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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第1章 魔王と勇者、学校へ行く
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第八話

「魔王様、朝です。お起きになってください」


土曜日の朝。布団の中に潜っていた亜蘭は、グローリアスにたたき起こされた。


「うう、あと五分だけ…」

「だめです。だいたい、勇者殿もオブスキュラスも、もうとっくにおきています。まだ寝ているのなんて、魔王様と瑞希くらいですよ?」

「じゃあ、瑞希が起きたら起きるからさ~」

「審議拒否、です」


そう言うと、グローリアスは亜蘭の抱え込んだ布団を剥ぎ取り、無理矢理体を起こさせる。


「第一、魔王様と違って瑞希は今日学校が休みなんですよ?桃ちゃんなんか、学校があるわけでもないのに魔王様より早く起きてるんです。少しは見習って下さい」

「お前、ここに来てから、俺にたいしてより一層遠慮が無くなったよな…」

「ええ。そもそも、出来る限り対等に接しろと仰ったのは貴方様でしょう?」

「うう…」


観念した亜蘭は、渋々ベッドから降り、部屋を出て食堂へ向かう。その後を、グローリアスもついていった。


「…べつに、自分の準備ができてるなら俺についてこなくてもいいんだぞ?」

「いえ、私は仮にも魔王様の側近、お側にいる以上はお世話をさせていただかねば」

「そう言って、実のところ、美和子さんを待ってるだけだったりしてな」


亜蘭は、からかうような口調で輝にそう言った。

実際、グローリアスとオブスキュラスがサウスパーク・ホームに滞在することになってから一週間はたっているが、グローリアスが美和子をおいて、もしくは美和子より遅れて学校に行ったことは、一回もなかった。

グローリアスはやはり図星を突かれたのか、顔を赤くして押し黙る。


「お前、美和子さんのどのあたりがそんなに気に入ってるんだ?」

「どのあたり、ですか?」

「うん」


その問いにグローリアスは少し考えるような風だったが、そう時間を開けず答える。


「…ふわっと、見てる側が暖かくなるような笑顔、ですかね」

「は、はぁ」

「この前のあれは、まるで太陽のようでした、えへへ…」


一週間前に、美和子と二人きりになったときのことを思い出しているのか、グローリアスは恍惚とした表情だった。

…まあ、だから、後ろから誰が来ようが、気づかないのも無理からぬことだったろう。


「そこまで誉めてもらっちゃうと、私の方が恥ずかしいなぁ」

「っ!?み、美和子、いつからそこに!」

「んー、ぴかちゃんが亜蘭くんに、私のどこが好きなのか聞いてた辺りから?」


どうやら、グローリアスの言ったことはほぼすべて聞かれていたらしい。グローリアスの顔は、羞恥心からか燃え出しそうなほど真っ赤だった。

グローリアスは美和子に何か言おうとしているようだったが、気が動転しすぎていて、口は動いても声が出ないようだった。


「あ、あう、あぁ…!」

「そんじゃ、私はぴかちゃんともっともっと親睦を深めて来るとするよ。いってきまーす」


そう言って、美和子はグローリアスの手首を掴み、引きずるようにして学校へと行った。

娘に公認の彼氏が出来たような微笑ましい気持ちで二人を見送った亜蘭は、ふと思い出す。


「あれ?美和子さんが出てったってことは…」


亜蘭が食堂に入り、時計を確認すると、


「げっ!あと五分で出なくちゃいけないのかよ!?さ、犀のやつは…!」


亜蘭は食堂を見回すが、どこにも犀の姿は無かった。



「すいません、遅れました!」


亜蘭が教室に飛び込むと、もうすでにホームルームが始まっていた。注意をする担任に平謝りし、座席につく。

と、机の中に一枚の紙片がはいっていた。

亜蘭が開いてみると、そこには見覚えのある字で、


『ざまあみろ ねぼすけ』


と書きなぐってあった。

亜蘭は、じろりと犀の座っている方を見る。

すると、ちょうど犀もこちらを見ていた。目線があった瞬間、すごく申し訳なさそうな顔をした犀がふいっと明後日の方向を向く。


「…後ろめたいなら、最初からやんなきゃいいのに」


と呟くと、亜蘭は担任の話を聞く体制に入った。

担任は、亜蘭が来たことによって中断していた話の続きを始めた。


「えー、とにかく、ここ最近連続してあった失踪事件は、犯人は見つからず、恐らくもう逃走したものと思われるため、とりあえずこのあたりでの警戒は解除されることになったから。そこを頭にいれておいてくれ」


