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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第1章 魔王と勇者、学校へ行く
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第九話

「…さま、魔王様!」

「な、なんだっ!?」


臣下の己を呼ぶ声で、黒鎧の騎士- 魔王は目を覚ました。

魔王の側に控えていた純白のローブを着こんだ骸骨が、ため息を漏らす。


「まったく、魔王様は最近気が緩みすぎなのでは?いくらここ数年、我らの妨げとなる者が現れないと言っても、警戒は怠るわけにはいかないのですよ?」

「ああ、すまない。忠告痛み入るよ、ワイズマン」

「分かればよろしいのです」


骸骨(スケルトン)の神官にして宰相のワイズマンは、満足そうにそう言うと、もはや骨のみとなった手をこれまたむき出しの顎骨にあてがい、


「しかし、どうやら近頃『神託の勇者』を名乗る一団が、我ら魔王軍に楯突いているとのことですが。しかも、いままでの『自称勇者』達の中でもかなりの強者であるようです。ひょっとしたら、ということも…」


と、少し気にするような声で告げる。

しかし、魔王は首を横に振る。


「いや、それは考えすぎだろう。私には忠実な数多くの臣民と、貴公ら『七罪将』がいる。なにも案ずることは-」

「案ずることならありますとも」

「…なに?」


怪訝な顔で魔王が聞き返すと、ワイズマンが魔王の方へ顔を向ける。その顔は、-

犀のものだった。


「…は?」

「制服のまま寝てんじゃねーよ、シワになるだろうが」

「えっ、ちょ、ちょっと!?」


状況が飲み込めない魔王- 亜蘭をよそに、犀は続ける。


「ほら、早く起きろって」

「いや、起きるもなにm」

「いいから起きろって…言ってんだろ!」


犀は、亜蘭の胸ぐらを掴むと、そのまま自身の頭を亜蘭の頭に叩きつけた。


「痛っっっ…」



「…っっってぇ!!」

「げふっ!?」


亜蘭が体を飛び起こした瞬間、顔を覗き込んでいた犀の顔面に亜蘭の頭がクリティカルヒットした。


「あぁ、また夢か…ん、犀?そこでなにしてんだ?」

「…なんでもねえよ!」

「お、おい!なんで怒ってんだよ!?」

「うるさい!」


そう言い捨てると、真っ赤な顔の犀はそのまま部屋を出ていってしまった。


「…顔に頭突きしたのが、そんなに痛かったか…?」


後でしっかり謝っておこうと心に留め、亜蘭はベッドから降りる。すると、ゴソゴソと音がしたかと思うと、犀が開け放っていたドアから猫が部屋の中に体を滑り込ませ、


「おや、お目覚めですかな、王?」


と、爽やかな声で亜蘭に喋りかけた。


「うわっ!?ね、猫がしゃべっt」

「シーッ!私です私、オブスキュラスです!大声を出さないでください、人が来てしまう!」

「お、おお、悪いな、怪史郎」


暫くして、落ち着きを取り戻した亜蘭は、今度は不思議そうな顔になる。


「それにしても、なんで猫なんだ?」

「えぇ、この姿は情報収集に使っているのです。屋外ならほぼどこを歩いていても違和感がなく、かつコンパクトで潜入がとてもしやすいですからね」

「…ずいぶんハキハキしゃべるじゃないか。設定維持するのに疲れたのか?」

「設定…?ああ、いえ、あれはキャラを作っていた訳ではなく、ただ疲れていただけです。さっきも寝不足で…」


その言葉に、亜蘭は普通に驚いた。


「それは意外だな。普通に、ああいう性格なのだと思っていた」

「まあ、『あちら』ではあまり言葉を発することもありませんでしたしね。『こちら』に来てからも弱っておりましたし…魔王様のお力を注いで頂いたことで、ようやくまともにしゃべることができるようになったのです」


オブスキュラスは、猫の姿のまま器用に後ろ足で立ち、お辞儀をした。


「ふーん…で、『寝不足』ってのは?いつも、俺や犀が寝る前にはとっくに寝ているだろうに」

「あ、それはですね」


オブスキュラスは前足でヒョコヒョコと頭を掻くと、


「寝室にある私の体は、私から分離させた、いわば人形です。本体である私は、このとおり夜通し情報収集に精を出しているのですよ。ご心配をおかけして、申し訳ありません」


と、どこか面目無さそうに返す。


「成る程ね…でも、そんなに無理する必要はないんじゃないか?」

「必要はありますよ。なんたって、私は『人喰いのバケモノ』ですからね」


オブスキュラスの自嘲ぎみな返答で、ようやく亜蘭は合点がいった。


「罪滅ぼしのつもりか?」

「…恥ずかしながら。そんなことをする資格すら無いことは、よく分かっておりますが」

「…だとしても、少しくらいは相談してくれたって良いだろう?上司と部下の間の『報連相』は重要だと、ネットにもあった」

「ほ、ほうれん草?」


怪訝な声をだすオブスキュラスの頭に、亜蘭は静かに手を置いた。

オブスキュラスも、なにごとかを言いかけたものの、素直に従う。


「…『オブスキュラス』」

「…っ!」

「轟さんはああ言ったがな、お前だけが全ての責を背負う必要はないんだ」


亜蘭は、オブスキュラスの頭に手を置いたまま、静かに続ける。


「お前が罪のない人間を喰らったことを悔いているのはわかっている。お前に贖罪の気持ちがあることもな。でも、お前が、お前だけが苦しむのは、俺だって、グローリアスだって、他の朋輩達だって嫌なんだよ」

