を言うことはなかった。


「まあ、なんだっていいよ。それで、どういったテストをするんだ?」

「ああ、聞いてくれ- 」


そこで、亜蘭は、世良から『挑発してくる世良に攻撃を仕掛けること』『ある程度は手加減しつつ、犀が助けに割って入るかを見る』という指示をうけていたのだった。



亜蘭の説明を聞き終わった犀は、肩を振るわせ始めた。

何かを察知し、距離を取る亜蘭とは対照的に、何が起こっているのか分かっていない世良が犀に歩み寄る。


「つまりは、最初から最後まで演技だった、ってことか…?」

「そうだぞ?どうした、そんなしんみょ- 」

「ふざけんな!!」

「んぐぇっ!?」


突如、犀は世良に躍りかかり、思いっきり世良の首を絞め上げる。


「テストだと!?こっちは本気で心配したんだぞ!」

「す、すまなかった、許し- 」

「ダメだ、絶対に許さん!!だいたい、お前は『むこう』でも、俺や他の仲間の言うことを聞かずに勝手なことばっかしてたよな!?反省しろ!」

「う、うぐぐ…」


だんだん限界に近づいてきた世良は、犀の説得を諦め、亜蘭に助けを求める。


「まお…たすけ…」


しかし、亜蘭は静かに首を横に振り答える。


「残念だが、手遅れだ。諦めろ」


その言葉を聞き、世良の顔が絶望に歪む。そして、


「やっぱり、あくえいきょ…うけ、て…」


と言い残すと、ぐらりと頭を傾がせ、気絶してしまったのだった。

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