目標は……学園ハーレム!
執事の後を追っていくと、辺りからは人気がだんだんと少なくなってきていた。
先ほどまでは目に映る風景も色鮮やかで、人々が奏でる様々な音もしていたからか少しばかり不気味な気がした。
やはり噂通り、特別な空間とやらにあるためなかなか人目に付きそうな場所はわざわざ選ばないのだろう。
そうして数十分ほど歩くと、前を行く老紳士の足が止まった。
「さて、到着いたしました」
そう言われて辺りを見渡すが、それらしい場所は見当たらない。
「何もないですけど……」
「ええ、特別何かあるわけではございません。されど、もう少しばかり時が経てばすぐに目的地へ到着いたします」
「はあ、そうですか」
いったいこの人は何を言っているのだろうか。
時が経てば着く。
現に今立ち止まっているのにどう着くというのだろうか。
すると、その執事は何やら最新型の通信機のようなものを目の前に展開した。
最近のVRMMOゲームに見られるようなコマンド的なものやらが規則的な配列の元に並んでいる。
見た限りおそらく触れても実感のないであろう投射映像のようだ。
そして少し操作をすると執事の目の前に今度は部屋らしき景色と、その中央に人影が見えた。
「到着いたしました。そちらは準備のほうはできましたでしょうか」
「ええ、大丈夫よ。そっちの準備が整ったら言ってちょうだい」
「了解いたしました」
その画面から聞こえてきたのは女性の声だった。
声質的にはおそらく大人の声だ。
先ほど執事の話していた真の送り主とやらだろう。
こちらの準備とは何だろうか。
「恋斗殿、ただいまより学園のほうへと向かいます。聞いて驚きになられるかと思いますが、ここから魔法による転移を行います」
「て、転移って簡単に言いますけど、現実的に考えたら僕たち死にますよ!?」
「ご安心を。あの方の腕にかかれば不可能ではないのです」
「いや、そう言われても……。そういう問題じゃないと思うんですが」
「私めをお信じになって下さいませ」
「……分かりました。ここで止まっていても何にも始まらないですし。……お願いします」
すると、こちらの意思が決まるのを見計らったかのように先ほどの女性の声が再び耳をかすめた。
「そろそろ決まったころかしら。じゃあ始めるわよ」
なにやら呪文らしき言葉を唱えているような声が聞こえる。
本当に転移など可能なのか。
そういうのはアニメとかゲームの中でしかあり得ないのではないのか。
もしも失敗なんかした時にはどうなるだろうか。
高校一年生で死亡、最悪だ。
まだやりたいことがたくさんあったというのに。
こういう時は目をつむっておいたほうのがいい気がした。
目をつむって、開けたら夢でした、とかいう夢落ちはないだろうか。
しかしその恋斗の不安は一つとして現実になることはなかったことに気づいた。
「もう目を開けてもいいのよ。あなたは生きてるわよ」
女性の声だ。しかも聞き覚えがある。恋斗は言われるままに目を開けた。すると目に映ったのは先ほどまでいたはずの人気のない場所とは大きく変わった、どこかの部屋の中だった。
「初めまして。私があなたを転校することにさせてもらった張本人よ、古宮恋斗君。どうだったかしら、さっきの転移魔法は」
「ええと、あんまり情報が呑み込めないんですが、あまりいい気分ではなかったです」
「ふふっ、見た感じ確かにそのようね。さて、落ち着いたところで本題に入らせてもらうわ。いいわね?」
「はあ、構いませんが」
正直何が何だかあまり分かっていなかったが、とりあえず今は話を聞いておいたほうが良さそうだ。
「まず、さっきも言ったと思うけど、あなたをこの学園に招待したのはこの私よ。理由は単純。あなたに魔法を扱う才能があるからよ」
「確かに魔法は使えるようにはなりましたけど、才能があるってほどじゃないと思います」
「今は、ね。あなたにはその力が眠っているわ。私が言うんだから間違いはないはずよ。それであなたに是非この学園で魔法、そしてそのついでに剣術について学んでほしいのよ」
「そう言ってもらえると嬉しいんですけど、魔法はともかく剣術があるとは聞いていなかったもので少し不安なんですが」
剣術とは初耳だった。
恋斗は今まで武道のようなことをしたこともなければ剣ともなるとなおさら実際に見たことすらないほどだ。
ここは命に危険が及ぶ場所ではないのだろうか。
「その点については大丈夫よ。あなただけでなく、この学園にいる生徒はみんな初めはそんなようなことを言っていたわ。でもあなたたちが使うのはそれぞれに合った魔力の通った武器よ。人を傷つけないようにしっかり魔法で加工してあるから安心して」
「まあ、そこまで言うのなら信じますけど……」
魔法とは本当に便利なものだ。
人を傷つけなくさせる、そんなことが出来るなんて。
これで世界は平和になるな。
うん、いいことだ。
「そ・れ・に、あなたにとっては嬉しいことだと思うから言っておくけど、この学園は女子生徒の割合が高いからもしかするとハーレムが作れるかもしれないわよ」
「ほ、本当ですか!?い、いやいやいやいやいや。でもそれはかっこいい人だからこそ出来るからであるからして……」
「あらそう?あなた中々見どころがあると思うのだけれど。それに女の子の心は見た目だけとは限らないわよ?」
「うーん……分かりました!その少しの希望にかけてみます」
学園ハーレムが作れる、そんな話二次元にしか存在しないと思っていた。
もしかしたら……そう考えるとさっきまでの不安は消え、希望が湧いてくる気がした。
「つまり、入学してもいいってわけね。古宮恋斗君、あなたの入学、心から歓迎するわ。どうかこの学園で充実した学園生活を送ってちょうだい」
「はいっ、頑張って充実させます!」
「ふふっ、なかなか面白い子ね。……そういえば自己紹介がまだだったわ。私の名はルクシィ・エルリュード、この学園の学園長であり創設者よ。困ったことがあったら気軽にここへ来てくれて構わないわ」
「学園長さんだったんですか!?……ということは、学園長から直々に招待があったとなると頑張らないといけないですね」
「そんなに気負わなくてもいいのよ。でも、期待してるわ」
「はい、それでは失礼させていただきます」
少しばかり長く非現実的な会話の後、恋斗は大きな野望を抱いてその部屋をあとにした。