プロローグ,2
夢の中で見たそれは、遥か昔のことのようで、それなのに嫌に鮮明な-
-戦いの記憶だった。
◇
『吹き飛べ、《シャドウブラスト》!!』
魔王の放った強力な魔法攻撃が、賢者の編んだ加護に阻まれ、勇者の眼前で弾けて霧散する。
魔力を使い果たしたのかくずおれる魔王を見て、勇者は安堵のため息を漏らした。
『すまない、「セラスフィア」。後は二人の回復を』
『あぁ、分かった』
そう言って、賢者…セラスフィアは、傷つき休んでいた仲間のもとへと駆け寄る。
まずは、真っ二つにへし折られた杖を抱え、憔悴しきった様子の少女の前にかがみこみ、顔を近づけた。
『おい、大丈夫か?』
『あ…セラ…さ、ん…』
傷つき、疲れはてていた少女は、辛うじてといった感じで声を絞り出す。
『わた、したち…勝ったん、ですか…?』
『ああ、勝ったさ、勝ったとも。だから、今は休んでいろ。英雄の付き人の魔術師サマが、過労死でもされたら笑えない』
セラスフィアの軽口に笑みをこぼすと、少女はそのまま気絶するように眠ってしまった。
回復の祝福を少女に与えると、セラスフィアは立ちあがり、すぐ近くで血まみれになって座り込んでいる騎士に歩み寄り、兜を二、三回軽くノックする。
『おーい、生きてるんだろうな?』
『ちょっと姐さん、俺にももう少し優しくしてくださいよ』
『お前は丈夫さが取り柄だろうが。ま、この様子じゃ、まだ当分くたばりそうもなくて安心したよ』
そうやって憎まれ口を叩きつつ、セラスフィアは騎士の隣に座り込み、玉座の方を伺う。
どうやら、魔王と勇者は会話を終え、ついに因縁に決着がつこうとしているところのようだった。
『…ついに、終わるんすね』
隣の騎士が、ぽつりと感慨深げに呟いた。
『まだまだこれからさ。残党の処理にまだ息のある幹部達の処遇、王国にも報告に戻らなきゃならん。私はいい加減野宿に飽きたよ』
『そんなこと言って、いつも一番野宿を楽しんでたのは姐さんじゃないですか』
などと話しているうちに、勇者が魔王に剣を振り下ろすところが、遠目に見える。
が、その剣が魔王の首を撥ねる直前、魔王から眩い閃光が溢れ、玉座の間をみるみる間に満たしていく。
『なんだ、この光…?こんな魔法、私の記憶には- 』
『そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、姐さん!早く俺の後ろに- 』
立ち上がった騎士の手を払い除け、セラスフィアは少女の方に手を伸ばす。
『あ、姐さん!?』
『駄目だ、まだあの子が- 』
その伸ばした手が少女に届く直前、視界が完全に白に染まり-
◇
「…夢、か」
少女は、あくまでも静かに目を覚ました。
そのまま、ゆっくりと体を起こし、壁に掛かったカレンダーに目をやる。
「…ああ、今日からか」
日付を確認すると、少女はすぐにベッドを降り、制服に着替えて自分の部屋を出、階段を降りて、すでに起きてキッチンで料理をしていた初老の女性に話しかける。
「おはようございます、晴日さん」
「あら、おはよう、珠代ちゃん」
少女…珠代の挨拶に、女性は笑顔を返す。
「朝ごはん出来てるわよ、食べて」
「はい。ごめんなさい、寝坊してしまって」
「ほんと、珍しいこともあるものね」
珠代は食卓につくと、「いただきます」と女性に向かって言い、そして、
(…勇者は元気にしているだろうか)
…なんて他愛ないことを考えながら、トーストをかじるのだった。




