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無能な魔王と短気な勇者 ~宿敵二人組の異界奇譚~  作者: 籾と茅
第1章 魔王と勇者、学校へ行く
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第六話

サウスパーク・ホーム、亜蘭と犀の部屋にて。

グローリアスを椅子に座らせ、亜蘭と犀は事情を聴く体制を取った。


「それでは、こうなったいきさつを教えてもらおうか、グローリアス?」

「…御意に。まず、私たちが『こちら』に来た辺りから説明させていただきます」


グローリアスが、事の経緯を話し始めた。



魔王様と勇者殿の決戦の前に、私は勇者殿の一行に敗れ、意識を失っていました。その為、転移直前のことは残念ながら覚えていません。


『…う、ここ、は…?』


私が目を覚ますと、そこは既に見知らぬ廃墟の中でした。

回りを見渡し、そこが魔王城の中では無いこと、周りに勇者殿たちの気配が感じられないことから、そのときは、もう我が命尽きたものと半ば絶望していました。しかし、


『う…ぐう…むぅ…』

『っ!?な、何者だ!』


声のした方に顔を向けると、そこにはバラバラに散らばった、青黒い粘液の塊が落ちていました。


『お、お前、もしかしてオブスキュラスか!?』

『ん、その声…グローリアス、か…?』


見知った仲間と合流できたと分かり、その時私はかなり救われた気持ちになりました。


『すまない…私の体を、拾い集めてもらえないか…?』

『ああ、お安いご用だ』


散らばったスライム体を拾い集めて一箇所に積むと、みるみるうちにオブスキュラスは元通りの体に-


『…少し小さくなったか?』

『そうかもしれない…』


-まあとにかく、そこから私とオブスキュラスとで活動を始めたのです。

私は『声』の魔力を使って学校へ潜入し、オブスキュラスはさまざまな物に擬態して、それぞれが情報を集めていました。

食事は、選り好んでいる場合でもなかったので、近くにいた鳥や小動物を狩って食べていましたが…

今となっては、それがいけなかったのかも知れません。


ある時、私はオブスキュラスの様子がいつもと違うことに気づきました。


『腹がへっタ…肉ガ、ちが欲シイ…』

『ど、どうしたのだ、オブスキュラス?』

『チを…ヨコせぇぇぇえ!』

『何を、きゃっ!?』


…恐らく、『こちら』に来てからの食事では、量が足りないだけでなく、やつの体にも合わなかったのでしょう。

オブスキュラスは、その時には完全に暴走していました。


私は襲いかかってきたオブスキュラスを振り切って、何とかその場を離脱したのですが、私が廃墟に戻った時には、

もうそこにオブスキュラス(やつ)の姿は在りませんでした。



「以上が、オブスキュラスが暴走するまでの状況です」

「そうか…」


グローリアスの説明を聞き、亜蘭は落胆した。

結局、『あちら』でも『こちら』でも、『臣下の者を守る』という王としての責務を果たせていないではないか。


「もっと早く見つけてやれば良かったな。王として、不甲斐ないばかりだ」

「そ、そんな!顔をお上げください、魔王様!」


深く頭を下げた亜蘭に対して、グローリアスは慌ててそれをやめさせる。


「私が悪いのです…」


グローリアスがしゅんと肩を落とす。

それを見ていていたたまれなくなったのか、犀がグローリアスの肩に手を置く。


「まぁ、落ち着いt」

「私にさわらないでください。協力を仰ぐとは言いましたが、馴れ馴れしく接して良いとは一言も言っていません」


犀はそっと手を引いた。

亜蘭がそっぽを向いて全力で笑いをこらえているのを見て多少の反感を覚えないでもなかったが、場の雰囲気を少しは明るくできたのでよしとしよう、犀はそう思った。

笑い上戸の収まった亜蘭が口を開く。


「よし、とにかく状況は理解した。それじゃ、作戦を立てるとしようか」

「…!本当に協力していただけるんですか!?」

「もちろん。オブスキュラスは俺にとっても大切な仲間だからな、なんとしても救って見せるさ」


グローリアスは感極まったといった風で、


「おお、我らが王よ、感謝いたします!」


と言った。


「…それに、勇者殿も」


ついでのようにつけくわれられたが、犀も特に悪い気はしなかった。


「さて、オブスキュラスをどうやって正気に戻そうか-」


と、

耳をつんざくような音を立てて、部屋の窓から赤黒い塊が突っ込んできた。

その塊は、そこにいた三人に気づき、


「アァ、ウマソウダナァ…クイタイナァ…」


と、まるで舌なめずりでもするかのような歓喜の声をあげる。

対して、最も近くにいたグローリアスは、驚愕の色の現れた顔で、


「オブスキュラス、何故…!?」


と、それだけを絞り出すように言った。



「廊下に出ろ!」


と叫ぶ声で我にかえった二人を引きずり出すようにして、亜蘭は廊下へと転がり出る。


「ど、どうしてここが!?お二人は転移でここまで飛んだし、私は自分の翼で飛んできたから、後をつけてくるなんて不可能な筈なのに…!」

「余計なことを考えるな、グローリアス!!来るぞ、構えろ!」


言った瞬間、部屋の中から赤黒い触手が濁流となって三人に襲いかかってきた。

その濁流を、グローリアスと犀は右へ、亜蘭は左へと間一髪でかわす。 触手の束は、そのまま廊下の壁に突き刺さった。


