転校生
――――1時間前。
「ねぇねぇ、フィーナちゃんっ!今日、このクラスに転校生が来るって本当なのっ!?」
学園に登校してまだそこまで時間も経っていない朝だが、この元気な友人はいつもの通り明るい様子で、全く疲れというものを感じさせない。
この明るさにたまに助けられたりもするが、その元気はどこから来ているのかと毎日不思議に思うくらいだ。
そしてどこからその情報を手に入れたのかは定かではないが、彼女の言う通り、今日この1-Aのクラスに突如として転校生が来ることになったのだ。
フィーナは前日にすでに学園長である母にこのことを聞かされたうえで、その転校生の案内役を頼まれたのだ。
しかし、その話の中では転校生のことについての詳しい情報は語らなかったためにフィーナ自身も案内をする人がどんな人物なのか、ましてや結構大事な点である性別ですら謎なのである。
「ええ、そうみたいね。この時期に来るなんて一体どんな人なんでしょうね」
「やっぱり、フィーナちゃんも気になるよね!男の子かなぁ?もしそうだったら優しそうな人がいいなっ。」
「どうかしらね、この学園は女子生徒が多いから女子の確率のほうがなんとなく高そうだけど」
「もぉ、夢がないなー。でも女の子だったら早く仲良くなりたいなっ」
現在この1-Aには男子が6人、女子が18人の計24人の生徒が共に学園生活を送っている。
一見して男女の交流は少ないように思えるが、授業の関係もあり結構男女での協力が必要となる場面もあったためさすがに入学して3か月ともなると、もうほとんど入学当時にあった隔たりはなくなりつつあった。
「ふっ、そうね。でも私はお母様からその転校生の学園案内役をするように言われてるから、一足先にその子と会うことになるわね」
「ええぇっ、いいなー。私も一緒に行きたいなー」
「さすがに、二人もいるといろいろややこしくなりそうだからそこは我慢して?」
「うぅー。……もしかしてフィーナちゃん、もし男の子だった時のことを仮定して2人のほうが距離を縮められるから、とか思ってたりしない?」
「そ、そんなことこれっぽっちも考えてないわよ!ふ、普通に考えてもガイドさんっていうのは1人でしょ、って思っただけよっ」
「えへへ、フィーナちゃん顔が赤くなってるよっ。やっぱり反応が可愛いなー、フィーナちゃんはっ」
元気なところはいいのだが、たまにこのように冗談を言って、その反応を見て喜ぶようなところがあるのが玉に瑕である。
彼女とは入学式当日のクラスでの席が前後ろの関係だったところ、彼女から話しかけてきてくれたことから仲良くなった間柄で今では基本的に一緒に行動をする仲である。
「もうっ、またそうやってからかうんだから。でも安心して、たとえ女子だろうと男子だろうと等しく接するから」
「うんうん。やっぱりそういうところがフィーナちゃんらしいねっ」
クラス内を見渡してみると、ある程度この転校生が来るという話は広まっているらしく所々でそのような内容の会話が聞こえてくる。
いつも思うのだが学園に一人は情報屋らしき人物でもいるのだろうか。
「あっ!そうだっ。フィーナちゃん、その子を案内し終わったらそのままこの教室にも来るんだよね?」
「え?ええ、そのつもりだけど……」
「それじゃあ、一通り終わったらあとでその子を紹介してほしいんだけど……いいかな?」
「私は別にいいんだけど……男子だったとしても?」
「うんっ!早いうちに仲良くなっておきたいからねっ」
「私、あなたのその性格やっぱり凄いと思うわ。いい意味でね」
そんなこんなで転校生話に花を咲かせていると、母に言われた時間にもう少しでなりそうな時刻になっていた。
学園を案内する、ということもあってフィーナは1限目の授業の終わり辺りにクラスに戻ってくる予定だったので自動的に1限目の魔法力学の授業は欠課をすることになっていた。
しかし、フィーナは学年内でも学力及び戦闘技術は上位なので1限ほどの欠課ならば特に大きな問題はない。
「それじゃあ、私はそろそろ行くわね。1限目頑張ってねっ」
「うぅ……私、魔法力学はあんまり得意じゃないから頑張れないよー」
弱気になり落ち込む友人の姿を見て微笑みながら、フィーナは学園長室前に向かった。