第十話 会議は踊るされども進まず
大変長らくお待たせいたしました!
久しぶりすぎて話を忘れてしまった方が大勢だと思うので、ここに簡単なあらすじを書きたいと思います。
舞踏会から一月後、アームルメイデンで王権争いが熾烈化する中でアクア達は一週間後に迫った"流星祭"に向けて準備をしていたのだが、ある日クラスメイトの一人であるエディ・ナーシャが現在国を騒がす暴動の主犯格、エルディナ王子として騎士達に捕えられてしまう。しかし、彼を捕まえた騎士団団長が部下に斬りつけられ、エディと彼を助けに来たアクアは騎士殺しの濡れ衣を着せられてティルフォンから逃亡した。二人の無実を信じるメア達は二人を助けるためにその行方を探し、それぞれで独自の調査を行った。
今回はその結果発表でございます。
~モノローグ~
少年は円卓に座る仲間達を見回す。
彼が幼少の頃より世話をしてきた騎士隊長は目を深く閉じて何事かを思案しており、尊敬する銀髪の青年騎士は鋭い双眸に憂いを宿して、俯いている。
その他の騎士や魔導士達も似たようなもので、部屋は重たい空気に包まれていた。
部屋の扉がノックもなしに開き、銀色のローブを身に纏った女魔導士が入ってきた。
全員の視線が殺到する中、彼女は淡々とした声音で報告をする。
「五日前に東の村へと遠征に行った部隊は全滅したそうです。村人達のほとんども虐殺されていました」
空気がより一層重くなる。少年が溜め息を吐いた。
「兄上は王座を奪還することに必死で周りが見えていないようだな。これでは、多くの罪なき民たちが危険に晒される」
「長く続く王権争いによって民の心は疲弊しています。凶作も続き、王政への不満を持つ者も増えてきています」
「兄上様だけでなく、国民による革命軍の動きも活発化していて、国中戦火の嵐です」
若い騎士の二人が途方に暮れた顔で少年を見つめる。
銀髪の騎士が視線を落としたままよく通る声で魔道士に聞いた。
「魔女よ、このままいくとお前の予言通り、国は滅ぶのか?」
銀色のローブをはためかせながら魔導士は頷く。
「ええ。しかし、まだ遅くはありません。あなたのご決断次第で未来はどの方向へも変えられます。それと、わたくしは魔女ではありませんよ?」
銀髪の騎士に非難めいた視線を送ると魔導士は少年をじっと見据える。
それは、移り変わる時代を見守る賢者のような眼差しだった。
自分の一言が、この国の行く末を変える。そんな重圧が少年の肩に重くのしかかった。
しかし、少年に注がれる暖かな眼差し達がそんな重りを共に支えてくれた。
その暖かさを感じながら少年はこの先の未来を変える決断を、下した。
「私はこの争いを止めるため、約束の鐘を鳴らしに行く。……皆、私に手を貸してくれ!」
少年の透き通るような力強い声が部屋に響き渡る。それは悲嘆にくれる少年ではなく、威厳ある王者の声だった。
騎士や魔導士達は一斉に方膝を付き、頭を下げた。
その瞬間から歴史は大きく変わることとなったのだ。
~本編~
二日後、五人は町の奥にあるティルフォンを治める領主の住むラカリエール邸へ集合した。
ラカリエール家執事のマルクが入れた紅茶の香りが部屋を満たす。
ラカリエール家令嬢こと、ソフィア・ラカリエールが頃合いを見計らって口火を切った。
「それで、二人の居場所はわかったの?」
その場にいた全員の視線がミユに注がれる。
ミユは眉間に皺を寄せて首を振った。
「何一つ情報が得られなかった。ごめん……」
誰かの溜め息が漏れた。メアは労いの言葉を掛けながらリュウト達に尋ねる。
「リュー達の方は?」
「数人の商人に聞いてみたが、二人を見かけた奴らはいなかった」
リュウトが首を振る。ハルティアとユナも同じようなもので収穫が一つもなかった。
ソフィアの父親であるイージス・ラカリエールが肩を竦める。
「こちらも、あちこちに探りを入れてみましたが……さすがと言うべきか、手掛かりらしきものはありませんでした」
手掛かりは何一つなしか……。メアはため息を堪えてちらりと隣を見た。ミユが発言した時からずっと険しい顔で俯いていた。
一つも情報が得られなかったことを悔しく思っているのだろうと思い、メアはその肩に手を置いた。「ミユ、あんまり気にしちゃ」
「イージスさん、一つ聞いてもいいですか?」
イージスは少し驚きつつも紅茶のカップを置いてミユに向き直った。「何ですか?」