「ハズシタ…デモ、モウニガサナイ…イヒッ」

「くっ、正気に戻れ、オブスキュラス!」


亜蘭は呼び掛けるが、暴走したオブスキュラスは聞く耳を持たなかった。そのまま、左右に別れたそれぞれへと、触手の束が別れて迫る。


「くぅっ、戻ってこい、オブスキュラス!」


言うが早いか、グローリアスは魔力のこもった『声』を衝撃波にして放つ。しかし、


「効いてない、だと…」


強力な衝撃波ものともせずに突き進んでくる触手を見て、グローリアスが絶望的な声を出す。

犀もまた素手で応戦を試みるも、一向に効いている様子はない。


そうしている間にも、触手は二人を飲み込まんと大きく広がっている。


「こ、これまでか…」


犀が苦々しげにそう呟いた瞬間、


「《アイシクル・ランス》!」


という声と共に、触手がガクンと揺らいだかと思うと、二人の方へ進んでくる動きが止まり、そのまま後退し始めた。


「え…?」

「…!ま、まさか!」


困惑するグローリアスと違って、長年の宿敵であった犀はすぐに、亜蘭が何をしたのかに気づき、触手の束の反対側へ行こうと駆け寄る。


「お前、自分から飲み込まれる気じゃ…!」

「ああ、そうだよ。よくわかったな」


既に、亜蘭の体の半分ほどは触手に飲み込まれていた。


「おい、ふざけんなよ!自分を犠牲にしようなんてそんな、」

「安心しろよ」


亜蘭は、犀に余裕そうな笑みを向けてくる。


「少し考えてることがあってな。ちょっくらオブスキュラス(あいつ)の中まで行って確かめてくる」

「な…」

「んじゃ、喰われてやりますか」


亜蘭がそう言うのと示し会わせたように、触手が亜蘭を完全に呑みこみ、部屋の中へと戻っていく。


「亜蘭っ!」

「魔王様ぁっ!」


犀とグローリアスの二人が部屋の前まで戻ってくると、オブスキュラスは最初に見た大きさの倍以上に膨らみ、ずるずる、メキメキ、といった音をたてていた。


「あ、ああ…」


その光景を目の当たりにしたグローリアスの目から光が失われ、そのまま床にくずおれる。

犀は、


「放せ、吐き出せよこの野郎!!」


と叫びながら、オブスキュラスの体を引きちぎり始める。しかし、どれだけ引きちぎろうとも、ちぎったそばから再生し、決して中身へと到達することは無かった。


「あ、らん…」


徒労だと気づいた犀の腕がだらりと下がる。そのまま、肉塊(オブスキュラス)にもたれかかるようにしてずるずると座り込んだ。


「なんで、くそっ、なんで…!」


意図せず、犀の目から涙が流れ落ちる。最悪の展開を覚悟した。


「なんでこんな、自己犠牲なんて、お前らしく…」


ゴボゴボゴボッ!!!


突如したその異音に、二人は弾かれたように顔を上げる。


「え…?」


犀が呆けたように肉塊を見つめていると、今度は異音と共に、目に見えるほどオブスキュラスが膨張した。それを何度か繰り返すうちに、塊はかなりの大きさとなる。


「こ、今度はなんだってんだよ!?」


犀は身の危険を感じ、部屋の外へ退避する。そして、限界まで膨張した肉塊は、見た目にそぐわぬパチン、という軽い音と共にはじけ、そこには-

亜蘭が、何か水晶玉のような物を片手に持ち、そこに立っていた。


「よし、作戦成功だな!」


得意気そうだった亜蘭は、しかし二人の方を見て怪訝な顔をする。


「お前ら、なんで泣いてるんだ?」

「う、うぅ、あぁぁ…」

「ぐっ、ふぐっ…」


魔王(亜蘭)が無事だった。それだけで、二人には十分だった。


「「うわぁぁぁぁあ!」」

「!?」


犀とグローリアスの二人は、号泣しながら同時に亜蘭に抱きついたのであった。



「魔力を注ぎ込んだだぁ?」


亜蘭の説明を一通り聞いて、犀は案の定意味がわからないといった顔をした。

亜蘭は、泣き止んだ犀とグローリアスの顔を一度ずつ交互に見ると、また話し始める。


「そう、オブスキュラスの核にありったけの魔力を叩き込んだ。『こちら』の性質が会わないなら、俺の持つ『あちら』産の魔力の方が口に会うかと思ってな」

「だからと言って…先に、もう少し説明しても良かったんじゃないですか?」


さしものグローリアスも、今回ばかりは不満そうだった。


「せめて呑みこまれる前に、一言くらい!」

「いやぁ、別に行けるかなっておもっ…」


二人の凍死しそうなほど冷たい視線を受けて、亜蘭はこれ以上墓穴を掘るのを止めた。代わりに、


「んで、調子はどうだ?」


と、机の上においてあった銀色の水晶玉のような物体に話しかける。残り二人もそちらに視線を向けると、


「いや、誠にお恥ずかしい…」


と、水晶玉---オブスキュラスが答えた。


「無理にこちらの食物を口にするべきでは有りませんでした。軽率な行動を取ったこと、ここに深くお詫び申し上g」

「分かった、わかったから!」


亜蘭は途中でオブスキュラスの謝罪を切り上げた。


「まあ、お前が正気に戻って良かったよ。これからも俺の下で働いてくれ、オブスキュラス」

「おお、見に余る光栄…!」

「さて、感動の再会を邪魔して悪いんだがな」


と、犀が割って入る。ガラスの散らばった部屋、そしてめちゃくちゃになった廊下の壁を一瞥し、聞いた。


「…この惨状、どう片付けるんだ?」

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