ありきたりな第一遭遇者
「……どう?なかなか面白そうな子じゃないかしらっ」
「確かにそう言われればそうとも言えますが。果たしてどこまでの力の持ち主であるのか、ですな」
「そうね。でもこの調査書によると魔法適性値の欄に『測定不能』と書いてあるのよ?」
歓迎を終えたその女性の手元には恋斗の履歴書らしきものがあった。
そしてそこには彼女が今までに見たことのない表示があったのだ。
『測定不能』、これが意味するのは値が低すぎるか高すぎるかのどちらかであるはず。
だとするならば、一方に賭けてみる価値はある。
何よりも魔法の熟練者である彼女には後者の可能性が高い気がした。
「ふふっ、面白くなりそうだわっ」
そう言うと彼女は手元からその資料を離し学園長としての職務へと戻った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
部屋を出た恋斗はとりあえずのところの今後について考えていた。
ハーレムが作れるかもしれない、その言葉で頭の中がいっぱいだった。
男ならば少しは想像したことがあるであろう、多くの女性に囲まれて幸せに過ごすこと。
今まででは二次元にしかあり得ないことだと思っていた。
恋斗は少しばかり二次元オタクな部分があるため、尚更胸が躍った。
「しっかし、これからどうしたものか…。さっきの会話の中で聞いておけばよかったなぁ」
先ほどは思わず部屋を退出してしまったために、学園生活を送るうえで必要な情報を一切聞いていなかったのだ。
クラスも分からず、この学園の地理も分からない。
「出てすぐ質問をしに行くのもあれだしな……」
学園長室の向かい側にある窓を眺める。
この上ないほどの快晴だ。
こういうときに大雨とかだと幸先が悪い。
今頃は生徒は授業を受けている時間ぐらいだろうか、辺りに人の喋り声はしなく静寂に包まれている。
しかし、その静寂は不意に崩された。
「ちょっとあんた、なに早速たそがれてるのよ。もうちょっとしっかりしたらどうなのっ?」
「へっ……?」
いきなり誰かに注意された。
しかもその内容が何とも厳しい。
驚いてすぐにその声のする方向へと視線をずらす。
そこには一人の女子生徒らしき人物がこちらを向いて立っていた。
年齢はおそらく、というかほぼ同じであろう彼女は見る者を魅了するかのような紅赤色の髪を腰辺りまで伸ばし、頭の斜め上あたりの位置で片方のみ結んでいて、こちらを見るその目も髪同様に澄んだ赤色をしている。
身長は160センチくらいで制服を着ていても分かるほどのすらりとした体型、そしてその体に丁度良い大きさの胸。
顔も整っていて俗に言う美少女、に当てはまるような容貌だった。
「ちょっと、何じろじろと私のこと見てるのよっ!この変態っ!」
「えっ、いやいやいやいや違うって!確かに見てはいたけど別にいやらしい目で見ていたわけじゃないから!」
「ふんっ、口だけなら何とでも言えるわ。……はあ、せっかくあんたを案内するために来てあげたっていうのに。男ってみんなこうなのかしら」
「えっ、俺のために!?」
「ち、違うわよっ!お母様に言われたから来てあげたのっ!べ……別にあんたのためなんかじゃないわよ!」
まさか自分にこんなに王道のツンデレ発言が浴びせられるとは思ってもみなかった。
幾度なくギャルゲーの主人公たちが言われ続けてきたあのお決まりのセリフが。
恋斗も一度は言われてみたいと思っていたからか、少し嬉しい気分になった。
リアルタイムで指摘されたが、我ながら変態だなと思った。
「わ、分かったからちょっと落ち着いて!ここでもめてても何にも生まれないからっ」
「ふんっ、べ、別に慌ててなんかないわ。ふぅ、でもあなたの言う通りね。ここで無駄な時間を使うよりかは、すぐに学園の案内をしたほうがよさそうね」
ふぅ、と言っているあたり絶対に慌てていたと思うが、それを追求するとまた何かしら面倒なことになりかねないのでここは流す。
それにしても、感情の切り替えが早かったところからして、おそらくしっかり者な性格なのだろうと思えた。
しかし、ここへ来て早々にツンデレ属性と遭遇するとは。
これは何か良い予感がする。
「よし、それじゃあ行くわよ。ついてきなさい」
「あっ、ちょっと待ってってば」
とりあえずのところとして、まずはこの案内する気のなさそうなガイドさんについていくことになった恋斗だった。