ミユの双眸が見たこともないほど険しく細められていたので、彼を含めメア達も固唾を飲んで彼女の次の言葉を待つ。
ミユは言葉を選ぶように数秒目を瞑ると、意を決して口を開いた。
「前に、エルディナ王子派であるどこぞの貴族連中が一斉に暴動を起こしたって事件がありましたよね? その連中が具体的に誰だったかってわかります?」
イージスは考え込むように瞳を伏せた。何十秒かの沈黙の後、再び目を開ける。「すみませんが、わかりません」
ミユは一度、大きく深呼吸をした。今、彼女の心臓は警鐘を鳴らす早鐘のように打っていた。
「んじゃあ、王宮内でエルディナ王子を支持していた人達って具体的に誰かわかります? もしくは、その人たちが今どうしているかとかは」
「…… ……わかりません」
「それじゃあ、現在エルディナ王子派に属している貴族を誰でもいいですから言ってください」
イージスの顔が段々と険しいものになっていった。
ミユは自分の予想が外れていてほしいと願いながら彼を見据えるが、結果はもうわかっていた。
何十秒経っても口を開かない彼を見上げて溜め息を吐く。
「誰もわからないんですね?」
イージスは無言で頷いた。その時、遂にリュウトが痺れを切らした。
「おい。俺たちにもわかるように説明してくれ」
「何かわかったの?」
イージスとミユのただならぬ表情に不安を抱いたハルティアが眉根を下げる。
ミユは冷や汗を頬に浮かべながら言った。
「誰一人として、エルディナ王子派の名前がわからないんだよ」
「それは、しょうがないことじゃないの?」
ユナが不思議そうに首を傾げた。
しかし、すぐにマルクが首を振って否定する。
「各地で暴動を起こした貴族の誰一人として名前がわかっていないのです。エルディナ王子派に臣下の誰が関っているのか、それすらもわからないなんてありえないことですよ」
「暴動が今までろくに沈静化されなかったのも、主犯格が具体的に誰かがわかっていなかったからなんです。一般にエルディナ王子派と呼ばれる連中は黒いローブを実に纏っていて、王宮はそれを目印としていましたから。誰の顔もわからないんです」
聞いていたメアの背中に悪寒が走った。何か、得体のしれない恐怖が震えとなって彼女の全身を襲う。
ミユは目を伏せ、とんでもない爆弾を落とした。
「これはうちの推測でしかないんだけどさ。エルディナ王子派なんて本当はいないんじゃないの?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! それじゃあ、舞踏会の事件は誰が起こしたの? 襲ってきた人達は? それよりも、現在暴動を起こしているのは一体、誰なの!?」
ハルティアはあまりの驚きに立ち上がった。リュウトやソフィアも呆然としたようにミユを凝視する。
「誰なのかはわからないよ。でも、舞踏会の件にしても暴動にしてもエルディナ王子派の仕業にしては、不自然な点が多すぎるんだよ。何というか、詰めが甘い」
「そうですね。本当にエルディナ王子が王位を取るために暴動を起こしていたのだとすれば、一度くらい王都で何か事を起こしているはずです。先日の舞踏会の件がそれだとは、少し手段を選ばなさすぎです。貴族達を説得するならともかく殺しては意味ありませんから」
ミユの疑問にマルクが同意を示すと、リュウトとソフィアは閉口した。さらに追い打ちをかけるようにイージスが口を開く。
「私も、前々からエルディナ王子派には疑問を感じていました。第一、王子の姿さえここ数年、誰も見たことがなかったのです」
イージスは彼女たちが普段見たこともないほど険しい目つきで空中を睨んだ。同時にメア達は姿の見えない何か大きな存在に戦慄した。
「てか、エディはそもそも何でティルフォンにいたわけ?」
単にティルフォンが王都から離れていたからというだけかもしれないが、メアにはそれだけだとは思えなかった。
「いや、それよりも。エルディナ王子というか、エディとアクアは今どこにいるの?」
ハルティアの疑問にシーンと場が静まり返る。
そもそも、今日は二人の居場所を特定するために集まったのだ。彼女の意見はもっともだった。
エルディナ王子派がミユの言うとおり存在しないとなると、彼女達が仮定していたエルディナ王子派の所というのはなくなる。
そうすると、話はまた最初に戻ってしまう。
ユナは青く澄み渡る空を見上げて、今なお国中の騎士から逃れているであろう二人に思いを馳せた。
エディ、アクア、二人は今どこにいるの?




