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9話 忍者は歓迎会を受ける

「里に住むんのでしたら歓迎会をしないといけないですね」

「おーー!」

「歓迎会か」


 俺がエルフの里に住むことになったその日、ディナが唐突にそんなことを言い出した。


「新しいエルフの仲間が生まれるたびちょっとしたお祭りをするんですよ」

「お祭り、私も知ってるよ!」

「カレナ様もお受けになられましたものね。これは忙しくなりますね」


 楽しそうにお洋服の腕を捲くるディナ。祭りか、あまり迷惑をかけてしまうのは申し訳ない気もするが有り難い話だ。

 それに俺はまだ他のエルフたちをちゃんと会ってないしな。


「ひとまず郵便屋さんにことをお伝えして皆に夜に広場に集合してもらいましょうか」


 そう言ってとてとてと家の外へ出ていくディナ。

 残されたのは俺とカレナ様の二人。

 さてさてどうしたものだろうか。


「私も準備しなきゃ」

「ならば俺も」

「ダメ! クロウはしゅひんさんだから、待ってるんだよ!」


 そう言ってカレナ様は可愛らしい手のひらで俺を制止した。

 軽く前に進むだけで打ち破れそうなやわやわのパーであったが、俺には無限障壁のような強き壁を感じられた。


「はい。分かりました」

「よろしい!」


 ようやく姫様っぽい言い方をしたかと思うと、カレナ様はスキップを踏んでこれまた家の外へと出ていった。

 残されたのは俺が一人。


「……不用心だな」


 おそらく用心するという必要がなかったのだろう。俺はなんとなくこの種族を守ってやらなければいつかとんでもない滅びが待っているんじゃないかと思えてきた。


「これまでどうやって生きてきたのだろう」


 不思議な生き物たちだ。

 1000年の時を生きると言っており、実際にその通りなのだろうが、彼らは一体どうしてここまで他種族の侵攻を許さず生存してこれたのだろう。

 外に出れば戦に強盗野盗に魔物の群れ、危険地帯はあちらこちらに広がっているというのに。


「うーん……分からん」


 ここに来るまでの結界が功を奏しているのだろうか?

