~覚醒の瞳~
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
頭が痛い!割れそう・・・!
リラは叫び声を上げた。しかし、まるで自分の体が金縛りにあったように動かない。頭を抱えてもがく事もできないのだ。
「ゼリアさん!ゼリアさん!!助けて・・・!!」
どうしてこんな事になったのか、リラにはわからない。ただ、妙に興味を引くような[綺麗な本]を開いた途端にこうなった事しかわからないのだ。
「なっ!?リラ!!」
意識の片隅で、ゼリアの声が聞こえた。
無意識のうちに声のする方へ手を伸ばしていた。
「リラ、今助けるからな!」
ゼリアは、リラとリラが抱き抱えている本に鎖をかけ、小瓶に入った透明な液体をリラに振りかけた。
『神よ、我等が守護神よ、我の願いを聞き届け、この我が愛しき者を救いたまえ!!我が契約の神、エデンの名のもとに!!』
リラにかかった液体が銀色の光を放ち始め、やがて光が収まる頃には、リラは苦しみから解放された。
「ゼリア・・・これは一体どうゆう事だ・・・?」
ケイは、ぐったりとしたリラを抱き抱えるゼリアに問いかけた。目の前でたった今まで起こっていた出来事は、通常ありえない事なのだから。
ゼリアは震え声で呟いた。
「わからない・・・だが、もしリラが・・・なら・・・しなくては・・・」
その声は小さくケイには所々聞き取れなかったが、それでもかなり重大な事である事は理解できた。
何故なら、ゼリアがこんなにも取り乱す事など長い付き合いであるケイも見たことがなかったからだ。
「・・・まさか、この子が君が追い求めていた存在なのかい?」
ケイの問いに、ゼリアはゆっくり頷いた。震える声でゆっくりと答えた。
「あぁ・・・まさかこんなに近くにいるなんて・・・〈聖典の継承者〉様・・・」
ゼリアは、呆然とリラの抱き抱えていた本を見つめた。指先でその本のタイトルと思われる文字をなぞった。
「私は守らなければならない・・・リラのことを、継承者様のことを・・・」
ゼリアは元々、遥か南の〈聖地〉と呼ばれる地の民の村で育った人間であった。
その地にある神殿の神官として、〈エデンの聖典〉の回収を命じられていたのだ。
「ケイ、頼みがある・・・聞いてくれるな?」
ゼリアは真っ直ぐな目でケイを見つめた。
「今のリラには、聖典の力を抱え込める程の器がない。このまま私と旅を続ければ、またこうして聖典に触れることもあるだろう・・・そのときは、リラが命を落とすかも知れない・・・だからケイ・・・」
ケイはただじっとゼリアを見つめた。
「この子を、リラをここで育てて欲しい・・・」
ケイは驚かなかった。長年の付き合いと、勘のおかげで、彼女が何を言うのかはわかっていたからだ。
「僕は構わない。だけど彼女はどうなる?おそらく受け入れない・・・」
そこでゼリアは首を振る。
「勿論わかっている・・・だからこうするんだ」
ゼリアは目覚めないリラの額に、指先を当てた。
「我の願いはこの者の忘却なり、この者の記憶を白の彼方へ消しされ・・・・」
呪文と共に、リラの体が白い光を放ち始めた。これは、リラがリラじゃなくなる証であった。
「これでリラの私との記憶は封印して、新しい偽物の記憶を刻んだ・・・当然私はまたここに戻ってくるつもりだが、もし私が10年経っても帰って来なかったなら、そのときは・・・・」
ケイが彼女の姿を見たのは、記憶の中ではこれが最後であった・・・