裏口
ビルの屋上、ナオキは追いつめられた
フェンスの向こうはいよいよ広がる空だけだ
この捕物帳をライブ中継すべく報道ヘリも旋回する
「いい男に撮ってくれよ」
さぁどうするナオキ、飛び降りたっていいんだぜ?
だけどお前にはとっておきがあるんだろ!?
「放送禁止にしてやるぜ!!」
ナオキは自らのズボンをパンツごと素早くずり下ろすと、
タマキンの裏に隠していた閃光弾を取り出し、激しく地表に叩きつけた
「輝けッ!ゴールデン!」
カッーーーーーーー!!
一面に閃光がほとばしり、誰もが目を覆った
取り囲んだ警官達が目を開けたとき、ナオキの姿は消えていた
・・・数日後
「君みたいな、ゆとり世代が一番使いづらいんだよねえ、
どうせすぐ辞めるんでしょ?」
「君を雇って当社にどんなメリットがありますか?」
「私には秀でた才能があるわけでもなく、
御社ににどんなメリットを与えられるのか具体的に今申し上げることはできません
しかし自分の長所はコツコツ努力できるところ、やると決めたら諦めず、
苦手なことにも常に挑戦し続けられることです
学生時代は・・」
ドアが蹴破られ、警棒のようなものを持った男が乱入してきた
面接官を片っ端から殴りつけ、血祭りにあげていく
「だったら全員縁故だとか紹介で採用すりゃいいじゃねえか!
わざわざ部外者を採用するのは伸び代のある元気な会社アピールで
株主や債権者を騙くらかしたり、
差別のない開かれた会社アピールのためだろうが!」
「ど・・どうしてもこの会社!という人財をとりたいだけだ!!」
「何言ってやがる、だったら適性はどうでもいいんだから
中卒にも門を開け!てめえはコネのくせに!」
ナオキは尚も激昂する
「シューカツなめてんのか!?どうしてもこの会社!
ここ一社しか受けない、
そんな狂ったシューカツ生だったら必ず採用すんのかよ!?」
「我々は・・会社に言われて、会社の方針で・・」
「会社に死ねって言われたら死ぬのかい!?
現実にやってるのはオマエらだろ!このロボット人間ども!
会社って誰だよ!?連れて来い!
『会社』なんて言う人がいるのか、ここへ連れて来い!!」
とどめの一撃を加えた
「キヨハラに謝れ!!」
ナオキはマサアキを解放した
「バカじゃないのか!
オレは本当にあの会社に入りたかったんだ!
余計なことしやがって!!
あれくらい我慢するなんて当たり前じゃないか!
みんなわかってるプロレスなんだ、
キレた時点で負けなんだ、自分がいかに使える人間なのか、
論理的に説明すればいいだけだ
想定問答集もしっかりこなしてきた!
そこまで完璧に出来なくても、『自分は未熟者ですが
やる気はあります、チャンスをください』と真心をこめて、
論理的に言えばいいんだ・・!」
マサアキは涙を浮かべながら去っていった
・・・3年後
ナオキは追い詰められた
今度は路地裏だ
ビルとビルの間の抜け道、ここに潜んでやり過ごすか
しかし警官たちが迫ってくる様子が、足音が、
右を向いても左を向いても聞こえてくる
チッ、閃光弾は午前中に使いきっちまったし、
マキビシも殆ど残ってない、かといって強行突破は最困難
自爆装置を作動させるか?
だがここでやったら住民たちにも被害が及ぶ
「こっちだーッ!」
警官たちは挟み撃ちにすべく通路に駆け込んできた
ナオキの姿はどこにもなかった
「あんたは・・・!!」
「ナオキくんと言ったね、これで借りは返したよ」
ナオキを背後から裏口に引きずり込んだのは、
あの日のシューカツ生・マサアキだった
ここは彼の店であり、研究所だという
「これはすごい!!」ナオキが目を輝かせた
あたり一面にバラエティ豊かなダッチワイフが陳列されている
ここは彼が経営するダッチワイフショップなのだ
「あの後・・結局シューカツに失敗した僕は、
フリーター生活、ニート生活に突入することになった・・
その寂しさと悔しさと怒り、悲しみの滝壺で翻弄されながら、
書物と格闘し、風が運ぶ孤独達に耳を傾けた、
するといつしか自分の声が聞こえてきた」
マサアキにとって、それはダッチワイフだったという
ダッチワイフの中には幼女の形態もあって、
設定上は18歳だというがグレーゾーンではある、
しかしマサアキには覚悟がある
「性は人類の宿痾だ」
マサアキはダッチワイフ(ラブドール)に大いなる可能性を
見出しているという
「本当に役に立つことは褒められたりしない、
世の中には、特に男には、色々な宿命があって、
生身の女性とどうしても向き合えない人もいる」
そういってからナオキを見た
「危険と隣り合わせの特殊任務を背負っている人も、
きっといるのだろう」
ナオキは一瞬だけニヤリとした、一瞬だけ
警官が聞きこみにやってきたが、
マサアキとスタッフたちは知らぬ存ぜぬで通しぬいた
喧騒が収まるまでナオキはここで匿われ、
その間マサアキおよびスタッフたちと熱いダッチワイフ論議を
交わして非公式ではあるがアドバイザーにおさまった後、
堂々と表から出て行った