 いやいや女冒険者がここに俺が来る前にきたと言っていた。とすれば、森の突破は難しけれど、絶対ではない。


「何か裏が……」


 ――と、思案してカレナの横顔が思い浮かぶ。

 それはないな。

 もし俺を殺そうとするのであれば、気絶した時点でいくらでもやれる。

 なんでもいい。

 もしエルフの里に危機が陥ることがあるのであれば。


「俺が守ればいいだけのことだ」


 単純《シンプル》な話だった。



 ☆



 待っていろと言われても暇なので、ひとまずお屋敷を探索することにした。

 カレナとディナ以外にこの家に人はおらず、部屋数はおおよそ5~6つ。

 木造りであるが堅牢であり暖かい。どういった仕組みか分からんが、隙間風が入り寒いといったことは一切なさそうだ。


 炊事場があり、食事を取る間があり、書庫もあった。

 本は見知らぬ言語で書かれたものが殆どであったが、暗号解読は忍者の基礎として学んでいるので、時間をかければ読めそうであった。

 歴史書から魔術に関する本、それに可愛らしいイラストで描かれた大判の本も混じっていた。


「これは……」


 言葉を解読すると、「おはなのおひめさまとおうじさま」と描かれた本っぽい体裁の整えられたノートだった。

 ペラペラとめくると、お花が大好きなお姫様が格好いい王子様と出会い、悪い敵をやっつけて、皆幸せに暮らしたという話であった。


「…………怒られそうだから戻しておこう」


 俺は敵の頭領の家に忍び込んだ時のように十分な隠蔽工作を行って書庫を去った。

 他に部屋は、寝室、客間とあった。寝室は2つに分かれており、ディナの部屋とカレナの部屋という位置づけのようであった。


「さすがにここへ入ったら怒られるだろう」


 俺はお城の殿様を暗殺した時と同じ慎重さで中を垣間見て、すぐさま戻った。


「まあ普通の部屋だ」


 カレナ様の部屋は可愛らしい調度品で並べられて、ディナの部屋はもう少し落ち着いた雰囲気の部屋となっていた。


「…………まだ暇だな」


 一通り時間を潰したが、二人は帰ってくる様子はなかった。

 仕方ないので、ディナに洗濯する際に横にどけられた武器の回収でもすることにした。

 カレナ様がうっかりさわって大爆発でもしたらどうしようもない。

 爆弾は分解して、ただの火薬に戻す。

 手裏剣も不要分は、崩して鉄くずに戻す。

 吹き矢なども、毒矢を抜いてただの筒にする。


「そうだなどうせなら……」


 俺はちょっと時間を潰しながら考えていた。

 エルフの里の者たちに受け入れてもらうにはどうしたら良いか。

 ディナとカレナは俺を受け入れてくれたが、他のエルフたちがどうだかは分からない。

 もしかしたら、俺を人間として、異物として嫌がるかもしれない。


 ……いやあの二人を見るからにそんな反応をする一族には思えないが、それでもちょっと困った感じにはなるかもしれない。

 よく分からないものが自分のテリトリーにいたときの、なんともいえないウズウズした感触。

 早めに取り払うには、何かしら演出が必要かもしれない。


「……よし」


 俺は一人工作に取りかかることにした。



 ☆


「皆、集まってー!」

「さあさあ皆さん、こちらですよー」


 夕陽も沈みかけた藍色の空が世界を彩りはじめた時刻に、

 金色の髪の少女たちが、里の広場にいっぱい集まりはじめた。


「ついたよー」「今日はなんなの」「新しいエルフじゃないよね」「人間さん……だって」「ねーお茶とお菓子は?」「こらナル、もう食べるなっ」「えーいいじゃんボクもうお腹ぺこぺこ」「ナル私の食べていいよ」「カレナてんしょんたかい?」「一理ありますね」「……」「エルフィルどうしたの?もう眠い?」「わーいネルラル大好きっ」「うん私も好き……」「あ、人間さん見えるよこっからなら」「アンダは背が高いから……」「うまー」


 めっちゃいた。

 正直に言って、この世の楽園かと思えるような光景だった。

 何十人もの主様にうり二つの少女たちが、わちゃわちゃと、楽しげに談笑してささやかな食事に舌鼓をうっていた。

 広場はおそらくカレナが集めてきたのだろう。綺麗な花で彩られていた。


「皆、静かにー」

「お静かにですよー!」


 カレナとディナの呼びかけに反応して、波紋がゆっくりと静まるようにエルフたちはささやき声を出しながらもこちらを見た。

 うん、礼儀正しい子たちだ。


 俺はゆっくりと前に立つ。


「人間だ」「人間さんだ」「見たことない」「私見たよおっきくて美人だった」「ボクも見た。お菓子くれた」「ほんと?」「甘いの」「いいなー」「……」「眠い?エルフィル?」「でもちょっと不思議」「つよそう」「そうですね」「ほらこれが残りのお菓子」


 エルフたちがお菓子に視線を集めた。

 ……いやできればこっちを見て欲しいんだが。

 俺はこんな大勢の前で何かを喋るような人間ではないのだが。

 というか、影に生きて影に忍ぶものなのだが……。


「――――クロミヤ・クロウだ。この度は我が主様の生まれ変わりを見届けるため、このエルフの里に住まわせていただくこととなった。幸い身体は丈夫であり、腕は立つ。力仕事でも何でも頼んでくれれば良い。それと――」


 と、俺はいくつか道具を手にした。

 それは吹き矢の筒を分解して、中に金属片と火薬を混ぜたものであった。


「俺の国には魔法はないが、代わりに奇妙な術と独自に培った文化がある。それをご覧いただこうかと思う」


 そう言って、俺は素早く術を唱える。

 観客のエルフたちは神妙な顔つきで俺の様子を見つめる。

 隣りにいるディナは手を握って、さらにその隣のカレナは目をキラキラしている。


「我は望む八百万のうち弾けし炎を操りし神よ、その焔の一端を戴かんことを」

「素早く放ち」

「美しく彩れ」


 俺は筒を燃焼させる。

 弾ける火薬は絞られて弾け、金属を燃やし鮮やかな炎を生み出す。



「――――"打上花火"ッッ!」



 ひゅ~~~~~~~~~~、パァッン!



 天高く藍色の空に見事な花の炎が舞い上がった。


「……」「……」「……」「……」


 …………ど、どうだ?

 俺は滑ったかと心配して少女たちを見る。

 彼女たちはポカンとした顔で空を見上げて、それから……。


「すっごこぉぉぉぉぉぉぉぉおおいッッ!」「すごいすごいすごい!」「わーでっかいね」「どうやったの?」「魔法だ!」「魔法じゃないってよね」「魔法じゃない!」「すっげー」「な、ナルっ、紅茶が紅茶が」「……ぱちり」「エルフィルが起きた!?」「でっかいなー私の100倍くらいでっかい……」「なるほど金属を燃やして色を」「わー」


「大成功ですねクロウさんっ!」


 と、少女たちの反応に合わせて、ディナがそんな風に俺の手を握ってくれる。

 おそらく彼女も里の皆が俺を受け入れてくれるか心配だったのだろう。

 だが、それは杞憂だった。

 彼女は自分のことのように優しげに喜んでくれているのだった。


「…………わぁ」


 そして、もっと喜んでくれている少女が一人。

 俺が最初に出会ったお姫様。主に次いで守ろうと決めたこの里の主様。


「空にもお花は咲くんだね」


 カレナはそう言って藍色の空をいつまでも見つめ続けていた。

普通にお仕事忙しくて手が回ってなかったです。

次回、普通に生活スタートか、あるいは一段落したのでお風呂回でもやります。

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