「魔王様…」

「だから、さ」


亜蘭はポン、と軽くオブスキュラスの頭を叩くと、


「無茶だけは、しないでくれよ?」


にっこりと笑ってそう言った。


「…魔王様は、『魔王』には向いてませんね」

「えっ、ちょ、ひどくない?俺としては真剣に慰めたつもりだったんだけど?」


クスリ、と怪史郎が笑う。


「いえ、魔王様らしい、という話ですよ」

「そ、そうか?」

「ええ」

「なら良いんだが…」

「それでは」

「おう、おつかれ」


そうして、怪史郎を見送ったあと、結局着替えていなかったことに気づいた亜蘭は、慌てて制服を脱ぎ捨てるのであった。



次の日。


「そういやさ、亜蘭」

「ん?」


テスト勉強のために、二人はホームの中にある図書室に来ていた。

勉強に飽きて本を取りに行った亜蘭に、犀が声をかける。


「お前の配下って、何人居るんだ?」

「何人、もなにも、数えきれないぐらいだが?」

「ああ、いや、そういう事じゃなく」


犀は、言葉を選んでいるのか、少し考え込む。


「んー、なんというか、配下っていうより、側近?みたいな?まあ、ようはグローリアスとかオブスキュラスみたいな奴だよ」

「ああ、幹部クラスって事か?」


合点のいった亜蘭は、犀の疑問に答えるべく記憶を掘り起こす。


「えーっと…二人と同格って言ったら、『七罪将』の奴等かな?」

「しちざいしょう?」

「そ、七罪将。魔王直轄の七人の将軍だよ。ま、将軍らしいことしてたのは、せいぜい半分ほどだったがな」


亜蘭が、どこか懐かしそうにそう言う。


「『罪』の部分は?」

「七人それぞれが『七つの根源的な罪』を意味する二つ名をもってるんだよ。グローリアスは『強欲』、オブスキュラスは『暴食』、みたいにな」

「ふむ、なるほど…」


犀は、机の上に広げたノートに目を通しつつ、興味ありといった風で亜蘭の話を聞いている。


「七人それぞれの特性を表した、なかなか良い二つ名だろう?なにせ- 」

「いや、正直ダサい。というかカッコつけすぎだろ」

「…」


俺が考案したんだ、という言葉をすんでのところで呑みこみ、亜蘭は適当に見繕った本を抱えて、犀のいる机に戻る。


「…ま、まあ、『こちら』に来ているのも、恐らく半分位だと思うが」

「…その根拠は?」


怪訝な顔の犀に、亜蘭は自分の考えていることを伝える。


「輝や怪史郎の話だと、どうやら俺たち以外は『本来の姿』のままこちらへ転移してきたらしい。『憤怒』や『怠惰』がそのままの姿で『こちら』に来ていれば、とっくに大騒ぎになっているさ」

「…?ああ、ひょっとして『幻竜』と『魔像』のことか?」

「えっなにそれカッコいい」

「何、もなにも- 」


犀は、さも当然かのように返す。


「人間側で使われてた呼び名だよ、聞いたこと無かったか?ちなみに輝- いや、グローリアスは『歌姫』、オブスキュラスは『城喰らい』だったかな」

「…完敗だ…」

「あ?なにが?」

「いや、なんでもない…」


もっとネーミングセンスを磨こう、と亜蘭が心の中で誓っていると、


「亜蘭兄ちゃん、いるー?」


という声が廊下から聞こえてきた。

亜蘭はその声に耳をすます。


「…瑞希か?どうしたんだろ」


と、


「どうしたの、瑞希くん?」


瑞希とは別の少年の声が聞こえてくる。


「わっ!か、怪史郎くん、いつのまに…」

「僕の部屋はすぐそこだからね。それで、瑞希くんは?」

「あ、ううん、また亜蘭兄ちゃんとキャッチボールしようとおもって、兄ちゃんを探してたんだけど…」

「ふぅん、そっか…」


そこで少し声が途切れ、


「それじゃ、僕とやろう、キャッチボール!」

「え、怪史郎くんと?」

「うん。亜蘭さんたちは今テスト勉強で忙しいみたいだし、僕も『キャッチボール』ってやったことないからさ」


瑞希は少し考えたのか、ちょっと間を空けてから、


「…うん、いいよ!」

「よーし、それじゃ行こう!グローブは亜蘭さんのを借りればいいかな?」

「後で言えば良いと思うよ?」


そうして、楽しげな二人の声は、図書室から遠ざかっていった。

一部始終を聞いていた亜蘭と犀は、顔を見合わせる。


「…気ぃ使わせちゃったかな?」

「みたいだな。それにしても- 」


そこで、犀は一旦言葉を切る。

そして、


「怪史郎って、あんなに明るく喋るやつだったか?」

「…さあな」


亜蘭がとぼけたことには気づかず、犀は続ける。


「なにか良いことでもあったかな?それか、なにかしら吹っ切れたか」

「…その両方じゃないか?」

「…やっぱりお前なにか知ってるだろ」

「なんのことだか」


亜蘭は空とぼけつつ、教科書を開く。


「さ、せっかく怪史郎が配慮してくれたんだ、ちゃんと勉強しないとな」

「まあ、そうだな」


そうして、二人は黙々とテスト勉強にいそしむのであった…

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