それを聞き、亜蘭はほっとする。どうやら、怪史郎は順調に我慢を続けていられるらしかった。

例の事件があって以来、亜蘭が怪史郎に直接魔力を供給することで暴走を防いでいた。


「それと、来週はいよいよテストだから、しっかり勉強しておけよ。それじゃ、今日のホームルームはここまで」

「「「はーい」」」


ホームルームが終わると、亜蘭はすぐに犀の席へと向かった。


「ねぼすけで悪かったな」

「う…か、紙を回収しようと思ったけど、その前に先生が来ちゃったんだよ!いや、まあ、こういう卑怯なことをして、悪かったとは思うけどさ…」


犀は聞いてもいないことで逆ギレすると、今度はしゅんとして言い訳のようなものを呟く。


「ま、いつも遅くまで寝てるのは俺だしな」

「そ、そうだよ」

「せいぜい反省させてもらうよ」


それだけ言うと、亜蘭は自分の席に戻ってくる。と、


「鈴木くん鈴木くん!」


亜蘭の席の回りに、女子が三人ほど集まってきていた。

その内の一人が、亜蘭が戻ってきた途端に話しかけてきた。


「鈴木くんってさ、伊藤くんと仲いいよね」

「え?ああ、まあ」

「いつも一緒に登下校してるらしいじゃん」

「そうだけど?」

「そこで質問なんだけどさ…」


そこでその女子は声を少し落とすと、


「鈴木くんと伊藤くん、一緒に住んでるってほんと?」


と聞いてきた。

亜蘭が


「そうだけど、何か?」


と答えた瞬間、


「え、ウソ!」

「キャーッ!いい!すごくいい!」

「そっか、成る程ね…興味深い…」


三者三様ではあったが、どの反応も亜蘭には理解しがたいものであった。

そして、最初の一人だけでなく他の女子達も質問を始めた。


「毎朝伊藤くんに起こしてもらってるってほんと!?」

「あー、うん。ほんと」

「毎朝伊藤くんに朝ごはん作ってもらってるって言うのは…?」

「本当、だけど…その情報どっから来てるんだ?」


三人は、亜蘭の疑問には答えることなく、


「いやぁ、いい!すごくいい!」

「でも、霧島くんとも仲いいし…ひょっとして二股!?」

「どっちにしろ、尊いことにはかわりないでしょ」

「「だよねー!」」


と、延々盛り上がっていた。

そして、盛り上がりが一旦落ち着くと、思い出したかのように


「あ、私西城(にしき)っていうの、よろしく」

「あたしは来見(くるみ)、よろしくね!」

「…猪戸ししど、よろしく」

「あ、ああ」


そうして、よく分からないテンションの女子三人組は、亜蘭に


「ごちそうさま~」

「これからもよろしくね!」

「勉強になりました…」


などとまた三人それぞれ別のことを言いながら、自分達の席へと戻っていった。


「なんだったんだ、あの子達…?」


と、亜蘭が呟くと、


「お答えしましょう」

「うわぁ!ふ、富士実さん、いつの間に!?」


いつの間にか、真後ろに富士実が立っていた。


「あの子達はね、鈴木くん。うちのクラスでも有数の腐ってる(・・・・)子達で、貴方達が転入してきた時から貴方と伊藤くんのカップリングで色々と考えてわいわいしてたのよ」

「く、腐ってる?かっぷりんぐ?」

「…まあ、分からなくても問題ないわ。とにかく、収まりの良い組み合わせ、って言うのが一番近いのかしらね」

「は、はぁ…?」


説明を受けてもあまり理解できなかった亜蘭は、首をかしげる。


「でも、そんなことして何が楽しいんだ?目立つ犀はともかく、俺はいたって普通、もっと言ってしまえば地味だろうに」

「…鏡でも見てきたら?」

「え、鏡?顔に何かついてるか?」

「…もういいわ。そういうところも、彼女達の格好の的になる所以なんだろうし」


結局、要領をえない説明だけすると、富士実はさっさと自分の席に戻っていった。


「あいつはあいつで、なんだったんだ?」


亜蘭の疑問は深まるばかりであった。



亜蘭がホームに帰ると、亜蘭の机に、水晶玉が置いてあった。

亜蘭は、鞄をベッドの上に放ると、水晶玉をコンコンとノックする。


「なにか用か、怪史郎?」

「ん、ああ…申し訳ありません、寝ておりました…」


水晶玉から眠たげな声が上がったかと思うと、水晶玉はぐにゃりと流動し、猫の形へと変わる。


「…猫?」

「ああ、これは失礼…ついうっかり…」


そう言うと、猫- オブスキュラスは、またぐにゃりと形を変え、いつもの少年の姿になった。


「よし、これでいつものだな。それじゃ、用件を聞こうか?」

「はい、魔王様…日中の情報収集の結果をお耳に入れようと思った次第…」

「ん、そうか」


亜蘭はうなずくと、ベッドに腰掛け、話を聞く体制をとった。

暴走状態を解除するため、オブスキュラスにありったけの魔力をつぎ込んだことで、オブスキュラスの力は以前よりも遥かに増していた。

その為、オブスキュラスは、日中、自分の体の一部を鳥や虫などに擬態させ、情報収集を行っていた。

そのオブスキュラスは、まだどこか眠たげな様子で、亜蘭に報告する。


「残念ながら、この付近で、『あちら』由来の魔力を確認することは出来ませんできた…」

「ん、そうか、お疲れさん。となると、この近辺には、もう誰もいない可能性が高いのか。となると、もっと探索の範囲を広げてもらわなくっちゃな」

「お任せを、尽力させて頂きます…」

「…あんまり無理すんなよ?」

「いえ、お構い無く…」


そこまで言うと、オブスキュラスは大きくあくびをし、


「それではこれにて…」


と言うと、部屋を出ていった。

それを見届けると、亜蘭はベッドに寝転び、誰に言うともなく呟く。


「他のやつは、元気にしてるかな…」


これ以上『こちら』の人々に被害を与えないためにも、早く残りの側近達を見つけなければならない。それは、「魔王」たる自分の責務だ。


(怪史朗- オブスキュラスの一件でも、俺は魔王としての責任を果たせてない、んだよなぁ…。こんなんじゃ、他のやつらにも、顔向け出来ないなぁ…)


そんなことを考えながら、亜蘭の意識はゆっくりと微睡みの中に沈んでいった-

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