6話 忍者はエルフの里のお話を聞く
カレナ様とディネの話を聞くうちに、このエルフの里のことがいくつか分かってきた。
まず名前はアルフヘイムと呼ばれている土地だということ。
彼女たちはここで静かに暮らしており、少量の植物や果実を採取することで生きていると。
エルフとは何か。
彼女たちは本当に1000年を生きる種族であり、生まれてから10~15年ほどで成長が止まり、そのまま1000年の時を生きるということ。
生殖の概念はなく、エルフは皆10代前半の少女の姿をしているとのこと。
故にディネは年齢の話になると恥ずかしそうに、
「やめておきましょう、クロウさん。言って楽しいものじゃないですよ」
と顔を赤らめていた。
エルフの里:アルフレイムに暮らすエルフは全部で50人ほど。
生殖の概念がないため、親子関係という概念も意識が希薄とのこと。
ただし、同時期に生まれることになったエルフ同士は、姉妹としての絆を芽生えさせて、一緒に住んでいるケースもいくつかあるそうだ。
「なるほどクロウさんの仕えていたご主人様がエルフであったと」
「そんなことあるのディネ?」
「ありえなくはない……ですね。何かしらの事情でエルフの里を出た例は過去にいくつかありますから。なにぶん私どもは長命ですから、記録に残っているといいんですけど……」
ディネはそう言って倉庫から古い文献を取り出してくれたが、そこで俺は大事なことに気がついた。
「そもそも主の名前を知らないな俺は……」
「あら」
「えーーそんなことあるの?」
「すまない。そうだな容姿はカレナ様に似ているのだが……過去の記録とあれば、記述されるのはよくて名前だよな……」
「私に似てるの?」
と、カレナ様はきょとんとした顔をした。
ちなみに彼女のこともいくつか話をうかがったが、どうやらカレナ様は、実際に"様"と形容して呼ぶようなお偉い方だそうだ。
このアルフヘイムのお姫様。
エルフの里に大きな序列は存在しないのだが、昔からの名残でカレナ様の生まれ変わりに当たる人は、この国のお姫様をつとめることになるそうだ。
そしてディネの一族はカレナ様に仕える身の上だと。
ただし厳格な主従関係があるというよりも、傍から見た限りでは友達同士で戯れて遊んでいるようなものであった。
長命であり、個体数が増減しないため、食糧や土地の分配をめぐっての争いが発生せず、結果的に絶対的な権力を伴う王政が敷かれることもなければ、王政に伴う我が国のような封建制度が成立することもなかったのだろう。
それは平穏で平和で良き世界だと俺は思う。
「カレナ様に似ているですか……ただ、私たちエルフの容姿は皆似ていますからね、特にクロウさんの目から見ると」
「……それは、否定できないな」
カレナ様とディネを見比べると、どちらも金髪で白肌で耳や伸びてて、クリスタルを額に輝かせている。
カレナ様の方が表情が豊かで無邪気な感じ。
ディネは落ち着いていて、メイドというよりも、彼女の年の近いお姉さんって感じだ。
だが、確かに細かい違いを自信をもって見分けるには、もう少し時間が必要となるだろう。
「ですがご安心ください。お亡くなりになられているということは、やがてまたこのアルフレイムに新たなエルフとして誕生するということ。今のところ、ここ最近で新しいエルフが生まれたというニュースは聞いてませんので、クロウさんの主様もここにやってくることになるかと思いますよ」
「よかったねクロウ!」
そう言ってカレナ様は自分のことのように喜んで、紅茶を一気に啜った。
ぷはーっと、息を吐いて、集中力が切れたのかディネの肩に猫のように頭をあずけてくる。
金色の髪がさらさらとディネの肩にかかり、見てるだけで微笑ましい気分になってくる。
「ありがとうございます。主が亡くなったのはもう一年昔のこと。差し付けなければ、エルフの方というのは、だいたいどれほどの年月で生まれ変わるものだろうか?」
「それほど長くはないですよ。だいたい3年から5年ってところですね」
「さっ……」
と、俺は思わず紅茶を吹き出しそうになってしまった。
そ、それは短いのだろうか? いや普通に魂が生まれ変わるのだとしたら、確かに短いといえるだろうか。
「ちょうど私もおっきくなれるね」
「そうですね。カレナ様は生まれて今年で10年ですからね」
そう言ってディネは頬を寄せてくるカレナ様の頭を優しく撫でる。
じゅ、10年。そうか、カレナ様は生まれてまだ本当に10歳なのか。
「さ、3年から5年か……確かに人の身でも待てる年月ではありますが、長いですね」
「あ、ああ! すみません、私っては失礼なことを! そうですよね。人間さんの寿命は60年とか……ちなみにクロウさんはおいくつで?」
もし寿命が近かったらと、あわあわしだすディナ。
そうか、そりゃそうだよな、自分より寿命が短い種族に、軽々しく長大な時間を言ってしまったのではと焦るよな。しかもそうか、彼女たちは年を取らないから俺が何歳なのかの過多も判断がつかないのか。
「……安心してください。私はまだ齢で言うと20歳を迎えたばかりですから。3年だろうと、5年だろうと死ぬことはないですよ」
「あ、ああ……よかった。クロウさんが死ななくて」
「クロウって私と10年しか違わないんだね! 一緒一緒」
と、カレナ様は嬉しそうにディナのもとを離れて俺に抱きついてきた。
彼女は今、ねぐりじぇ、とでも呼ばれているのだろうか、ピンク色の部屋着に着替えており、その柔らかさと暖かさが直にきて。甘い香りが全身を覆い込んで。
「あ、あわわわわわわ……」
「どうしたのクロウ! 大丈夫!?」
近づかれる白い肌。ま、待って、主にもされたことないこんなこと。
ぷにぷにと形容すれば良いのだろうか、上質な絹のようなカレナ様の肌が俺の手に足に当たって、あた、あ、胸が、あた。
「あたたたたたたたたたた……」
「く、クロウさん!?」
「クロウ!? クローーー―ウ!!」
クロミヤクロウ20歳。
姉御の身体に刻まれた神経毒よりも、百倍濃密で強烈な一撃に俺は、――――失神した。